トップ2024年・犬ニュース一覧1月の犬ニュース1月19日

市販の運動量モニター(加速度計)で犬の必要エネルギー量を正確に予測できるか?

 IoTの進歩に伴い、犬の首輪などに装着して運動の種類や量をデータ化するデバイスが登場しました。こうした機器によって犬が1日に必要とする最低限のエネルギー量(≒食事量)を正確に予測することはできるのでしょうか?

加速度計による犬のDER予測

 調査を行ったのはオハイオ州立大学を中心としたチーム。ペットの行動をモニタリングできるとして市販されている加速度計から、犬が1日に必要とするエネルギー量(Daily Energy Requirement, DER)を予測できるかどうかを検証するため、およそ1ヶ月に及ぶ前向き調査を行いました。

調査対象

 犬たちの参加条件としては、1~10歳であることと臨床上健康であることだけが設けられ、最終的に23頭のデータが解析に回されました。平均4.6歳(1~10歳)、オス10頭(43.4%)、非純血種が8頭で残りは純血種という内訳で、スタート時点における平均体重(21.5 kg)と終了時のそれ(21.8kg)との間に統計的な格差がないことが確認されました。
 また調査期間中、犬たちの首輪には「FitBark」と呼ばれる市販の加速度計が取り付けられました。これはGPS技術を利用した3軸タイプの計測器で、1秒間に数回という高頻度で行動データを送信できるという代物です。1日に必要なエネルギー要求量の推定には、加速度計から得られたデータとメーカーが専売特許を保有している予測アルゴリズムが用いられました。 犬の首輪に装着する加速度計「FitBark」  一方、飼い主は犬の食事量を28日間に渡って正確に記録するよう指示されました。この観察データは体重を維持するために必要な最低限のエネルギー量を算出する際のベースライン(観測DER)として採用されました。また犬たちの活動レベルは、飼い主の主観でメーカーが設定した3段階(平均的<活動的<運動選手並)のうちのいずれかに区分され、最終的に「平均的」が7頭(30.4%)、「活動的」が12頭(52.1%)、「運動選手並」が1頭(4.3%)という内訳になりました。

調査結果

 飼い主の記録を元にした実測DERの平均は973kcalで、252~1,500kcalという個体差がありました。また28日間のエネルギーを総計したときの中央値は27,244kcalで、7,051~40,493kcalという個体差がありました。なお本文中では「calories/day」と記載されていますが、明らかに単位が間違っていますので当ページ内ではすべて「kcal」と読み替えています。
 一方、犬の活動レベルと加速度計データを基にして予測されたDERの推定値(推定DER)に関しては、28日間の総計中央値が32,626kcal(11,197~63,563kcal)と算出され、 全体の78.3%(18/23)までもが実測値をオーバーしていることが明らかになりました。ただし全頭が過大評価されていたわけではなく、12頭が常時オーバー、3頭が常時アンダー、8頭が上下バラバラという不均一なものでした。
 最終的に、人を対象とした調査における信頼性の指標である「5%」という誤差に収まった割合はわずか8.6%(2頭)であり、複数の統計計算式で検証しても推定DERと実測DERとの間に強固な関連性は認められませんでした。
Commercially available wearable health monitor in dogs is unreliable for tracking energy intake and expenditure
Maya Sekhar, Adam J. Rudinsky, Connor Cashman, Valerie J. Parker, Nina R, American Journal of Veterinary Research (2024), DOI:10.2460/ajvr.23.10.0242

現時点で加速度計は信頼できない

 同じ加速度計(FitBark)を対象として行われた先行調査では、オフリード活動(リードを放して自由に行動させた状態)の運動量に関しては推測値と実測値の誤差が十分小さく信頼できるとの結果が報告されています出典資料:Colpoys, 2021)。同様に、消費エネルギー量も正確に予測できるのでしょうか?

推定値の上ブレ

 活動レベルが「平均的」と区分された犬たちの推定DERに限定すると、実測DERの51.9%~140.4%という大きな個体差があり、平均は99.2%でした。しかし個別で見ると、実測DERと推定DERの誤差が5%以下のものは1頭もいませんでした。
 活動レベルが「活動的」と区分された犬たちの推定DERに限定すると、実測DERには103.7%~214.4%という大きな個体差があり、平均は138.7%でした。メス2頭では誤差が5%以下だったものの、メス全体の平均が122.9%(51.9%~214.4%)、オス全体の平均が137.0%(110.5%~216.6%)となり、性別に関わらず全頭において必要エネルギーが過大計算されました。
 こうした結果から調査チームは、現時点では機器を信頼してDERを決定することは推奨されないとの結論に至っています。

予測アルゴリズムの洗練が必要

 人間用の機器でも、心拍数と歩数に関してはある程度正確に計測できるものの、消費カロリーに関しては不正確で調査によって結果がまちまちとされています。しかし「心拍数」を元データに含めると正確性が増すという複数の調査結果があることから、対象が人でも犬でも運動量とは別のパラメータを予測アルゴリズムに繰り入れていく必要が今後はありそうです。
 最新の製品ラインナップを見る限り、ペットの心拍数や酸素消費量、果ては犬の気持ちをリアルタイムにモニタリングするスマート技術も登場しているようですので、将来的にはより正確なDERの推定が可能になるかもしれません。ただし現時点では、いくらメーカーが「必要エネルギーが正確にわかる!」といった宣伝文句で売りに出していても鵜呑みにするのは危険です。当調査を見る限り消費エネルギーを過大に算出する傾向があるようですので、うっかり信頼してしまうと犬の食事量が増えて肥満につながる危険性があります。