トップ2023年・犬ニュース一覧10月の犬ニュース10月3日

人の言葉を真似する犬たち~英語圏と日本語圏では「ワン!」の発声様式が異なる

 犬に模倣学習能力があることは確認されていますが、飼い主が発する言葉にも当てはまるのでしょうか?英語圏と日本語圏に暮らす柴犬を対象とした調査が行われました。

犬の「ワン!」は日英で違う

 調査を行ったのは上海交通大学を中心としたチーム。犬の発声(ワン!)が飼い主の発する言語の特徴に影響されるという仮説を検証するため、英語圏と日本語圏に暮らす柴犬を対象とした大規模な比較調査を行いました。

調査対象

 調査対象となったのは動画共有サイトYouTubeに投稿されている柴犬の動画。タイトルやタグなどから絞り込みを行い、飼い主の発話と犬の発声の両方を含む合計1,551を解析に回しました。 日本語と英語を話す飼い主と柴犬の発声特徴  犬の声は発せられた状況によって音声学的な特徴が変化しますので、各々の動画は「状況」「場所」「活動」という3つの側面で細かく分類され、英語圏と日本語圏でばらつきが出ないよう調整されました。最終的に残ったのはノイズ等を除去した7,500サンプル(平均0.61秒/英語圏46.72%)です。
 また飼い主が発した言語も同一動画内から抽出し、最終的に15,197サンプル(平均1.56秒/英語圏44.01%)が解析に回されました。さらにノイズを含まない言語間の純粋な比較をするため、「CommonVoice」と呼ばれる音声データベースから日英合計8,000の発声サンプルが加えられました。

調査結果

 飼い主が発した言語を解析したところ、日本語と英語の間で明白な音声学的相違が認められたと言います。具体的には「スロープ」「ラウドネス」「F0セミトーン」という3項目に集中しており、この事実から言語間の違いは「周波数」に集約されると推定されました。
 また犬の発した声を解析したところ、日本語圏に暮らす犬と英語圏に暮らす犬との間に、音声学的な10の側面で明白な違いが認められました。この違いは仕様が異なる4つの解析モデルすべてで検知されましたので、確実性はかなり高いと判断されました。両者の違いを要約すると「英語圏で暮らす犬より日本語圏で暮らす犬の方が周波数が高い」というものでした。

犬の発声とお国柄

 犬の発声と人間の言語との間に共通点があることが判明しました。具体的には「スピード」と「周波数(高さ)」です。

発声スピード

 最新の音声認識プログラムを用い、飼い主が発した言語の単位時間に含まれる音節の数を比較したところ、英語より日本語の方が多いことが判明しました。これは日本語の方が発話スピードが早いことを意味しています。
 一方、犬の声に言語的な音節という概念はありませんので、調査チームは便宜的に発振器ベースのアルゴリズムを用いて、各音声クリップを音節に似たユニットに分割していきました。その結果、英語圏で暮らす犬より日本語圏で暮らす犬の方が、音節様ユニットを多く含んでいることが明らかになりました。

声の周波数(高さ)

 日本語圏(グラフ左側)で暮らす犬と英語圏(グラフ右側)で暮らす犬が発した典型的な音声サンプルは以下です。上方向が「高い周波数(声が高い)」、横方向に含まれる区切り線が「音節様ユニット」を表しています。 異なる言語環境で発せられた犬のスペクトログラム比較グラフ  概して、前者の方が周波数が高く後者の方が低いという傾向が認められました。
Does My Dog ''Speak'' Like Me? The Acoustic Correlation between Pet Dogs and Their Human Owners
Jieyi Huang, Chunhao Zhang, Yufei Wang, Mengyue Wu, Kenny Zhu, DOI:10.48550/arXiv.2309.13085

犬が人の口調を真似た?

 先行調査では、日本語の音節は他の言語に比べて多く、また周波数は英語よりも高いことが示されています。当調査でも日英の言語間で「周波数」に集約される違いが認められたと同時に、日本語の方が単位時間当たりの音節数が多いことが追認されました。興味深いのは、両国に暮らす犬の発声にも人間と同様の違いが見られたという点です。

なぜ声が高い?

 日本の柴犬の方が「周波数が高い(声が高い)」という特徴に関しては、「豆柴」という特異な存在があるため平均的な体格が小さくなり、連動して発声器も小さくなることで声(基本周波数/F0)が高くなったのかもしれません。

なぜ音節が多い?

 「音節様ユニットが多い(発声スピードが早い)」という特徴に関しては、そもそも「音節様ユニット」という概念と言語の「音節」を同一視してよいのかどうかという前提問題があります。もし違うならそもそも単発の吠え声に早いも遅いもないということになります。

犬も「耳コピ」ができる?

 動画共有サイトなどでは「ちょうだい」という犬や「I love you」という犬などを観ることができます。明らかに人間の言語を模倣していますが、こうした特技をもたない普通の犬たちも、無意識的に飼い主の語調を真似しているのかもしれません。
 当調査は予備的なもので反論の余地も多々残っていますが、犬たちが持つ音声的な模倣能力を示唆する面白い結果となりました。