トップ2022年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月18日

犬の食器を洗わない飼い主は意外と多い~衛生観念の欠如が交差感染の原因に

 病原性菌の数に限って言うと、犬向けの食器はトイレの便器よりも汚いとされます。にもかかわらず全く洗わない飼い主が一部にはいるようです。

洗わない食器の汚さ

 調査を行ったのはノースカロライナ州立大学のチーム。動物病院、ソーシャルメディア、大学の獣医学部などに協力を仰ぎ、食器の衛生管理法に様々な違いを持たせた上で汚染度にどのような違いが見られるかを検証しました。参加条件は「毎日決まった食器からエサをとっている犬を最低一頭飼育していること」です。 犬のフードボウルは汚染フードによって間接的に汚染されている  最終的に417の有効回答が寄せられ、その中から68頭の犬を飼育している合計50人の飼い主が実験に参加することとなりました。犬たちの平均年齢は7歳(12ヶ月未満~16歳)、性別の内訳は避妊済みメス43%、未手術のメス5%、去勢済みのオス41%、未去勢のオス11%です。
食器の衛生管理
  • グループA(27頭)食品医薬品局(FDA)が公開しているペットフード向けのガイドラインを遵守。具体的にはペットフードを扱う前後で手を洗うこと、フードを取り分ける時は食器とは別のものを用いること、食器及び取り分け器具は石鹸と温水を用いて使うたびに洗うこと、残ったフードは廃棄すること、フードは移し替えずに元々の袋の中で保存することなど。
  • グループB(30頭)FDAが公開しているペットフードと人間向け食品両方の衛生ガイドラインを遵守。具体的には手洗いは石鹸と温水を用いて最低20秒間行うこと、食器を洗う前に食べかすを削り取ること、食器は71.1°C超の温水で石鹸を用いて最低30秒間洗うこと、洗浄後は綺麗なタオルで拭き取ること、NSF認定の食器乾燥機で乾かすことなど。
  • グループC(11頭)特に指示は出されなかったが、食器を洗った者はいなかった。
 決められたプロトコルに平均して8日間従った後、各グループの食器からバクテリアサンプルを採取し、含まれる菌数を1平方センチメートルあたりのCFU(コロニー形成ユニット)に換算しました。
 実験の結果、ガイドラインの導入を行ったグループAとグループBにおいては導入の前後において統計的に有意なレベルの一般生菌数(標準寒天培地と好気的な条件を用いて培養した中温性好気性菌数のことで食品の微生物汚染度を示す)減少が見られたといいます。また介入を行わなかったグループCにおいては減少が見られなかったとも。 衛生管理法導入前後における犬の食器中のCFU変化グラフ  また食器を洗うときの水の温度が生菌数に影響を及ぼすことが判明しました。具体的には「冷水~ぬるま湯」で洗ったときよりも「温水 or 食器洗浄機」で洗ったときの方がCFUが平均して1.5log10減少するというものです。
Survey evaluation of dog owners’ feeding practices and dog bowls’ hygiene assessment in domestic settings
Luisana E, Saker K, Jaykus L-A, Getty C (2022), PLoS ONE 17(4): e0259478, DOI:10.1371/journal.pone.0259478

犬の食器は毎日洗おう!

 食器に残った食べかすまで犬がなめとると一見きれいに見えますが、病原体がさっぱりなくなったわけではありません。感染症を予防するためには毎日の丁寧な洗浄が必要となります。

汚染されたペットフード

 市販されている既製品でも家庭で作った手作り食でも、大腸菌やサルモネラ菌といった食中毒性病原体による汚染が確認されています。特にローフード(raw food)と呼ばれる未加熱の食材ではクロストリジウム・ディフィシルの汚染リスクが17倍も高いとの報告もあります。 生肉主体の犬向け食(ローフード)には高確率で病原菌や寄生虫が含まれている  フードが汚染されている場合、そのフードを入れる食器もまた間接的に汚染されてしまうことは避けられません。例えば2010年に行われた調査では犬用の食器84個のうち6個からクロストリジウム・ディフィシルが検出され、汚染度に関してはトイレの便器よりも高かったと報告されています出典資料:Weese, 2010)。また2012年の調査では家の中にある様々な器物の表面26種のうち、ペット向け水皿の好気性細菌による汚染度が3番目に高かったと報告されています。さらに大まかな区分で見た場合、「ペット関連のグッズ」が最も汚染されていたとも出典資料:Donofrio, 2012)

食器の不衛生な扱い

 フードや食器が汚染されていたとしても、適切な衛生管理を行えば病原体との接触リスクを減らすことはできます。しかし飼い主の大部分にはそうした意識がないようです。
 今調査で飼い主たちから寄せられた417の有効回答を集計したところ、FDA(食品医薬品局)が公開しているペットフードの取り扱いガイドラインを事前に知っていた人の割合は5%以下でした。また食器を洗う頻度に関しては「週に1度」が22%、「3ヶ月に1度~まったく洗わない」が18%と大部分を占め、「毎日」と回答した人はわずか12%でした。さらに全体のおよそ32%の飼い主は人間向けの食事を用意するのと同じ場所でペットフードの用意をし、43%の飼い主は人間の食器と犬の食器を同時に洗っていると回答しています。
 犬は家族(人間)の一員という意識が強いためか、多くの飼い主では驚くほど衛生観念が欠如しているようです。

基本は温水での毎回の洗浄

 2008年に発生した複数の州にまたがるペットフードのリコール事件を検証したCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、ペットフードの不適切な扱い、キッチンにおける直接・間接接触、食器洗浄の不徹底がSalmonella Schwarzengrund汚染の原因ではないかと推測しています出典資料:CDC, 2008)
 かなり面倒ではありますが、病原体の交差感染を防ぐためには犬の食器や水皿を毎日洗ってあげる習慣が重要なようです。例えば今回の調査では「冷水~ぬるま湯」で洗ったときよりも「温水 or 食器洗浄機」で洗ったときの方がCFUが平均して1.5log10減少する可能性が示されましたので、理想は人間用の食器とは違う場所(タイミング)で、温水を用いて毎日洗浄することになるでしょう。
 しかしグループAとBに振り分けられた飼い主のうち、全てのガイドラインを長期的に完璧に守れそうと回答した割合はわずか8%でした。理想と現実の間にはかなりのギャップがあるようですが、家庭内に免疫力が低い子供や、病気や老化で免疫力が低下した人がいる場合は、「面倒くさい」を乗り越えるだけの高い衛生意識が求められます。