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ピーカンナッツ~安全性と危険性から効果まで

 ドッグフードのラベルに記された「ピーカンナッツ」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

ピーカンナッツの成分

 ピーカンナッツ(pecan)とはクルミ科の落葉高木およびその種実のことです。ペカンなどとも呼ばれます。果実は長さ約4cmの楕円形で、成熟すると外皮に包まれた種子が落下します。 ドッグフードの成分として用いられる「ピーカンナッツ」  種実のおよそ70%が脂質で構成されており、味は苦味を抜いたクルミに似ています。生のまま食べることもできますが、ピーカンパイなどのスイーツとして用いられることの多い素材です。また焙煎したナッツに加熱した砂糖を和えてカラメル化した「プラリネ」 (Praline) と呼ばれるお菓子の原料としても有名です。
 日本国内では褐色を呈する「ペカンナッツ色素」が厚生労働省によって既存添加物として認可されています。定義は「クルミ科ピーカン(Carya pecan)の果皮または渋皮より抽出・中和して得られたフラボノイドを主成分とするもの」で使用基準は特に設けられていません。
 ラットを対象とし、餌の中に0.5%、1.5%、5.0%の割合で色素を混ぜて90日間に渡る給餌試験を行った結果、無毒性量は体重1kg当たり1日1,287mg(オス)~1,344mg(メス)と推定されています出典資料:厚生労働省食品化学情報

ピーカンナッツは安全?危険?

 ピーカンナッツを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはピーカンナッツに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

ナッツ(木の実)アレルギー

 ピーカンは果実部分であれ外皮部分であれナッツアレルギーを引き起こす危険性があります。ドッグフードにどちらかが用いられている場合、犬にもアレルギー症状が出てしまうかもしれません。
 ナッツアレルギーとは木の実全般に対して免疫系が過剰反応を示してしまう体質のことです。2015年から2016年にかけアメリカ国民40,443人を対象として行われた大規模なアンケート調査(複数回答あり)によると、木の実に対してアレルギーを抱えた人の割合が全体で1.2%おり、クルミが0.6%、アーモンドが0.7%、ヘーゼルナッツが0.6%、ピーカンが0.5%、カシューナッツが0.5%、ピスタチオが0.4%という内訳だったといいます出典資料:Gupta, 2019ナッツアレルギーになりやすい木の実一覧~クルミ・ヘーゼルナッツ・ピスタチオ・カシューナッツ  ナッツアレルギーでやっかいなのは交差反応です。これは複数の木の実に対して同じようにアレルギー反応が出てしまうことで、クルミでアレルギーが引き起こされる人がカシューナッツでも引き起こされるなどの状態を指します。こうした危険性があることから、アメリカでは「食品アレルゲン表示消費者保護法」(FALCPA)によって、商品の中に意図的に木の実を入れた場合はその旨を表示しなければならないと義務付けられています。またEUでも同様の法律があります。
 日本でも食品表示法により、容器包装された加工食品に特定原材料が含まれている場合はその旨を表示しなければならないとされています。具体的には表示義務品目がえび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生。表示努力義務品目がいか、いくら、オレンジ、カシューナッツなどです。また2017年に行われた即時型食物アレルギーに関する実態調査により、特に幼児におけるナッツ類(木の実類)のアレルギーが増えていることが判明したため、2019年9月からはアーモンドが表示努力義務項目として加えられました。
 木の実アレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)は完全には解明されておらず、果実だけでなく外皮にも含まれている可能性があります。例えばカシューナッツにアレルギーを抱えている人が、ナッツの外皮から抽出したオイルにも反応してしまうなどです。ピーカンも例外ではなく、果実と外皮の両方にアレルゲンを含んでいる可能性が示されています出典資料:Joyce, 2006
 犬が木の実に対してアレルギー反応を示すことは実験的に確認されていますので出典資料:Teuber, 2002、ドッグフードに入っているほんのわずかなピーカンナッツに反応して腸疾患(下痢・軟便)や皮膚炎と言った症状を示してしまう危険性は否定できないでしょう。

腸内細菌叢の改善効果?

 ヒルズの依頼を受けた調査チームは39頭の犬を対象とし、構成の異なる食物繊維群が犬の腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすかを検証しました。比較対照フードに含まれる繊維は粗挽きパール大麦、全粒トウモロコシ、全粒オーツ麦、セルロースで、テストフードに含まれる繊維はこれらにピーカンの外皮(粉末)、フラックスシード、ビートパルプ、乾燥した柑橘類の果実、圧縮クランベリー、乾燥かぼちゃ、サイリウム、ショウガの根を加えたものです。
 それぞれのフードを4週間ずつ給餌し、試験終了後のタイミングで便サンプルを採取して中に含まれる細菌叢を調べたところ、テストフードを給餌後は便中の酢酸濃度が増加し、腐敗性の代謝産物(イソ酪酸・2-メチル酪酸・3-メチルブタン酸など)の濃度が減少したといいます。腸内細菌叢の構成を評価した結果、酢酸塩や乳酸を産生するバクテロイデス科とフィーカバクテリウム属が増え、逆にレンサ球菌とエンテロコッカス属が減っていることが判明したとも。対照フードを給餌されていた期間と比較した場合、ブタン酸・フェニールアラニン・チロシンの代謝回路に明白な違いが見られました。
 調査チームは糖分解による発酵性の増加と腐敗性代謝物の減少から考え、犬の腸内環境が改善した可能性が高いとの結論に至りました出典資料:Fritsch, 2019

下痢や軟便の改善効果?

 ヒルズの調査チームは39頭の犬を対象とし、食物繊維にピーカンを含んだテストフード(上記参照)と、食物繊維群としてセルロース、米糠、ビートパルプ、サイリウム、フラクトオリゴ糖を含んだ別のフードとを比較してみました。その結果、ピーカンを含んでいるフードの方が腐敗性代謝産物やアンモニアの生成量が少なく、逆に糖分解の代謝産物が多かったといいます。さらに植物由来の抗酸化物質と抗炎症物質(ヘスペレチン・ポンシレチン・リモニン・シネンセチン・ナリンゲニン・ジオスメチン・エリオジクチオール・ナリルチン)の濃度が高かったとも。
 こうした結果から調査チームは、特定の食物繊維群が腸内細菌叢を活性化し、炎症性の腸疾患に対する改善効果を示すかもしれない可能性を示しました。ちなみに便スコア(ゆるさ)でも改善が見られたそうです出典資料:Fritsch, 2019
ピーカンの種皮はヒルズのプリスクリプションダイエット腸内バイオームに含まれている成分です。「軟便の改善をサポート」とか「腸内の善玉菌を増やし腸内フローラを改善」といった宣伝文句の科学的根拠は上記した報告だと考えられます。フローラに関しては「犬の腸内細菌叢」でも詳しく解説してあります。