環境エンリッチメントと犬の行動変化
調査を行ったのはイギリス・ウスターシャー大学などによる共同チーム。飼育環境下にある動物の健康と福祉を向上させることを目的とした「環境エンリッチメント(Environmental Enrichment)」が、具体的にどの程度の効果を有しているのか検証するため、犬を対象とした観察調査を行いました。
調査方法
調査に参加したのはアシスタントドッグとしてトレーニングを受けている犬たち。全頭不妊手術済のオス4頭とメス6頭という内訳で、年齢は12~14月齢、単一犬種ではなくゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ジャーマンシェパードのミックスです。
8週間にわたる観察期間中、7種類の環境エンリッチメントを1頭につき各2回ずつランダムで経験させ、エンリッチメントの前後15分ずつにおける行動を観察して、あらかじめ決められた行動カタログ(エソグラム)に沿って発生頻度をカウント していきました(行動が15秒以上継続した場合1カウント)。環境エンリッチメントの具体的な内容は以下です。
8週間にわたる観察期間中、7種類の環境エンリッチメントを1頭につき各2回ずつランダムで経験させ、エンリッチメントの前後15分ずつにおける行動を観察して、あらかじめ決められた行動カタログ(エソグラム)に沿って発生頻度をカウント していきました(行動が15秒以上継続した場合1カウント)。環境エンリッチメントの具体的な内容は以下です。
犬向け環境エンリッチメント
- 絆を深めるハンドラーが部屋の中に座り、犬から交流を求められたら撫でたりグルーミングしたり身体的なコンタクトを最大で15分間取る
- バブルマシーンベーコンの味がついたシャボン玉を15分間部屋の中に機械で飛ばす
- 犬との遊び顔見知りの犬と最大で15分間遊ばせる
- 綱引き顔見知りのハンドラーがロープで綱引きをしたり柔らかいおもちゃで取ってこい遊びを最大で15分間行う
- 知育玩具フードパズルにおやつを入れ、中身を全て食べてしまうまでか15分が経過するまで遊ばせる
- フードトイ空洞を有するおもちゃの中に詰められたおやつを全て食べるまでか15分が経過するまで遊ばせる
- プレイハウス トンネル、滑り台、プラットフォームを備えた犬向けのプレイセットで遊ばせる
調査結果
環境エンリッチメントによる介入前後において犬達の行動にどのような変化が現れたかを統計的に検証したところ、種類に関わらず総じてリラックス関連行動を増加させ、警戒・緊張関連行動とストレス関連行動を減少させたといいます。
Effects of Environmental Enrichment on Dog Behaviour: Pilot Study
Hunt, R.L., Whiteside, H., Prankel, S. , Animals 2022, 12, 141, DOI:10.3390/ani12020141
Hunt, R.L., Whiteside, H., Prankel, S. , Animals 2022, 12, 141, DOI:10.3390/ani12020141
効果は「食べ物<人や犬との交流」
社会的動物という特性を反映してか、環境エンリッチメントによる介入で最も大きな変化が見られたのは、食べ物に関するものよりも社会的交流に関するものでした。
食べ物による犬たちの変化
過去に行われた調査報告では、食べ物を用いたエンリッチメントには常同行動を減らして活動レベルを高める効果があるとされています。またおやつを詰めたおもちゃを与えると無駄吠えが減って活動性が高まるとの報告もあります。その一方、軍用犬を対象とした調査では日常的な行動や職務上のパフォーマンスに対する変化は少なかったという一見相反するような報告もあるようです。
今回の調査でも、食べ物を用いたエンリッチメントによって行動にポジティブな変化が見られたものの、他の介入に比べその変化幅は小さめでした。食べ物に関してはおやつがなくなった時点で終わりであるため、介入時間自体が短縮される可能性があります。 またそのときの食欲の度合い、犬がもともと持っている食べ物に対する執着の度合いなどが絡んできますので、その時の状況や個体差による影響が大きいのかもしれません。
今回の調査でも、食べ物を用いたエンリッチメントによって行動にポジティブな変化が見られたものの、他の介入に比べその変化幅は小さめでした。食べ物に関してはおやつがなくなった時点で終わりであるため、介入時間自体が短縮される可能性があります。 またそのときの食欲の度合い、犬がもともと持っている食べ物に対する執着の度合いなどが絡んできますので、その時の状況や個体差による影響が大きいのかもしれません。
社会的な交流と犬たちの変化
非社会的な介入と犬たちの変化
無生物的なエンリッチメントに関しては、プレイハウスでストレスに対する減少幅が最大、バブルマシーンでリラックス(増加)と警戒行動(減少)が2番目の変化幅を記録しました。順繰りにローテーションして馴化(いわゆる飽き)を防げば、社会的交流には及ばないにしても、十分効果のあるエンリッチメントだと考えられます。
コロナ禍により飼い主と犬が室内で共有する時間が増えました。創意工夫して犬の生活を豊かにしてあげましょう。バブルマシーンを使用する際は床面が清潔であることを事前にご確認ください。