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コショウ(胡椒・ペッパー)~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「コショウ」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

コショウとは何か?

 コショウ(Piper nigrum)はコショウ科コショウ属に属するつる性植物。一般的には果実を原料として作られた香辛料のことを指します。原産地はインドで、日本へは少なくとも奈良時代(8世紀)には伝来していたと考えられています。 コショウ(Piper nigrum)の未成熟果実と乾燥果実の比較画像  コショウは製造方法により以下の4種類に分けられます。
コショウの種類
コショウの色バリエーション
  • 黒胡椒完熟前の緑色の果実を収穫し、天日干しで乾燥させたもの。ブラックペッパー。
  • 白胡椒赤色に完熟した果実を水に浸して発酵させた後、柔らかくなった外果皮を剥がしたもの。ホワイトペッパー。
  • 青胡椒完熟前の緑色の果実をゆでた後、塩蔵またはフリーズドライ加工したもの。グリーンペッパー。
  • 赤コショウ赤色に完熟した果実を収穫するが、白胡椒とは異なり外皮をはがさずにそのまま塩蔵したものや天日乾燥したもの。レッドペッパー。
 日本では厚生労働省によって既存添加物の「香辛料抽出物」として認可されています。
コショウの安全性情報・概要
  • 厚生労働省=既存添加物
  • IARC=評価なし
  • EFSA=コショウの安全性参照
  • JECFA=使用基準なし
  • ペットフード=データなし

コショウの安全性・危険性

 コショウを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?
 2022年、EFSA(欧州食品安全機関)がコショウ(Piper nigrum)を原料とする3つの添加物に関する安全性評価を行いました。結論だけ記載すると、犬の完全飼料1kg中における含有量が以下の数値以内であれば健康に悪影響を及ぼすことはないだろうとの結論に至っています。
コショウの使用基準(犬)
  • オイル完全飼料1kg中20mgまで
  • 超臨界流体抽出液完全飼料1kg中1.5mgまで
  • オレオレジン完全飼料1kg中14mgまで
 また飲水に添加する場合も、上記使用基準以内であれば大丈夫だろうとの見解を示しています。以下はEFSAが3製品を対象として行った検証の概要です。かなりかいつまんでいますので、詳しい数値等が知りたい方は原文をご参照ください。 Safety and efficacy of feed additives prepared from Piper nigrum L.: black pepper oil and black pepper oleoresin for use in all animal species and a supercritical extract for use in dogs and cats (FEFANA asbl)

黒コショウオイル

 黒コショウオイル(black pepper oil)とは未成熟の黒コショウ果実を乾燥して砕き、水蒸気蒸留にかけて揮発性成分を濃縮したエッセンシャルオイル。全体の50%を超える主要成分は以下で、それ以外は微量成分38種が占めています。ただしすべての製品が同じクオリティとは限りませんので、あくまで目安です。
主要成分(全体の56.3%)
  • β-Caryophyllene=25.6%
  • Limonene=12.5%
  • Sabinene (4(10)-thujene)=9.4%
  • α-Pinene (pin-2(3)-ene)=8.9%
 健康に対する悪影響が示唆されているピペリジンアルカロイド(ピペリン・ピペリジン etc)に関し5バッチから選出した製品を解析した結果、いずれも含有率は0.0005%未満でした。またサフロールに関してはHPLC-UVによる検出限界値以下でした。
 犬の体重を15kg、1日の食事量を乾燥重量ベースで250g、黒コショウオイルの使用レベルを完全飼料1kg中20mgとした場合、オイルに含まれる各種成分を実際どの程度体内に取り込むかがシミュレーションされました。その結果、どの成分に関してもNOAEL(無有害作用量=動物を使った毒性試験において何ら有害作用が認められなかった用量レベル)を少なくとも785で割ったより少ない量しか摂り込まないと判断されました。
 こうしたシミュレーションからEFSAは、犬における黒コショウオイルの使用基準を完全飼料1中20mgまでとの結論に至っています。

