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α(アルファ)リポ酸~安全性と危険性から効果まで

 ドッグフードのラベルに記された「αリポ酸」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

αリポ酸の成分

 αリポ酸(lipoic acid)は細胞のミトコンドリア内においてエネルギーの産生やアミノ酸の代謝を助けている補因子(酵素の触媒活性に必要なタンパク質以外の化学物質)の一種。脂肪酸の合成過程でカプリル酸(オクタン酸)から生成されます。動物の体内では腎臓、心臓、肝臓に豊富に存在し、また植物ではほうれん草、ブロッコリー、トマト、えんどう豆に多く含まれています。頭の「α」は酸化体である「βリポ酸」と区別するための目印です出典資料:オレゴン州立大学ドッグフードの成分として用いられる「αリポ酸」  体にとって重要な役割を担っていますが、体内で合成することができますのでいわゆる「ビタミン」とは区別され、「ビタミン様物質」などと称されます。細胞内における役割は多く、一例を挙げるとフリーラジカル(活性酸素)の減少、細胞のグルコース取り込み促進、細胞内におけるグルタチオンの濃度を高めてデトックス効果を高めるなどがあります。
 日本では「チオクト酸」(※αリポ酸の別名)が医療用医薬品として認可されており、成人の場合は1日1回10~25mgを静脈・筋肉・皮下に注射して使用する」という用法・用量が設定されています。一方、食品としてのαリポ酸は「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に指定されており、健康に関する何らかの効果・効能を標榜しない限り自由に使うことができ、使用基準も定められていません。
 また海外ではJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)でもEFSA(欧州食品安全機関)でも一日摂取許容量(ADI)や使用基準は設定されておらず、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性も確認されていません。
αリポ酸の安全性情報・概要
  • 厚生労働省=食品(チオクト酸は医薬品)
  • IARC=発がん性なし
  • EFSA=使用基準なし
  • JECFA=使用基準なし
  • ペットフード=使用基準はないが猫には不可

αリポ酸は安全?危険?

 αリポ酸を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 臨床上健康な犬27頭に対し、体重1kg当たり2.5mg~25mgのαリポ酸を絶食12時間後にカプセル、食事とともにカプセル、フードの中に混餌などさまざまな形で給餌しても、吸収率(血中濃度)に違いは見られたものの急性の副作用や有害反応は見られなかったとしています出典資料:Gross, 2008。また30頭のビーグル犬をランダムで5つのグループに分け、αリポ酸を0、150ppm、1500ppm、3000ppm、4500ppm(※1ppmは1kg中に1mgの濃度)という割合で含んだフードを6ヶ月間に渡って給餌したところ、4500ppmグループを除いて血液組成や生化学検査値に異常は見られなかったとも出典資料:Zicker, 2002
 その一方、人間用のサプリメントを誤飲して大量摂取すると、中毒に陥ってしまうようです。1粒300mgのαリポ酸を含んだ人間向けのサプリメントを誤飲し、体重1kg当たり推定191mgを摂取した31.4kgの犬の症例では、7~10時間後に急性肝障害の兆候を見せたといいます。 また人間用のジェルを大量に誤飲し、体重1kg当たり推定210mgを摂取した23.9kgの犬の症例では、誤飲直後から食欲不振や嘔吐の兆候を示し、60時間後には乏尿性の腎不全を発症したそうです出典資料:Loftin, 2009
 副作用を引き起こすことなく投与できる薬物の最大用量である「最大耐量」(MTD)はラットが体重1kg当たり635mg、犬が126mg、人が120mgと推定されています出典資料:Hill, 2004

抗酸化作用?

 ペットフード大手「Hill's Pet Nutrition」とカンザス州立大学からなる共同チームは、αリポ酸を含まないフードを15ヶ月間に渡って給餌した後、80頭の犬たちをランダムで20頭ずつからなる4つのグループに分け、αリポ酸の含有量に「0ppm」「75ppm」「150ppm」「300ppm」という違いを設けた上で6ヶ月間の給餌試験を行いました。
 その結果、体重1kg当たり1日1mgのαリポ酸を摂取した場合、赤血球溶解物中のグルタチオンが0.05 ng/mLの割合で増加することが明らかになったといいます。また6ヶ月経過時点の赤血球溶解物に関しては、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、総合グルタチオンのすべてが統計的に有意なレベルの増加を見せました。
 こうした結果から、少なくとも妊娠・授乳期にない犬においてはαリポ酸が体内でグルタチオン濃度を高め、内因性の抗酸化作用につながるのではないかと推測されています出典資料:M.Anthony, 2021

白内障の予防効果?

