トップ2021年・犬ニュース一覧2月の犬ニュース2月16日

犬の睡眠不足(寝不足)は2型糖尿病の原因になり得る

 インスリンの不足や機能不全によって発症する2型糖尿病。犬にも発症する病気ですが、食習慣の他に「睡眠不足」という意外な伏兵がリスクの増加に関わっていることが明らかになりました。

睡眠不足と犬の糖処理能

 調査を行ったのはコロラド州立大学健康運動科学科のチーム。睡眠不足が2型糖尿病の発症リスクになり得るかどうかを確かめるため、24頭の犬を対象とした検証実験を行いました。
2型糖尿病
膵臓におけるインスリン(血液中の糖分を組織内に誘導するホルモンの一種)の分泌量が少ないか、膵臓から分泌されるインスリンの量は十分あるものの、その作用が低下することで高血糖が引き起こされるタイプの糖尿病。犬の糖尿病
 調査に参加したのはやせすぎでも太りすぎでもない普通体型の犬24頭。すべてミックス種のオスで、参加前の目視身体検査、体温測定、ヘマトクリット測定によって臨床上健康と判断されました。
 まず通常の固形食(炭水化物39.2%/タンパク質32.5%/脂質28.3%)を摂った後および24時間に渡って睡眠を剥奪した後における糖の処理能力を静脈内グルコース負荷試験によって比較しました。その後、24頭の中から8頭だけを選別し、9ヶ月間(31~42週間)に渡って高脂肪食(脂質52%)を給餌した後のタイミングで同様の糖負荷試験を繰り返しました。結果は以下で、数値はインスリン感受性指数を表しています(単位:mU-1l-1 min-1)。
食事・睡眠状態とインスリン感受性
  • 通常食+通常睡眠=4.95 ± 0.45
  • 通常食+睡眠剥奪=3.14 ± 0.21
  • 高脂肪食+通常睡眠=3.74 ± 0.48
  • 高脂肪食+睡眠剥奪=3.28 ± 0.37
 「通常食+通常睡眠」をベースラインとした場合、残りの3パターンにおいてはどれも統計的に有意なレベルでインスリン感受性の低下(1.21~1.81)が確認されました。一方、「高脂肪食+通常睡眠」と「高脂肪食+睡眠剥奪」との間に見られた低下(0.46)は統計的に有意とは見なされませんでした。
Impact of sleep deprivation and high-fat feeding on insulin sensitivity and beta cell function in dogs.
Brouwer A., Asare Bediako, I. Paszkiewicz, R.L. et al. Diabetologia 63, 875-884 (2020), DOI:10.1007/s00125-019-05084-5

睡眠不足は2型糖尿病のリスク

 調査の結果、犬が普通の固形食を摂食している場合、24時間の睡眠剥奪によってインスリン感受性指数の有意な低下、インスリン分泌指数の有意な低下、耐糖能の低下傾向が確認されました。要するに急性の睡眠不足によって2型糖尿病の発症因子が揃ってしまうということです。

寝不足による2型糖尿病

 睡眠不足がインスリン感受性を低下させ、2型糖尿病の発症リスクを高めてしまう生理学的なメカニズムはよく分かっていません。交感神経系やHPA軸の活性化および炎症の増加などが関わっているのではないかと推測されています。また睡眠不足が主観的な空腹感や空腹ホルモンの一種であるグレリンの分泌量を増加させて肥満を引き起こすことや、食事を自由に取ることができる時間が増えることで、つまみ食いなどの過食を増やしてしまうことなども指摘されています。
 長時間まったく眠らない「睡眠剥奪」と、睡眠時間が短縮されるだけの「睡眠不足」とは必ずしも同じではありませんが、調査チームは犬においても慢性的な睡眠不足が2型糖尿病の発症リスクになりうるのではないかと指摘しています。

高脂肪食による2型糖尿病

 犬が9ヶ月間という長期に渡って高脂肪食を摂食した場合、ベースラインの31.6kgから4.2(±1.0)kgの体重増加が確認され、それに連動する形で内臓脂肪体積もベースラインの11.3cm3から6.3(±2.2)cm3の増加を示しました。またインスリン感受性指数(SI)に関しては21(±11)%低下したものの、同時にブドウ糖に対する急性インスリン反応(AIRG)が増加したため、両者の積であるインスリン分泌能指数(DI=SI×AIRG)は不変という結果になりました。さらに高脂肪食を摂食した状態で24時間の睡眠剥奪を行った場合、インスリン感受性指数が平均33 ± 6%の減少を見せました。
 人間を対象とした実験においては、一週間に渡る過食の後で人為的に睡眠不足を引き起こした場合、脂質や糖の代謝に関与したパラメーターに変化が見られないとされています。当調査では高脂肪食でインスリン感受性が限界近くまで低下すると、そこに睡眠不足が加わってもそれ以上値が低下しないことが確認されましたので、動物種を超えた「床面効果」のようなものがあるのかもしれません。
 齧歯類を対象とした調査では、高脂肪食が睡眠や日内リズムを妨げることが報告されていたり、人間を対象とした調査では飽和脂肪酸由来のエネルギー比率増加が徐波睡眠の減少につながると報告されています。ですから人間においても犬においても「高脂肪食→睡眠不足(睡眠サイクルの乱れ)→2型糖尿病の発症リスク増大」というメカニズムには注意が必要となるでしょう。 ソリイヌの中には寒い冬の屋外で眠ることを共用されるものもいる  犬を外飼いにしていると夏の暑さや冬の寒さで頻繁に目を覚まし慢性的な睡眠不足に陥るかもしれません。また寝床の近くにエアコンの室外機があると絶えず吹き付ける風によって睡眠が妨害されてしまうかもしれません。身体的な苦痛の他に糖尿病を発症するリスクにもさらされていますので、安眠は確保してあげたいものです。 犬を庭や外で飼う