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ドッグフードと発ガン性物質「アクリルアミド」の危険性~ドライタイプに高濃度で含まれている

 2000年に入ってから発がん性が確認された化学物質「アクリルアミド」。特にドライタイプのドッグフードに高濃度で含まれていることが確認されていますが、犬への悪影響はどの程度なのでしょうか?

アクリルアミドとは?

 アクリルアミド(acrylamide)とは「毒物及び劇物取締法」により劇物に指定されている化学物質の一種です。分子式はC3H5NOで「アクリル酸アミド」「2-プロペンアミド」とも呼ばれます。
 アクリルアミドモノマーの分子構造日本国内での主な用途は紙力増強剤(紙の強度を高め破れにくくする)、繊維加工(繊維の性質を改良したりシワを出来にくくする)、沈殿物凝集剤(排水中等の粒子を凝集し沈殿させる)、土壌改良剤(土の粒子を小さなかたまりに団粒化し、水の浸透性や保水性、空気の通過性を改良する)、接着剤(ガラス繊維等の接着剤の原料に利用)、塗料(アクリル系塗料の原料に利用)などです出典資料:食品安全委員会)アクリルアミドはデンプンを高温で調理した際に大量に生成される  通常は工業利用される物質ですので人間との接点は限られていると考えられてきましたが2002年4月、スウェーデン政府とストックホルム大学が共同で行った研究により、ジャガイモデンプンを始めとする炭水化物を120 ℃以上の高温で加熱した場合にアクリルアミドが生成され、遺伝毒性や発がん性を発揮する危険性を否定できないことが明らかになりました。その後世界各国で研究が進み、高温によって食品中のアミノ酸の一種「アスパラギン」がブドウ糖や果糖などの還元糖と反応し、アクリルアミドへ変化するという発生メカニズムが解明されました。

アクリルアミドの安全性・危険性

 主にげっ歯類を対象とした毒性研究を通し、人間に対するアクリルアミドの安全性評価が日本を含めた世界各国で行われています出典資料:厚生労働省)
国内外の安全性評価
  • IARC国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類では、人に対する発がん性の証拠は不十分だが、動物実験における発がん性の証拠が十分に揃っていることから「2A=人に対しておそらく発がん性がある」に分類されています。ちなみに同じクラスにはベンツピレン、クレオソート、ディーゼルエンジンの排気ガスなどが含まれます。
  • JECFAFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)では平均的な摂取量(体重1kg当たり1日1μg) の場合、生殖毒性、発生毒性その他の毒性影響はないと考えられるものの、発がん性への懸念は払拭できないとしています。一方、高摂取群(体重1kg当たり1日4μg)の場合、動物を用いた毒性試験でみられた神経の形態的変化がヒトでも生じる可能性を排除できないとしています。
  • EFSA欧州食品安全機関(EFSA)は人における平均的な摂取量を体重1kg当たり1日0.4~1.9μgと想定し、食事由来のアクリルアミド暴露量による懸念はないとしています。ただし発がん性に関してだけは、ヒトにおける健康影響は明確ではないものの、動物実験から算出した暴露マージンが低いことから懸念があるとしています。
  • 食品安全委員会日本の食品安全委員会が行った食品健康影響評価では、アクリルアミド推定平均摂取量を体重1kg当たり1日0.24μgと想定し、食品由来のアクリルアミド摂取による発がん以外のリスクは極めて低いとしています。一方、発がんリスクに関しては、ヒトにおける健康影響は明確ではないものの、動物実験を通じて公衆衛生上の懸念が払拭できないとしています。
 これらの知見を踏まえた国内における現在の目標は、「合理的に達成可能な範囲でできる限りアクリルアミドの低減に努める」という漠然としたものです。有史以前から火を用いた調理が行われてきましたので、今更アクリルアミドの摂取量をゼロにすることは現実的に不可能と考えられています。

アクリルアミドの発がん性

 人間が職業上の暴露や事故によってアクリルアミドを口、肺、皮膚から大量に吸収した場合、筋力低下、感覚異常、知覚麻痺、歩行異常といった中枢及び末梢神経系の障害が引き起こされます。発がん性に関してはよく分かっていないものの、げっ歯類を対象とした調査では明白な発がん性が確認されています。以下は一例です出典資料:農林水産省 | 出典資料:食品安全委員会)
げっ歯類への発がん性
  • ラット強制的に経口投与した場合、オスラットでは精巣中皮腫、甲状腺ろ胞細胞腺腫が、メスラットでは甲状腺ろ胞細胞腺腫、乳腺腫、中枢神経系の神経膠腫、口腔乳頭腫、子宮腺がん、陰核腺腫がそれぞれ用量に依存して増加した
  • マウス強制的に経口投与もしくは腹腔内投与した場合、肺腺腫の発生動物数と1匹あたりの肺腺腫数が用量に依存して増加した
  • マウス経口的、経皮的、腹腔内に投与した後、代表的な発がんプロモーターであるテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)を皮膚に塗布すると、アクリルアミド用量に依存して扁平上皮がんが増加した
 日本国内でも国外でも発がん性に関する懸念は認識されていますが、「ADI(一日摂取許容量)」のような形で摂取量に具体的な数値基準を設けているわけではありません。日本人におけるアクリルアミド推定平均摂取量「体重1kg当たり1日0.24μg」 が、人体に対してどのような悪影響を及ぼすのかは分かっていないのが現状です。

