トップ2021年・犬ニュース一覧8月の犬ニュース8月24日

牛乳や牛肉にアレルギーを抱えた犬はワクチンの副反応に注意

 犬が牛肉や牛乳にアレルギーを抱えた状態で反芻動物由来物質(ウシ血清アルブミンやカゼイン)を含んだワクチンを接種すると、アナフィラキシーショックを含めた重度の副反応が引き起こされる危険性があります。

牛アレルギーとワクチン副反応

 調査を行ったのは麻布大学を中心としたチーム。動物用ワクチンによる副反応リスクを検証するため、皮膚症状を中心としたアレルギー疾患(CAFR)を抱えた犬から血液を採取し、牛乳成分および市販のワクチンに対する反応性を確かめました。
 調査対象となったのはアレルゲン不問のCAFRを抱えた112頭と、比較対照として選別された臨床上健康な20頭。前者の基準は「非季節性の慢性的なかゆみを抱え、除去食テストで症状の寛解が確認された犬」、後者の基準は「牛乳やそれを含む食品やワクチンを口にしたことがない研究所が飼育している犬」です。

牛乳成分へのアレルギー反応

 採取した血液をELISAと呼ばれる手法で調べ、血清中に含まれる牛乳に特異的な免疫グロブリンE(IgE)抗体の有無を測定したところ、CAFR群では29%(33/112頭)、比較対照群では0%の割合で陽性反応が出たといいます。
 さらに陽性だった33頭のうち血液量が十分だった26頭を対象とし、牛乳に含まれる個々の抗原成分に対する反応を調べたところ以下のようになったとも。
牛乳成分へのIgE反応率
  • カゼイン=81%
  • ウシ血清アルブミン=85%
  • α-ラクトアルブミン=39%
  • β-ラクトグロブリン=27%
  • ウシ免疫グロブリンG=35%

ワクチンへのアレルギー反応

 カゼインに対してとりわけ強い反応を示した5頭の血清をミックスし、安定剤として加水分解カゼインを含む市販のワクチン2種(A=10.24 mg/dose/B=12.5 mg/dose)および含まないワクチン2種(比較対照)に対する反応性を確かめた結果、加水分解カゼインを含有していた2種だけから高濃度のIgEが検出されたそうです。 市販のワクチンに対する免疫反応一覧グラフ IgE reactivity to milk components in dogs with cutaneous adverse food reactions
Hidekatsu Shimakura, Tadahiro Nasukawa, Jumpei Uchiyama et al., Journal of Veterinary Medical Science(2021), DOI:10.1292/jvms.21-0162

牛アレルギーの犬はワクチンに注意

 今回の調査により、皮膚症状を中心としたアレルギーを抱えた犬は高い確率で牛由来の成分に反応すること、およびとりわけ重要なアレルゲンはカゼイン(反応率81%)およびウシ血清アルブミン(反応率85%)であることが明らかになりました。また血液が牛由来のカゼインに反応する場合、カゼインを安定剤として含んだ市販のワクチンに対しても反応することが合わせて確認されました。要するに犬が牛乳アレルギーである場合、ワクチンを異物とみなして副反応が出るリスクが高くなるということです。

人医学でのリスク低減策

 人医学の分野では、重大なアレルギー反応を引き起こしうるウシ血清アルブミンなどの成分に関し、WHO(世界保健機構)が数値基準をガイドラインとして設けた結果、人間における副反応のケースが激減したという経緯があります。またワクチンの安定剤として用いられているゼラチンがアナフィラキシーショックの原因になり得ることが指摘されてから、製薬会社がゼラチンフリーの製品にシフトし、結果としてアレルギー反応の顕著な減少が見られたという先例もあります。

獣医学では軽視されている?

 一方、食品に起因する皮膚のアレルギー反応を抱えた犬たちのうち、およそ1/3が牛乳に特異的なIgE抗体を抱えていたという報告があるにも関わらず、動物用ワクチンにはいまだに反芻動物由来物質が平気で使用されています。具体的には細胞培養の過程で用いられるウシ血清アルブミンや安定剤として用いられる牛乳由来のカゼインなどです。
 今回の調査により、加水分解で分子構造が変化したはずのカゼインであってもアレルギー反応を引き起こしうることが明らかになりました。調査チームは獣医師に対し、ワクチン接種をする前に犬が牛乳(カゼイン)や牛肉(BSA)にアレルギーを抱えていないかどうかをしっかり把握する必要があると警鐘を鳴らしています。
飼い主はワクチン接種によってアナフィラキシーショックを起こす危険性があることを事前にしっかり把握しておきましょう。 犬のワクチン接種・完全ガイド