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小麦~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「小麦」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

小麦の成分

 小麦(wheat)はイネ科コムギ属に属する植物で世界三大穀物の一つに数えられています。成分のおよそ9割は炭水化物に属する「でんぷん」です。残りの1割はタンパク質(6~14%)と脂質(1~2%)で構成されています。ドッグフードの成分として用いられる「小麦」 ドッグフードのラベルでよく見かける一般的な表記例は以下です。
小麦のドッグフードのラベル表記例
  • 小麦最もシンプルな表記例は「小麦」です。しかしどのような加工がなされたのかに関してはわかりません。粒の大きさをはっきりさせるため「ひきわり小麦」「粗びき小麦」「小麦粉」といった表記をしているメーカーもあります。大小関係は「ひきわり小麦>粗びき小麦>小麦粉」です。
  • 小麦グルテン「小麦グルテン」とは小麦粉中に含まれる10%ほどのタンパク質のことです。厳密に言うと、グリアジンとグルテニンが絡み合って形成される弾力性を持ったグルテンと呼ばれるタンパク質(全タンパク質の85%程度)のことを指します。
  • 小麦全粒粉「全粒粉」とは小麦から種皮、胚、胚乳部分を除去しないまま粉にしたものを指します。
  • パン粉「パン粉」とは小麦からいったんパンを作り、そのパンを粉状に砕くことによって得られる成分のことです。エビフライの衣(ころも)部分をイメージすればわかりやすいでしょう。
  • 超高消化性小麦タンパク「超高消化性タンパク」とは消化率が90%以上のタンパク質のことを指します。「消化されないタンパク質含量が少ない」(Low Indigestible Protein)という意味から「L.I.P.」などとも呼ばれます。腸管内にとどまる未消化たんぱく質が減ると発酵が抑えられ、糞便の臭いが少なくなったり軟便を予防できるとされています(※メーカーの主張)。

小麦は安全?危険?

 小麦を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのは小麦に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

小麦の消化性

 犬に小麦を給餌したときの消化吸収率がいくつかの実験で報告されています。例えば以下は小麦を主体としたフードを給餌したときの結果です。「見かけの消化消化吸収率(総消化管)」の方はフィンランドの調査チームが8頭のそり犬を対象とし、小麦シリアルをフードの乾燥重量中30%の割合で含んだフードを2週間に渡って給餌した結果(Kempe, 2004)。「総消化管消化率」の方はイリノイ大学の調査チームが6頭の犬(平均3歳 | 31kg)に対し、小麦由来のでん粉を49.1%含んだフードを給餌したときの結果です(Murray, 1999)
犬の小麦消化吸収率
犬における小麦の消化吸収率一覧グラフ
  • 有機物✓見掛けの消化吸収率=83.5%
    ✓総消化管消化率=88.2%
  • 粗タンパク質✓見掛けの消化吸収率=77.6%
    ✓総消化管消化率=84.9%
  • でん粉(糖質)✓見掛けの消化吸収率=82.2%
    ✓総消化管消化率=99.9%
  • 脂質✓見掛けの消化吸収率=92.2%
    ✓総消化管消化率=93.7%
 糖質、脂質、タンパク質の3大栄養素を、ほぼ80%以上の割合で消化吸収できていることがうかがえます。ただし給餌試験に参加したのは中~大型犬ですので、小型犬で同じ消化吸収率を示すかどうかはわかりません。

食品アレルギー

 犬においては小麦が食事性アレルギーを引き起こしやすい食材と考えられています。
 ドイツミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学を中心としたチームは、1985年~2015年の期間に発表された「食事性アレルギー皮膚反応」(CAFR)をテーマにした研究論文をメタ分析し、アレルギー反応を引き起こしやすい食材が何であるかを検証しました。「給餌」と「除外」という双方向性のアレルギーテストを行った研究に絞って調べたところ、牛肉、鶏肉、小麦、大豆、乳製品がアレルゲンとして最も多く言及されていたと言います。 犬のアレルギーを引き起こしやすい食材トップ5

