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犬におけるブラストシスチス(Blastocystis)の保有率~感染ルートから症状・予防まで

 至るところに存在するありふれた存在でありながら病原性に関しては未知な部分が多い原虫「ブラストシスチス」。全世界からの報告例から犬全体における保有率が推計されました。

ブラストシスチスとは?

 ブラストシスチス(Blastocystis)は1912年、ヒトの消化管から発見された腸管寄生性の原生動物。ヒトを含めた哺乳類だけでなく、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫など多種多様な生物の盲腸や大腸から検出されています。 ブラストシスチスの4形態  また様々な動物から分離したブラストシスチス株のリボソームを構成するRNA(rRNA)を分子レベルで解析した調査では、少なくとも32のサブタイプに分類されます出典資料:P.A.Jimenez, 2019 | 出典資料:Shams, 2022ブラストシスチスの系統分岐図  ブラストシスチスの感染経路は、便内に排出されたシスト型の原虫を経口的に摂取することです。動物実験ではヒトから単離した株の多くがニワトリやラットに感染することから、人畜共通感染症であると考えられています出典資料:Yoshikawaブラストシスチスの生活環  今回の調査を行ったのはイランにあるイーラーム医科学大学のチーム。2021年11月8日までに世界中で報告されたブラストシスチスに関する調査論文を網羅的に検索し、それらを元データとしたメタ分析を行いました。
 その結果、合計49報が解析対象としての条件を満たし、犬を感染動物としたデータセットは42報見つかったといいます。23ヶ国から収集されたデータセット群に含まれていた合計7,946頭の犬たちにおけるブラストシスチス感染率を、系統を度外視して調べたところ7%と算定されました。またサブタイプ別に見た感染率は以下です。
犬のサブタイプ感染率
  • 1=30.9%
  • 2=39.3%
  • 3=41.3%
  • 4=13.4%
  • 5=8.1%
  • 8=12.7%
  • 10=11%
 人間にも感染しうる人獣共通性が確認されているサブタイプ(ST1~9およびST12)に関し、犬では8系統(ST1-ST8)が単離されました。
Current global status, subtype distribution and zoonotic significance of Blastocystis in dogs and cats: a systematic review and meta-analysis
Shams, M., Shamsi, L., Yousefi, A. et al. Parasites Vectors 15, 225 (2022), DOI:10.1186/s13071-022-05351-2

ブラストシスチスによる症状

 ブラストシスチスは世界中でおよそ10億人が感染していると推計されており、開発途上国および動物と接する機会が多い人で感染リスクが高いとされています。

人間における症状

 人間において感染率が高い株は「B.hominis」です。消化管の中に保有していても何の症状も示さない人がいる一方、50~80%の人では未知のメカニズムを通して以下のような症状を引き起こす可能性が示唆されています出典資料:MayoClinic | 出典資料:Horiki, 1996
ブラストシスチスの症状
  • 水様便
  • 吐き気
  • 腹痛
  • 鼓腸
  • ガス滞留
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 肛門のかゆみ
  • 疲労感
 別の調査ではブラストシスチス(サブタイプ1、3、4、6のいずれか)の感染が確認された11名の患者を対象とし、メトロニダゾール(400 mg)を1日3回)もしくはトリメトプリム(160mg)とスルファメトキサゾール(800mg)を1日2回投与するという投薬試験が行われました。その結果、消化管からブラストシスチスが完全に駆虫された患者は1人もいなかったといいます出典資料:Nagel, 2012

犬における症状

 オレゴン州立大学の調査チームが太平洋岸北西部にある保護施設の犬103頭および一般家庭の犬51頭から便サンプルを採取したところ、ブラストシスチスの保有率に関し保護施設(9.7%)>一般家庭という差が見られ、原虫の保有状態と消化管の症状との間に関連性は認められなかったといいます出典資料:Ruaux, 2014

犬の感染リスク

 オーストラリアのブリスベンにある動物保護施設(45頭)と一般家庭(35頭)で飼育されている犬から便サンプルを採取してブラストシスチスの保有率を調べたところ、2.5%(2/80)だったといいます。またカンボジアの村で半分家畜化された形で飼育されている犬を調べたところ、保有率は1.3%(1/80)だったとも。さらにインド国内にある3地域(シッキム25頭/デリー27頭/ムンバイ28頭)に暮らす野良犬を調べたところ、保有率は24%(19/80)だったそうです出典資料:Wang, 2013
 こうしたデータから、衛生レベルが低く、感染個体の便と接触する機会が多い場合に感染リスクが高まるものと推測されます。

人と動物間の感染

 ブラストシスチス(サブタイプ1、3、4、6のいずれか)の感染が確認された11名の患者と生活空間を共にする合計17名の家族を調べたところ、94%(16/17)という高い確率で患者と同系統のブラストシスチスが検出されたといいます。同様に同居ペットにおける感染率は88%(7/8)で、サブタイプも一致していたそうです出典資料:Nagel, 2012
 こうしたデータからブラストシスチスは、何らかのルートを通じて「人?人」「人?動物」という水平感染をするものと考えられます。
感染経路は便に含まれるシストを経口摂取することです。犬においては散歩中に道端の草を食べさせないことで簡単に予防できます。