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タバコが母犬と胎子に与える悪影響~ニコチンは胎盤を経由して子犬にも

 人医学においてさまざまな弊害が報告されている喫煙は、人間と生活環境をともにするペット犬に対し、一体どの程度の悪影響を及ぼしているのでしょうか?

妊娠母犬へのタバコの影響

 喫煙にはタバコを吸う張本人による一次喫煙のほか、喫煙者の周辺にいる人物が強制的に煙を吸い込む二次喫煙、そして壁や床などに付着したタバコの微量成分を第三者が間接的に摂取する三次喫煙があります。
 どのような形であれ喫煙が人間の健康に悪影響を及ぼすことは数多くの調査で示されていますが、人間と生活環境を共にするペット犬には一体どの程度の影響があるのでしょうか?イタリアにあるミラノ大学が検証を行いました。

調査対象

 調査対象となったのはミラノ大学獣医教育学部繁殖ユニットにおいて、難産、子宮無力症、同腹子過剰、高齢などを理由に帝王切開を受けたメス犬たち。具体的には「喫煙+妊娠=6頭」「非喫煙+妊娠=6頭」のほか、「喫煙+非妊娠=6頭」という3グループに分けられました。
 上記「喫煙」は過去2ヶ月間、犬のいる家の中で飼い主が毎日少なくとも1本のタバコを吸った家庭のことで、喫煙本数により「1日5本未満=ライト」「1日5本以上=ヘビー」とされました。
 帝王切開に先立つ麻酔の直前、母犬の血液と前足の被毛が採取されました。また帝王切開時、羊水と新生子の被毛(しっぽの付け根の裏側)が非侵襲的に採取されました。

調査結果

 帝王切開を通し、最終的に喫煙家庭の母犬から33頭、非喫煙家庭の母犬から28頭の子犬が産まれました。両グループ間で死亡率(死産+周産期死亡)および奇形率に格差は見られなかったといいます。
 ニコチンレベルを測定するため、採取したサンプル内に含まれるニコチン代謝産物「コチニン」の濃度を解析した結果、程度の差こそあれすべてのサンプルから検出されました。また母犬の血清濃度は新生子の被毛および羊水濃度と正の相関にあることも併せて確認されました。 母犬と新生子の血清(羊水)におけるコチニン濃度比較グラフ 母犬と新生子の被毛におけるコチニン濃度比較グラフ  被毛にしても血液にしても、コチニン濃度は非喫煙家庭の母犬より喫煙家庭の母犬の方が統計的に有意なレベルで高値を示しました。その一方、喫煙家庭の犬では妊娠の有無で濃度差は見られませんでした。
 意外なことに、飼い主による喫煙の度合いと濃度とは関連していなかったそうです。また母犬の年齢、体重、同腹子数とも関連していないことが確認されました。
関連外部
Giulia Pizzi, Silvia Michela Mazzola, et al., Vet. Sci. 2023, 10(5), 321, DOI:10.3390/vetsci10050321

喫煙習慣の見直しを

 人間と犬とでは胎盤構造に違いがあるため、ニコチンに対する脆弱性にも違いが生まれます。だからといって人医学で確認されている弊害が犬に全く無関係ということにはなりません。

非喫煙家庭でなぜ検出?

 調査の結果、低濃度ではあるものの非喫煙家庭に暮らしている犬からもコチニンが検出されました。なぜでしょうか?
 可能性としては「集合住宅のベランダ経由で煙が流れてきた」「帰宅した飼い主の衣服に付着していた」「散歩時に犬の被毛に直接付着した」などが考えられますが、はっきりしたことはわかりません。
 猫が生息していないはずの南極基地でなぜかアレルゲンが検出されたという事例もありますので、微量分子が何らかの媒介物に付着して長距離を移動することは大いにありうるでしょう。

喫煙の影響は胎子にも

 非喫煙家庭よりも喫煙家庭に暮らしている犬の方が高いニコチン濃度を示しました。また喫煙の度合い(ライト/ヘビー)による濃度差は認められませんでしたので、「1日1本だけなら大丈夫」とは言えないようです。
 一次喫煙であれ二次喫煙であれ、喫煙がガン、神経、内分泌、免疫、呼吸、心血管、アレルギー性鼻炎や皮膚炎に関与していることが多くの調査で示唆されています。今回の調査を通し、人間と暮らしている犬だけでなく、母体内にいる胎子に対しても影響を及ぼしうることが判明しましたので、人と犬の健康を守るためにも喫煙習慣の見直しは必須でしょう。
 ちなみに人医学で確認されている胎児に対する喫煙の悪影響には流産、早産、周産期死亡、子宮内成長遅延、奇形、行動・認知機能の低下、停留精巣などがあります。
当調査で新生子の死亡率や奇形率に差は見られませんでしたが、調査対象を拡大すると統計差が浮上してくる可能性があります。くれぐれも犬のいる場所で喫煙はしないようにしましょう。