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アボカド~安全性と危険性から適正量まで

 ドッグフードのラベルに記された「アボカド」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

アボカドの成分

 アボカド(avocado)はクスノキ科ワニナシ属の常緑高木。果実はその形状からワニナシ(鰐梨)とも呼ばれます。実には脂質が多く含まれており、そのうちおよそ80%は不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸 | オレイン酸 | リノール酸 | リノレン酸など)です。 ドッグフードの成分として用いられる「アボカド」  人間においては高コレステロール血症や骨関節炎に対する軽減効果が実証データによって示唆されている一方、便秘や肌の健康に対する効果は逸話レベルに留まっています。またラテックスゴムにアレルギー反応を示す人の中には、まれにアボカドにも交差反応を示す人がいます。

アボカドは安全?危険?

 アボカドを犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはアボカドに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

不けん化物(ASU)

 アボカドから抽出される不けん化物(ふけんかぶつ)には結合組織の合成や増殖を促進する効果があるのではないかと考えられています。「不けん化物」とは油脂あるいはろうの成分のうち水酸化カリウムアルコール溶液によりけん化されず、水に不溶、石油エーテルに可溶な物質の総称です。
 この仮説のもと、アボカドオイルと大豆オイルから不けん化物だけを抽出した「アボカドダイズ不けん化物」(ASU)がサプリメントとして市場に出回っています。しかしその効果に関しては人間においても犬においても、いまだにはっきりしていません

人に対するASUの効果

 アボカドダイズ不けん化物(ASU)の人間に対する効果は実証されていません。3~6ヶ月という短いスパンで見ると、痛みの軽減に役立っていることを示すデータがあります。しかし数年という長いスパンになるとそうした鎮痛効果が薄くなり、摂っても摂らなくても同じという結論に至ることが多いようです。重大な副作用を引き起こすことがないことから、熱烈な信奉者を除き「試して見る価値はある」くらいの軽い位置づけになっています。
 以下は過去に人を対象として行われたASUの給餌実験結果です。参考までに記載しておきます。
ASUの人間への作用
  • ベルギーの調査ベルギーで膝関節症の患者260名を対象として行われた調査では、アボカドダイズ不けん化物(ASU)を1日300mg摂取するグループ、600mg摂取するグループ、未摂取グループにランダムで分割した比較が行われました出典資料:Appelboom T, 2001。3ヶ月間の試験期間が終わった時点で、量にかかわらずASU摂取グループでは抗炎症薬と鎮痛薬の使用頻度が減少すると同時に、主観的な痛みの指標や痛みと関節機能の指標の改善が認められたといいます。
  • フランスの調査(1998年)フランスでアボカドダイズ不けん化物(ASU)を1日300mg×6ヶ月間摂取してもらうという中間的な観察も行われましたが、結果も中間的なものに終わっています出典資料:Maheu, 1998。具体的には痛みと関節機能の指標 、主観的な痛みと機能障害の指標、症状の総合評価は改善したものの、抗炎症剤の使用回数や使用率に違いはなかったというものです。
  • フランスの調査(2002年)フランスで変形性股関節症の患者163名を対象として行われた調査では、アボカドダイズ不けん化物(ASU)を85名に対し1日300mgを2年間摂取してもらうという長期的な観察が行われました出典資料:Lequesne M, 2002。偽薬(プラセボ)を与えられたグループと比較した所、両グループ間で関節腔の狭さ、痛みと関節機能の指標、主観的な痛みの指標、抗炎症剤の使用量に違いは見られなかったと言います。

犬に対するASUの効果

 人間の場合と同様、犬においても関節などの結合組織に対するアボカドダイズ不けん化物(ASU)の効果はよくわかっていません。少なくとも言える事は、アボカドや大豆をそのままの形で与えたとしてもASUで想定されているような効果は得られないと言うことです。理由は、アボカドや大豆から搾り取った植物油のうちASUが占める割合はわずか1%程度だからです。
 以下は過去に犬を対象として行われたASUの給餌実験結果です。参考までに記載しておきます。
ASUの犬への作用
  • イランの調査(2012年) イラン・シーラーズ大学の調査チームは22頭の犬を対象としたASUの給餌試験を行いました出典資料:Jaberi, 2012
     チームはまず犬の両膝にある内側大腿顆に1cm四方の病変部を作り、軟骨下骨に達するまで削り取って人工的な変形性関節症を作り出しました。そして左の膝にだけ顕微鏡レベルのミクロな骨折病変を作り、ASUを1日300mg摂取するグループとプラセボを摂取するグループに分けて12週間の観察を行いました。
     その結果、ICRS(国際軟骨修復協会)が定める組織学的視覚評価スケールにおいて軟骨表面の細胞分布や軟骨下骨の組織学的な所見にグループ間の違いは見られなかったといいます。
     こうした結果から調査チームはASUによるミクロな骨折部位に対する修復効果は認められないとの結論に至りました。
  • カナダの調査(2009年) カナダの調査チームは16頭の犬を対象とし、右膝の前十字靭帯に切り込みを入れて人工的な骨関節炎を作り出して半数にだけASU(体重1kg当たり1日10mg)を給餌するという比較調査を行いました出典資料:Boileau, 2009
     8週間後に軟骨、軟骨下骨、大腿顆、脛骨顆の組織形態学的な分析を行ったところ、脛骨顆における顕微鏡レベルの病変部位はASU摂取グループにおいて有意に減少していたといいます。また組織学的に脛骨顆および大腿顆の病変部位、滑液中への細胞浸潤も有意に減少したとも。さらに軟骨下骨の目減りや石灰化した軟骨の厚さ低減といった特徴も見られました。
     こうした結果から調査チームはASUは初期の骨関節炎による軟骨や軟骨下骨の病変を抑制する効果があるかもしれないとの結論に至りました。メカニズムとしては軟骨内における一酸化窒素合成酵素とMMP-13(タンパク質分解酵素の一種)の減少が想定されています。ただしこの調査は、ASUサプリメントを製造販売するフランス企業「Laboratoires Expanscience」から調査資金の一部を提供されているという点は記しておかなければならないでしょう。
  • トルコの調査(2007年) トルコの調査チームは24頭の犬を対象とし、ASUが膝の滑液中に含まれるトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)にどのような影響を及ぼすかを検証しました出典資料:Levent, 2007。TGF-βとは骨芽細胞の増殖や結合組織の合成を促し、上皮細胞や破骨細胞の活動を抑制する働きを持った、ほぼすべての細胞で産生され増殖因子の1つです。TGF-β濃度が高いという事は、コラーゲンや軟骨といった結合組織の修復がされやすいことを意味しています。
     犬を8頭ずつ「300mgを3日に1度」「300mgを毎日」「プラセボ」という3つのグループに分け、給餌試験前、給餌から1、2、3ヶ月後というタイミングで滑液に含まれるTGF-βのアイソフォーム(TGF-β1およびTGF-β2)の濃度を調べました。
     その結果、ASU給餌グループにおいては給餌量とは無関係にTGF-β1とTGF-β2両方の増加が確認されたと言います。TGF-β1の方は給餌から2ヶ月終了時点でピークを迎えた後減少したのに対し、TGF-β2の方は最初の2ヶ月で緩やかな増加を見せた後、3ヶ月目から急増するという、それぞれ違った振る舞いを見せました。
     こうした結果から調査チームは、ASUは犬の滑液中に含まれるTGF-βの濃度を増加させる効果があるとの結論に至りました。

