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短頭種は犬同士のコミュニケーションが苦手?~表情筋の制約により誤解される危険性あり

 頭の形を大きく歪めたまま品種固定された短頭種は、骨だけでなくそれを覆う軟部組織まで変形しています。その一例が「表情筋」で、犬同士のコミュニケーションに支障をきたす可能性が示されました。

短頭種の表情筋は短い

 調査を行ったのはドイツにあるハノーヴァー大学のチーム。医学的な理由で安楽死となった短頭種7頭(ボストンテリアボクサー2頭/イングリッシュブルドッグフレンチブルドッグ2頭/ペキニーズ)と、さまざまな犬種に属する長頭種8頭を検体とし、頭部に含まれる筋肉のうち表情の形成に特に重要な「表情筋」(mimic muscle)に着目して形態学的な比較を行いました。
犬の表情筋
犬における代表的な表情筋の付着位置
  • 1: 頬骨筋
  • 2: 内眼角挙筋
  • 3: 外眼角後引筋
  • 4: 眼輪筋
  • 5: 口輪筋
  • 6: 鼻唇挙筋・鼻部
  • 7: 鼻唇挙筋・唇部
  • 8: 上唇挙筋
  • 9: 犬歯筋
 筋肉の長さと頭の長さ(外後頭隆起~鼻尖)、および頭蓋インデクス(両頬骨間の距離× 100 ÷頭の長さ)とを比較したところ、各表情筋の長さには明白な犬種差があることが判明したといいます。さらに比率だけでなく形態にも違いが見られ、短頭種では表情の表出に制約が加わって犬同士のコミュニケーションに支障が出ている可能性があるとの結論に至りました。
Comparative morphometric study of the mimic facial muscles of brachycephalic and dolichocephalic dogs
Anatomia, Histologia, Embryologia, Katharina Zoe Schatz, DOI:10.1111/ahe.12729

短頭種における表情の制約

 調査チームは具体的に以下のような筋肉群に解剖学的な制約が加わり、短頭種における表情の表出能力を低下させているのではないかと懸念しています。
表情筋への制約
  • 頬骨筋長頭種では頭の長さの59%で吻側(前方)に長く走行するのに対し、短頭種では頭の長さの86%で吻腹側(前下方)に走行する。垂唇(口角にある余った皮膚組織)の邪魔もあり、唇や口の形を微調整できないのでは? 短頭犬種と長頭犬種における頬骨筋の違い
  • 鼻唇挙筋短頭種では鼻梁のしわと脂肪組織に埋もれており、つねに鼻にシワが寄った形になる。この形は威嚇するときのものなので犬の世界で脅威と取られるのでは?逆に威嚇しようとしても鼻にシワを寄せることができないので、自身の感じている恐怖や不安を相手に正確に伝えられないのでは? 短頭犬種と長頭犬種における鼻唇挙筋の違い
  • 眼球周辺筋短頭種では顔面における目の占める割合が大きいが、眼球周辺の筋肉(外眼角後引筋・内眼角挙筋・眼輪筋)は短い。常にカッと目を見開いた刮目状態にあるので、他の犬には脅威に見えるのでは? 短頭犬種と長頭犬種における眼球周辺筋の違い
 上記したような特徴から調査チームは、短頭種はたとえニュートラルな状態にあっても「怒っている」とか「威嚇している」誤解される可能性があると指摘しています。さらに短頭種の中にはしっぽが短い犬種がいたり、脊柱後弯症の影響から足を伸ばしたまま竹馬様歩行する犬種がいるため、コミュニケーションツールが制限されてこうした誤解を助長しているのではないかとも。 フレンチブルドッグの脊柱変形(脊柱後弯症)
「散歩していただけで他の犬に噛みつかれた」という場合、短頭種特有の骨格と筋肉が誤解を招くような表情を作り出しているのかもしれません。