 イギリス・ケンブリッジ大学は糖尿病を抱えた犬30頭をランダムで2つのグループに分け、一方(平均9.1歳)には体重1kg当たり1日2mgのαリポ酸を、他方(平均10.2歳)にはプラセボとしてビタミンC5mgとトコフェロール2IUを給餌し、月に1回のペースで眼科検診を行いました出典資料:Williams, 2017。その結果、白内障を発症するまでの期間に関し、αリポ酸グループが290日だったのに対し抗酸化ミックスのグループが162日だったといいます。また水晶体に白濁が見られるまでの期間に関し、αリポ酸が240日(3頭だけ発症)で比較グループ(8頭が発症)が148日だったとも。
 アルドース還元酵素が水晶体の中でソルビトールと呼ばれる糖アルコールの生成を阻害することで糖尿病性白内障の発症を遅らせたのではないかと推測されています。

認知症の予防効果?

 カナダ・トロント大学の調査チームは若齢犬と老犬を対象とし、抗酸化物質とミトコンドリア補因子を含むサプリメントが認知機能や学習能力に及ぼす影響を比較しました出典資料:Milgram, 2002
 実験に参加したのは24頭の老犬(オスメス12頭ずつ)と17頭の若齢犬(オス6頭)。老犬グループをランダムで2つのグループに分け、12頭(平均10.07歳)には抗酸化物質とミトコンドリア補因子を含むサプリメントを添加したフード、残りの12頭(平均10.51歳)には何も添加しないノーマルフードを給餌しました。また若齢犬も同様にグループ分けし、9頭(平均3.28歳)に添加フードを、残りの8頭(平均2.98歳)には無添加フードを給餌しました。
 サプリメントの内訳は以下です。なおポマスとは絞りカスのこと、1ppmは1kg中に1mgの濃度という意味です。
特製抗酸化サプリ
  • L-カルニチン=300ppm
  • DL-αリポ酸=150ppm
  • DL-αトコフェロール酢酸エステル=1550ppm
  • タウリン=1095ppm
  • ビタミンC=100ppm
  • ほうれん草=1%
  • トマトポマス=1%
  • ブドウポマス=1%
  • 柑橘類ポマス=1%
  • ニンジン顆粒=1%
 それぞれのフードを6ヶ月間給餌した後、両グループを対象として認知機能の指標となるランドマーク弁別学習(特定の目印に最も近い方のコースターを選ぶとご褒美がもらえる)を施したところ、若齢犬グループにおいては食事内容によって成績に差は見られなかったものの、老犬グループにおいては添加フードを給餌されていた犬たちの方が統計的に有意なレベルで好成績を収めたといいます。
 代謝が激しい脳内ではフリーラジカル(活性酸素)が発生しやすく、認知症の原因となるβアミロイドの蓄積を促して認知機能の低下につながるのではないかと推測されています。また抗酸化物質の給餌によって酸化ストレスを軽減すれば、認知機能の低下を遅らせることができるのではないかとも出典資料:Cotman, 2002
 上記した調査は「αリポ酸」だけが含まれていただけでなく、その他の抗酸化物質も多数含まれていました。ですから「リポ酸→認知機能の改善」という単純な因果関係にまとめることはできません。またLカルニチンとαリポ酸だけに焦点を絞った先行調査では、Lカルニチンの短期的な給餌では、逆に空間学習タスクなどにおけるエラー回数が増えたといいます。この傾向はαリポ酸を合わせて給餌することで消えたものの、認知機能の高まりは確認できなかったとのこと出典資料:Christie, 2009
猫の最大耐量は13mgと極端に低く、少量でも肝不全を発症する危険性があります。人間用のサプリメントはもちろんのこと、リポ酸を含んだドッグフードや犬用おやつを猫には絶対に与えないでください。