ペルシン

 ペルシンはアボカドの葉や果実に含まれる殺菌作用を有する天然成分。ヒト以外の動物には大なり小なり毒性を示すとされています。
 南アフリカの果樹園で発生したアボカドによる中毒死症例があることと出典資料:Buoro, I.B.J, 1994、とある学術論文内で「決して与えてはいけない」と明記されていることが関係しているのか、Wikipedia内でも同様の記述が見られます出典資料:Kovalkovicova, 2009。確かに生の果実を毎日まるかじりしているとペルシンによる中毒に陥るのでしょうが、犬を対象とした短期(6ヶ月)の微量給餌試験では明白な毒性は確認されていません。
 例えばP&Gの調査チームはビーグル犬(メス30+オス10頭 | 平均4.4歳)をランダムで10頭ずつからなる4つのグループに分け、アボカド抽出物を0%<0.22%<0.66%<1.10%の割合で含んだフードを6ヶ月に渡って給餌しました出典資料:Davenport, 2012。その結果、体重、消化管、便量、血液分析値に異常は見られなかったといいます。なおこの試験で用いられた抽出物は果肉、皮、種実を脱脂・水溶化したもので、構成成分は炭水化物61%タンパク質4%、脂質4%、灰分16%、繊維質0.1%、水分13%でした。

食物繊維源

 アボカドオイルを精製する過程で大量に廃棄される絞りかす(アボカドミール)をドッグフードの食物繊維源として再利用できないかが検討されています。
 アメリカにあるイリノイ大学の調査チームは不妊手術を施していない9頭のビーグル犬(メス | 平均4.9歳)を3頭ずつからなる3つのグループに分け、セルロース、ビートパルプ、アボカドミールを食物繊維(湿重量中15%)として含んだフードを給餌しました出典資料:A.N. Dainton, 2022
 10日間の馴化後、最後の4日間で便と尿サンプルを採取して成分を解析したところ、アボカドミールグループの便排出量と便スコア(緩さ)はセルロースと同等、見かけの消化吸収率に関してもセルロース(酸性加水分解脂質)およびビートパルプ(粗蛋白)と同等の値を示したといいます。また腸内発酵産物に関しては酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩で違いが見られたほか、3つの食物繊維間に大差が認められなかったとも。
 こうした結果から調査チームは、アボカドミールは従来の食物繊維源と比べても遜色ないクオリティを有しており、フード業界の新たな成分として期待できるとしています。

マンノヘプツロース

 マンノヘプツロース(Mannoheptulose)は未成熟なアボカド果実に多く含まれる単糖の一種。ヘキソキナーゼ(酵素)の働きを妨げることによってグルコースのリン酸化を阻むヘキソキナーゼ阻害剤の一種です。
 P&G Pet Careの調査チームはラブラドールレトリバー80頭を40頭ずつからなる2つのグループに分け、さらに各グループを20頭ずつからなる2つの小グループに分けた給餌試験を行いました出典資料:S.Massimino, 2011。一方(20頭×2グループ=計40頭)に給餌されたのは通常の総合栄養食、他方(20頭×2グループ=計40頭)に給餌されたのは通常フードにアボカド抽出物を添加したもの(200ppm)です。24ヶ月間(2年間)に渡る試験期間中、6ヶ月に1度の間隔で血液サンプルを採取して免疫応答と酸化ストレスを客観化したところ、アボカド添加グループではTおよびB細胞の分裂促進因子によって誘起されたリンパ細胞の増殖が確認されたといいます。また血清中の酸化ストレスマーカーは2年間ずっと低い値を示したとも。
 こうした結果から調査チームは、アボカド添加物に含まれるマンノヘプツロースには、免疫力や酸化ストレスを好転させる効果が期待できるとしています。
生のアボカドは100g中に18.7gの脂質を含み、カロリーは187kcalと高めです。生で与えると肥満やペルシン中毒に陥る危険性があります。また人間向けに売られているASUサプリメントを犬に与えないでください。