トップ犬の芸・トリック犬に前足交差を教える

犬に前足交差を教える

 犬の芸・トリックのうち「前足交差」を教える方法を、写真や動画付きで詳しく解説します。

目標動作の模範演技

 以下でご紹介するのは、「前足交差」の完成形です。この動作を最終目標として、犬をしつけていきます。
【動画】犬の前足交差
元動画は→こちら

芸・トリックに必要なもの

 以下でご紹介するのは、犬に芸やトリックを教える際に必要なものです。

条件付けの基本理論

 犬に芸やトリックを教える際は、「犬のしつけの基本理論」で解説した「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」の知識が絶対に必要です。まだあやふやな方は、犬のしつけの基本理論を熟読してマスターしましょう。
 簡単に復習すると以下です。
犬の条件付け
  • 古典的条件付け無関係な二つの刺激を関連付けて覚えること。ごほうびや罰は必須ではない。新たに記憶させたい刺激は、生理的反応の直前に提示する。→より詳しく
  • オペラント条件付けある特定の行動と快や不快を関連付けて覚えること。ごほうびや罰が必要。ごほうびや罰は、新たに記憶させたい行動の直後に提示する。→より詳しく

ごほうび

 犬が快感を感じるごほうびを用意します。罰は必要ありません。
 犬に直接快を与える「一次強化子」としては、犬が大好きで、かつ低カロリーのトリーツを用います。犬に間接的に快を与える「二次強化子」としては、ほめ言葉やクリッカーを用います。クリッカーに関しては犬に対する有効性が科学的に証明されていませんので、煩雑に感じる方はほめ言葉を優先的に使用して下さい。
 またごほうびの効果を高めるため、犬をやや空腹状態にしたほうがベターです。

気の散らない環境

 犬の集中力を高めるため、テレビなど余計な音を消し、おもちゃも片付けるようにします。
 また犬の集中力は10~15分程度が限度です。犬が注意散漫になってきたら、ストレスになってしまう前に、いさぎよくその日のトレーニングは中断します。

犬に前足交差を教える手順

 以下でご紹介するのは、犬に「前足交差」を教える際の具体的な手順です。

フセをマスターさせる

 「前足交差」を教える前に、まずフセをマスターさせておくことが必要です。この状態を基本として、前足を動かすトレーニングへと移行していきます。

片足でターゲットを触らせる

 ある特定のターゲットを決め、犬が左右どちらかの前足でそのターゲットを触ったときだけ、ごほうびを与えるようにします。ターゲットは、プラスチックのフタなど犬が見やすいものが良いでしょう。ここで注意すべきは、決めた方とは逆の足で触っても無視することです。例えば「右足を交差させる」と決めた場合は、犬が右足でターゲットを触ったときだけごほうびをあげるようにします。 まず、どちらか一方の前足で特定のターゲットを触るとごほうびがもらえる、という記憶を強化する
しつけポイント  このステップは「片足でターゲットを触る」という行動と「ごほうび」という快感を結び付ける「オペラント条件付け」です。ごほうびは、決めた方の片足でターゲットを触った瞬間に与えるようにします。

ターゲットをずらす

 犬がターゲットに触ることに慣れてきたら、今度はそのターゲットを、床につけている前足の向こう側に置いてみましょう。こうすると、犬はごほうびをもらうために自分の片足を超えてタッチしなければならなくなります。つまり「前足を交差する」という動作が、自然と誘発されるのです。 ごほうびスイッチの位置をずらすことで、前足を交差するという動作を擬似的に再現する
しつけポイント  このステップは「足を交差してタッチする」という行動と「ごほうび」という快感を結び付ける「オペラント条件付け」です。ごほうびは、足を交差してタッチした瞬間に与えるようにします。

指示語と行動を関連付ける

 犬が「足を交差してタッチする」という動作と「ごほうび」とを関連付け、スムーズに行動に移れるようになったら、今度は犬が足を交差してタッチする直前に、「クロス」など、任意の指示語を発します。犬が事前の訓練通り足を交差してタッチすることができたらごほうびを与えます。
 この練習を繰り返し、飼い主の「クロス」という指示語だけで犬が足を交差してターゲットにタッチするようになったら成功です。
しつけポイント  このステップは「クロス」という指示語と「足を交差してターゲットにタッチする」という行動を結び付ける「古典的条件付け」です。指示語は、足を交差してタッチする直前に発するようにします。

ターゲットをなくす

 犬が指示語を覚えたら、今度は今までタッチする対象として利用していたターゲットをなくしてみましょう。犬に指示語を出し、ターゲットが無くても今まで通り足を交差してくれたら成功です。もしキョトンとして何もしてくれないようでしたら前のステップに戻り、動作と指示語の結びつきをもう一度強化します。 ごほうびスイッチを取り除き、前足を交差するという動作自体がごほうびのスイッチになったことを教える
しつけポイント  このステップは「足を交差する」という行動と「ごほうび」という快感を結び付ける「オペラント条件付け」です。ごほうびは、足を交差した瞬間に与えるようにします。

指示語の直前にシグナルを見せる

 犬が「クロス」という指示語を完全にマスターしたら、次は指示語を発してごほうびを与える直前に「右足を前に出す」など任意のシグナルを出してみます。指示語とシグナルを同時に教えるよりも、いったん「クロス」という指示語を完璧にマスターしてからシグナルを教えた方が効果的です。犬が足を交差してくれたらごほうびを与えます。 飼い主が足を交差することと、犬の前足交差を連動させる
しつけポイント  このステップは「右足を前に出す」という視覚的刺激と「クロス」という聴覚的指示語を結びつける「古典的条件付け」です。シグナルは、指示語の直前に提示するようにします。

指示語やシグナルだけを出してみる

 上記しつけを一通り終えたら、最後の仕上げとして指示語とシグナルだけを出してみます。「クロス」と言ったとき、犬が自発的に足を交差をしてくれたら成功です。「指示語だけ」、「シグナルだけ」、「場所を変えて」など、徐々にハードルを上げて試してみましょう。
 もしキョトンとして何もしてくれないようでしたら、まだ行動と指示語のリンクが足りません。指示語と行動を関連付けるに戻り、もう一度古典的条件付けをやり直します。
 また、床に付けたまま動かさなかった方の前足も、同様の手順でトレーニングすることができます。ただしその場合は、指示語を「スイッチ」にしたり、シグナルを「左足を前に出す」など、必ずもう一方の足とは別のものに変えてください。こうしないと犬が混乱してしまいます。
「前足交差」の教え方
 以下でご紹介するのは、犬に「前足交差」(cross paw)を教えるやり方をまとめた動画です。英語ですが、内容は上で解説したとおりに進行します。犬が指示語とシグナルを完璧にマスターすると、飼い主の足の動きに合わせ、あたかも犬がダンスしているかのように見えます。 元動画は→こちら