超臨界流体抽出液

 超臨界流体抽出法(supercritical extract)とは、臨界温度および臨界圧力を超えた状態の流体を溶媒とし、液体や固体の中にある成分を分離・抽出する技術。主な利点は加熱不要、抽出速度が速い、製品中に有害な溶媒が残留しないなどで、香辛料の抽出(コショウ・ナツメグ・シナモン・クローブ etc)にも応用されています。
 全体の50%程度を占める主要成分は以下で、それ以外は微量成分41種が占めています。ただしすべての製品が同じクオリティとは限りませんので、あくまで目安です。
主要成分(全体の49.2%)
  • β-Caryophyllene=15.1%
  • Limonene=12.2%
  • Sabinene (4(10)-thujene)=10.6%
  • α-Pinene (pin-2(3)-ene)=11.4%
 健康に対する悪影響が示唆されているピペリジンアルカロイドに関しては、ピペリンが0.5~2.0%(5バッチ対象)および0.71~2.14%(追加6バッチ対象)でした。またサフロールに関してはHPLC-UVによる検出限界値以下でした。
 犬の体重を15kg、1日の食事量を乾燥重量ベースで250g、超臨界流体抽出液の使用レベルを完全飼料1kg中1.5mgとした場合、抽出液に含まれる各種成分を実際どの程度体内に取り込むかがシミュレーションされました。その結果、黒コショウオイルと共通する成分に関してはNOAEL(無有害作用量=動物を使った毒性試験において何ら有害作用が認められなかった用量レベル)に到底達しないと判断されました。また抽出液に多く含まれるピペリンとその派生成分に関しては、最大でもラットから導き出されたNOAEL(体重1kg当たり1日5mg)を10,943で割った程度しか摂取しないと判断されました。
 こうしたシミュレーションからEFSAは、犬における黒コショウの超臨界流体抽出液の使用基準を完全飼料1kg中1.5mgまでとの結論に至っています。

オレオレジン

 オレオレジン(oleoresin)とは乾燥した黒コショウの未成熟果実に含まれる成分を溶媒で抽出した後、溶媒を濾過もしくは蒸発させて残った半固体状の抽出物。
 すべての製品が同じクオリティとは限りませんのであくまで目安ですが、圧倒的な主要成分はピペリンで全体の20~50%を占めています。その他、各種揮発性成分が15~40%を占めている他、0.1%以上含まれる微量成分が53種、0.1%未満が43種とかなり多様な物質から構成されています。
 成分解析では製造工程においてキャリアとして用いられたプロピレングリコールがGC-MSで2.84%検出されました。また微量ではあるものの水銀、鉛、カドミウム、ヒ素といった重金属のほか、殺虫剤残渣、マイコトキシン、アフラトキシン、ダイオキシン、ダイオキシン様PCBなど数多くの不純物が検出されました。
 犬の体重を15kg、1日の食事量を乾燥重量ベースで250gとした場合、いったいどの程度の黒コショウオレオレジンが許容されるのかがシミュレーションされました。ラットから導き出したピペリンのNOAEL(体重1kg当たり1日5mg)を基準とし、完全飼料1kg中のオレオレジンが14mgを超えないレベルであれば、どの成分も最低MOETが100超を満たすと判断されました。これはどの成分に関しても、安全ギリギリの量をさらに100で割った微量しか摂取されないという意味です。
 こうしたシミュレーションからEFSAは、犬における黒コショウオレオレジンの使用基準を完全飼料1中14mgまでとの結論に至っています。

ピペリンの安全性と効果

 コショウの有効成分として引き合いに出されることが多いピペリン(piperine)に関しては、製品によって含有率にほぼ0~50%という大きなばらつきが見られました。そもそもこの成分は安全なのでしょうか?危険なのでしょうか?

ピペリンの安全性

 ラットを対象とした90日間の給餌試験では1日の平均摂取量が体重1kg当たり0、5、15、50mgになるよう調整されました。その結果、オスにおいて給餌量に比例した血漿コレステロール値の増加があった以外、健康被害は見られなかったといいます。この試験結果からCEFパネルはピペリンのNOAELを体重1kg当たり1日5mgと結論づけています出典資料:CEF Panel, 2015)

ピペリンの効果

 ピペリンが持つ生理作用に関しては2020年、がん、糖尿病、肥満、心血管疾患、加齢、アレルギー、免疫不全、炎症、肝障害に対する包括的なレビューが論文として発表されており、おおむね好意的な結論が述べられています出典資料:Iahtisham-Ul Haq, 2020)
 しかし給餌試験の対象となっているのはほとんどがラットかマウスであり、給餌量も黒コショウなら体重1kg当たり1日250~500mg、ピペリン単体なら20~40mgとかなりの大用量です。
 現時点では、何らかの生理作用が期待できる用量とEFSAが提示する安全使用基準との間で整合性が取れていませんので、ピペリンを大量に含むコショウ製品を犬に与えるのはお控えください。健康を考えて与えたものが、逆に健康を害するという本末転倒な結果を招きかねません。またオレオレジンに関しては微量ながら、重金属、殺虫剤残渣、カビ毒、ダイオキシンといった多くの不純物が含まれている可能性があります。
ラーメンに振りかけるような一般的な粉コショウはオイル製品よりも成分濃度が低いと考えられます。しかしわざわざ犬に与える理由が見当たりませんね。