デオキシニバレノール

 デオキシニバレノール(ボミトキシン, DON)は小麦、大麦、トウモロコシに取り付いて赤かび病を引き起こすフザリウム属菌が産生するカビ毒(マイコトキシン)の一種です。人間や動物が摂取すると急性中毒症状として嘔吐、消化管やリンパ組織への障害、慢性中毒症状として体重減少を引き起こすことが知られています。 赤かび病にかかった小麦とそれを引き起こす「Fusarium graminearum」の胞子(顕微鏡写真)  日本国内では1940年代から50年代にかけ、カビ毒による食中毒事例が相次いだことから、2002年には厚生労働省が小麦1kg中に含まれるデオキシニバレノールについて暫定基準値を1.1mgと定めました。また2017年にはやや基準値を厳しくし、小麦(玄麦)に対する規格基準を1.0mg/kg以下にするのが適切との見解が食品規格部会によって出されています。人間1人当たりの耐容一日摂取量(TDI)は、デオキシニバレノールが体重1kg当たり1μg、ひときわ毒性が強いニバレノールが0.4μgです(※1μg=0.001mg)。
 デオキシニバレノールは犬や猫の嘔吐を引き起こすことが確認されています。フード1kg中にデオキシニバレノールが0、1、2、4、6、8、10mg含まれている試験用フードを作り、給餌試験が行われました(D.M.Hughes, 1999)。その結果、加熱加圧によってフードを成形するエクストルード製法によってカビ毒は影響を受けないことが明らかになったといいます。要するに、原材料が汚染されていたら、そのままペットフードにもカビ毒が移行してしまうということです。
 過去にデオキシニバレノールを食べたことがある犬では、カビ毒に汚染されていない方のフードを選好する傾向が見られました。含有濃度が6mg/kgまでは消化率に影響を及ぼしませんでしたが、犬においては汚染濃度が4.5±1.7mg/kgになると摂食量が減り、8mg/kgになると嘔吐が引き起こされました。
 上記したように犬に対する悪影響が確認されているデオキシニバレノールですが、日本のペットフード安全法では上限値が設定されておらず、汚染濃度の検査も行われていません。その代わり農林水産省は科学的知見を慎重にモニタリングし、場合によっては含有量に制限を設けるかもしれない要注意成分として扱っています。

メラミン

 メラミン(melamine)とはメラミン樹脂の原料になる有機化合物の一種。日本では2007年、ある事件をきっかけとして一躍有名になりました。その事件とは北米において発生した犬と猫の腎不全アウトブレーク(大量発生)です。
 原因をたどったところ、発症した犬猫はすべてカナダのペットフードメーカー「Menu foods」が製造したウェットフードを食べていたことが明らかとなり、さらにフードの原料として使った中国産の植物材料に原因物質であるメラミンとシアヌル酸が含まれていることが突き止められました。具体的には小麦グルテン、コーングルテン、米タンパクです。
 メラミンとシアヌル酸は体内で共存すると結晶を形成して尿細管で目詰まりを起こし、急性腎不全を引き起こす危険な成分(Dobson, 2008)。中国はタンパク質含有量が多いと見せかけるための「上げ底」として意図的に添加していました。つまり腎不全アウトブレークは人間がメラミンを介して起こしたものだったのです。 メラミンとメラミン樹脂製品  この事件をきっかけとして日本では急遽ペットフード安全法が制定されましたが、メラミンの上限値は設定されませんでした。「フード1g中2.5μgまで」という基準が設定されたのは、2015年2月になってからのことです。
原産国が「日本」となっていても、原材料は中国から輸入されたものかもしれません。その原材料が安全かどうかを確かめる方法はお金をかけて抜き打ちテストをするしかないため、実質的にはフードメーカーを信頼できるかどうかにかかっています。