アクリルアミド含有食品

 アクリルアミドは炭水化物を多く含む原材料を120℃以上の高温で加熱調理した食品に多く含まれる可能性があります。例えば以下は2004年3月に開催された第36回コーデックス食品添加物汚染物質部会(CCFAC)で公開された、日本を含む国々におけるアクリルアミド含有量の測定結果です出典資料:食品安全委員会)代表的な食品1g中に含まれるアクリルアミドの濃度  日本人のアクリルアミド平均摂取量に関し、食品安全委員会が食品グループ別に産出したところ、高温調理した野菜が56%(炒めたもやし・フライドポテト・炒めたたまねぎ・炒めたれんこん・炒めたキャベツ等)、飲料が17%(コーヒー・緑茶・ウーロン茶・麦茶等)、菓子類・糖類が16%(ポテトスナック・小麦系菓子類・米菓類等)、穀類が5.3%(パン類等)、その他の食品が6.2%(ルウ等)だったとしています出典資料:厚生労働省)アクリルアミドを高濃度で含む炒めものと揚げ物  2002年、食品にアクリルアミドが含まれると判明して以来、名指しされた一部の食品に関しては関連事業者が低減に向けた自主的な取組を行っています。例えば日本ではポテトチップス及びフライドポテト内の含有濃度が低下している事実が、農林水産省のランダム調査により明らかになっています出典資料:農林水産省)

ドッグフード中のアクリルアミド

 ドッグフードの製造過程ではパッケージングする前に原材料を高温殺菌する必要があります。成分にデンプンが含まれている場合、やはりアクリルアミドが生成されてしまうのでしょうか?
 調査を行ったのは麻布大学を中心としたチーム。文部科学省が進める「私立大学研究ブランディング事業」の一環として2019年から2020年の期間、日本国内で市販されているドライタイプのドッグフード30商品(製造会社10社)、レトルトタイプのウエットフード13商品(6社)、缶詰タイプのウエットフード8商品(2社)を購入し、中に含まれているアクリルアミドの濃度を計測しました。 ウエットタイプとドライタイプのドッグフードに含まれるアクリルアミドの濃度  その結果、レトルト(平均11.0ng/g)と缶詰(平均10.7ng/g)の含有濃度に格差は見られなかったものの、ウエットフード(レトルト/缶詰)と比べてドライフードには統計的に有意なレベルで高濃度のアクリルアミドが含まれていたと言います。具体的には平均が「39.6ng/g」、中央値が「38.3ng/g」、上下限が「14.7~68.6ng/g」というものでした。ウエットタイプの湯煎殺菌に対し、ドライタイプの高温高圧殺菌がアクリルアミドの生成量を激増させたものと推測されています。
Acrylamide in dog food
Kazutoshi Sugita, Junpei Yamamoto, Kimika Kaneshima, et al., Fundamental Toxicological Sciences (2021) 2, DOI:10.2131/fts.8.49

ドライフードは危険?

 ウエットフードと比較した場合、ドライフードに高濃度のアクリルアミドが含まれていることは事実ですが、これが犬におけるがんの発生率に直結しているのかどうかはよく分かっていません。
 例えば活動量が平均レベルの体重10kgの犬の1日に必要なカロリー数を630kcal、ドライタイプのドッグフードのカロリー数を3.8kcal/gと想定した場合、1日に166g食べることになります。今回の調査で明らかになったアクリルアミドの平均含有濃度「39.6ng/g」を当てはめると、1日に6,574ng(=6.57μg)摂取することになり、さらにこれを体重1kgに換算すると「0.66μg/kg」で、人間における平均摂取量「0.24μg/kg」の2.75倍ということになります。
 JECFAによる毒性評価では、発がん性に関して腫瘍発生が10%増加するベンチマーク用量95%信頼下限値(BMDL10)として、オスマウスのハーダー腺の腫瘍形成における「180μg/kg体重/日」と、メスラットの乳腺腫形成における「310μg/kg体重/日」がそれぞれ採用されています出典資料:農林水産省)
 犬における1日摂取量の273~470倍という高い値ですが、げっ歯類と犬の代謝がまるっきり同じというわけではありませんので、単純計算で「まあ安全だろう」と解釈するのは早計かもしれません。人間の食品と同様、長期的に摂取した場合発がん性への懸念を払拭できないと想定しておくのが妥当だと考えられます。
アクリルアミドは発見されてからまだ日が浅い発がん性物質です。海外の報告ではおやつのスナックにも含まれていることが確認されていますので、今後の慎重なモニタリングが必要となります。