トップ2017年・犬ニュース一覧7月の犬ニュース7月3日

犬の皮膚細菌叢は個体差が激しい

 犬の皮膚細菌叢は個体の特性、体の部位、犬種によって異なる分布様式を示すことが明らかになりました(2017.7.3/スペイン)。

詳細

 調査を行ったのは、スペイン・バルセロナ自治大学のチーム。皮膚に棲息している微生物の総体(皮膚細菌叢)が一体どのような因子によって影響を受けているのかを確かめるため、異なる犬種に属する合計9頭の犬を対象とした調査を行いました。対象となったのは、アトピー性皮膚炎を発症しやすいとされるフレンチブルドッグジャーマンシェパードウェストハイランドホワイトテリア各3頭ずつで、生活環境(都市部~郊外)や年齢(3ヶ月齢~12歳)はバラバラです。 犬の皮膚細菌叢サンプル採取部位  顎、耳介の内側、鼻の中、脇の下、背中、腹部、指の間、肛門周辺という8ヶ所から綿棒で微生物サンプルを採取して構成を調べた所、操作的分類単位(OTU)が2,092種、門(phylum)が20種、綱(class)が51種、目(order)が69種、科(family)が132種、属(genus)が245種が見つかったと言います。その他の発見は以下です。
犬の皮膚細菌叢の特徴
  • 全体✓すべての部位をひっくるめて最も多く見られたのはプロテオバクテリア門(1~73%)、フィルミクテス門 (3~93%)、フソバクテリウム門 (0~58%)、バクテロイデス門(0~69%)、アクチノバクテリア門 (0~35%)
    ✓ほとんどの皮膚部位はプロテオバクテリア門とフィルミクテス門を最も多く含んでおり、全体の55%占めていた
  • 部位別✓微生物の構成が最も異なっていたのは肛門周辺
    ✓均等度が大きく異なっていたのは肛門周辺と耳介内側
    ✓顎ではバクテロイデス門とポルフィロモナス科が多く見られた
    ✓背中ではアクチノバクテリア門が多く見られた
  • 犬種別✓フレンチブルドックでは鼻の中のネリクテス門、脇の下のバークホルデリア科とバシラス科、背中と顎のゴルドニア科が多く見られた
    ✓ジャーマンシェパードでは脇の下の皮杆菌科、指間のコリネバクテリウム属が多く見られた
  • 機能別✓耳介では「細胞処理」、「細胞死」、「シグナル変換」に関わる微生物が多い
    ✓肛門周辺では「炭水化物の代謝」、「グリカンの生合成と代謝」、「ヌクレオチドの代謝」に関わる微生物が多い
    ✓顎では「遺伝情報処理」、「遺伝情報の複製・修復・翻訳」に関わる微生物が多い
    ✓背中では「薬物動態の生分解と代謝」、「脂質の代謝」、「テルペノイドとポリケチドの代謝」に関わる微生物が多い
 皮膚細菌叢の構成を変化させていた要因は、影響力が強い順に「個体の特性>採取部位>犬種」だったと言います。微生物を機能分類で見たときの個体差は小さかったものの、生物学的分類で見たときの個体差がかなり大きかったため、「犬における正常な皮膚細菌叢」というものを確立することは、現時点では困難とのこと。皮膚疾患と細菌叢の関連性を調べる際は、患犬と健常犬を比較するのではなく、発症前の患犬と発症後の患犬を比較しなければ、正確な因果関係を検証できないと考えられています。
Individual Signatures Define Canine Skin Microbiota Composition and Variability.
Cusco A, Sanchez A, Altet L, Ferrer L and Francino O (2017) Front. Vet. Sci. 4:6. doi: 10.3389/fvets.2017.00006

解説

 人間を対象として過去に行われた調査では皮膚細菌叢の主なものはアクチノバクテリア門、フィルミクテス門、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門だとされています。一方、犬を対象として過去に行われた調査と今回の調査では、共にプロテオバクテリア門とフィルミクテス門がメインの細菌であることが確認されました。一緒に生活している人間と犬とでは皮膚細菌叢を共有するようになるといいますので、犬の皮膚細菌叢が人間の皮膚に移ってコロニーを形成する(あるいはその逆)という目に見えないルートがあるのかもしれません。
 人間の皮膚においては微生物生息域が3つに分けられ、それぞれにおいて特徴的な細菌叢が見られると言います。具体的には、皮脂を分泌する部位(後頭部 | 眉間 | 鼻翼 | 胸骨)のプロピオニバクテリウム属、湿気を含んだ部位(鼻腔 | 脇の下 | 腿の付け根)のブドウ球菌属やコリネバクテリウム属、乾燥した部位(手の平 | 臀部)のグラム陰性菌などです。一方、調査対象となった犬の体は全身が被毛で覆われていたため、人間ほど明確な生息域の孤立化は見られませんでした。その代わり、肛門周辺には消化管の細菌叢、顎には口内細菌叢の影響が強く見られたといいます。
 人間を対象とした調査では、アトピー性皮膚炎、乾癬、尋常性挫創といった皮膚疾患とディスバイオーシス(dysbiosis、細菌叢の構成異常)との間に関連性が見い出されています。また犬を対象とした調査では、アトピー性皮膚炎を抱えた患犬において、バクテリアや菌の減少が確認されたと報告されています。皮膚細菌叢の構成と病気との関連性解明は、今後の大きな課題の1つです。 犬のアトピー性皮膚炎