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ポリウレタン系接着剤「Gorilla Glue®」の犬に対する危険性~誤飲誤食後の胃内膨張に要注意

 米国発の接着剤ブランド「Gorilla Glue(ゴリラグルー)®」の中には水と反応して発熱・膨張し、ウレタンを形成するものがあります。1990年代に発売が開始されて以来、犬による誤飲誤食事故が後を絶ちません。

「Gorilla Glue®」とは?

 「Gorilla Glue®(ゴリラグルー®)」はアメリカ・オハイオ州に本拠地を持つ「The Gorilla Glue Company」が製造販売する接着剤ブランド。もともとは木工職人であるマーク・シンガー氏がインドネシアで発見した接着剤でしたが、北米での販売権を取得した後、ビジネスを丸ごとレグランド一家に譲渡して今日に至っています。なお米国内では同名のカナビスブランドがありましたが、商標権の侵害が認められたため「Gorilla Glue®」の名称は現在接着剤にしか使用できません。 接着剤ブランド「Gorilla Glue(ゴリラグルー)」の製品ラインナップ  アメリカ国内では1990年代半ばから販売が開始されており、現在では世界中で入手が可能な状態です。しかし人気の高まりに合わせ、犬による誤飲誤食事故が多く報告されているという事実は特記に値するでしょう。

接着剤の誤飲・最初の症例

 2003年、ジョージア大学のチームは大学付属獣医療教育病院を受診したミックス犬(2歳/未去勢)の症例を報告しました出典資料:Horstman, 2003)
 この犬は4,4’-MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を主成分とする木工用接着剤(Gorilla Premium Glue)を57gほど誤飲した後、固形食を食べて30~60分後に嘔吐するようになったといいます。嘔吐と拒食が続いた10日目、目に見えて元気を失ったためようやく動物病院を受診しましたが、その時には体重が4.5kg減り、ボディコンディションスコアが2にまで減っていたとのこと。
 エックス線撮影ではガスで囲まれた明白な異物が胃の内部で視認され、膨張した胃袋によって小腸と脾臓が尾側に追いやられている様子が確認されました。診察では腹部の痛みと膨張、血液検査では白血球の炎症徴候が確認され、最終的な診断名は「異物閉塞による幽門部の流出障害」となりました。 「Gorilla Glue®」を誤飲後、胃の内部から摘出された硬化接着剤  確定診断を兼ねた開腹手術を行ったところ、胃壁の腹側に直径1cmほどの穿孔が見つかり、腹側を切開して12 ×14 ×18 cmの異物が取り出されました。縫合後、胃穿孔に伴う軽度の腹膜炎に対処するため補液治療を行った結果、術後12時間目には水と食事の摂取が可能となり、2日後には退院することができたといいます。6ヶ月後に行われた飼い主への聞き取りでは、副作用や合併症もなく順調に回復したそうです。

1998年~2001年の誤飲事故

 上記したのと同じジョージア大学の調査チームは、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)付属の「Animal Poison Control Center」(APCC)に蓄積されたデータを後ろ向きに参照し、1998年1月から2001年1月までの期間で工業用の接着剤を誤飲誤食して消化器の閉塞が起こった症例がどのくらいあるのかを検証しました出典資料:Horstman, 2003)
 その結果、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を主成分として含む接着剤の誤食症例が合計14ケース見つかったと言います。
犬のMDI誤飲誤食事故
  • 犬たちの属性誤飲誤食事故に巻き込まれた犬たちの年齢は生後2週齢から3歳、体重は1.5kgから57kgと多様でした。
  • 誤飲誤食時の状況10症例では接着剤を入れていた容器から直接もしくは倒れてこぼれたものを誤食するというパターンでした。その他のパターンとしては使用後に溢れた部分を拭き取らなかった、余った部分を拭き取ったペーパータオルを食べた、接着剤ついた棒切れを食べたなどで、誤食から症状までのタイムラグは15分から20時間、11頭は12時間以内に集中していました。
  • 症状誤飲後の症状として多かったのは嘔吐(9/13)、拒食(8/13)、元気喪失(7/13)で、その他の症状としては腹部触診でわかる膨満(4)、下痢(3)、頻呼吸(2)、脱水症状(2)が報告されました。 犬の胃内部で膨張・硬化した接着剤のレントゲン画像 8頭に関しては外科手術が必要となり、胃袋の出口である幽門部を超えた領域に異物が進行するケースはなかったものの、膨張した接着剤が胃袋全体を埋め尽くすケースが見られました。また固まった接着剤の多くは形を保つ程度に固まっていましたが容易にバラバラになる程度の硬さで、8頭全てが容器から直接誤飲したケースでした。
  • 治療と予後治療としては抗生物質、制酸剤、粘膜保護薬(スクラルファート)の投与が行われ、5頭に関しては外科治療なしの投薬治療だけで3~9日の間に自然回復、残りの2頭に関しては何の治療もなしに自然回復したそうです。

2005年~2019年の誤飲事故

 ペンシルベニア大学の獣医療チームは大学付属の動物病院に蓄積された医療記録を後ろ向きに参照し、2005年から2019年の期間で水分に触れると膨張して硬化するMDI系接着剤の誤飲誤食事故がどのくらいあるかを調べました出典資料:Friday, 2021)
 調査の結果、合計22の症例が見つかったと言います。事故から受診までの経過時間は中央値で42時間、主症状では嘔吐(11)、診察所見では腹部触診痛(13)が多く報告されました。またエックス線検査が行われた18頭では胃内部で膨張した接着剤がガスを伴う粒状~まだら状の軟部組織として確認されました。 胃切開による接着剤の除去手術  開腹手術が行われた15頭の内訳は胃切開が14頭、十二指腸切開が1頭で、残りの7頭の内訳は内視鏡による除去が1頭、経済的理由による安楽死が1頭、保存療法が5頭というものでした。輸液治療や外科手術後、短期的に見た場合の予後は良好と判断されました。

「Gorilla Glue®」の誤飲誤食に注意

 ポリウレタン系接着剤「Gorilla Glue®」の販売が開始された1990年代半ば以降、犬による誤飲誤食事故が散発的に報告されるようになり、今でも依然としてあるようです。しかし製品の注意書きには目立たない文字で「子供・動物の届かない場所に保管」と記されているだけで、あまり緊急性を感じません。ラベルのスペースという都合もあるのでしょうが、明白な警告がないこと自体が事故の危険性を高めているという見方もできるでしょう。 「Gorilla Glue」の製品ラベルに記載されている注意書き  ASPCAが運営する「Pet Poison Helpline」でも、ペットが誤飲誤食しやすいアイテムとして「Gorilla Glue®」が製品名付きで記載されていますので、犬や猫の飼い主は十分な注意が必要です。
 日本国内では呉工業が「The Gorilla Glue Company」の正規輸入販売店として接着剤及びテープを販売していますが、水・アルコール・アミンなどの活性水素化合物と反応し、熱・ガスとともに4~8倍に膨張するMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を主成分として含んだ「White Gorilla Glue」は扱っていないようです(2021年4月時点)。 ジフェニルメタンジイソシアネートは水と反応して発熱・膨張する  MDIの誤飲誤食に関しては、誤嚥性肺炎や食道へのつっかかりが懸念されるため催吐剤の使用が推奨されていません。また水を飲ませて硬化を早めたり、消化管への移行を促すような介入も推奨されません。もっとも確実で安全なのは開腹手術ですが、そもそもこの成分の危険性があまり知られていないのが問題だと指摘する声もあります出典資料:Fitzgerald, 2013)MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を主成分として含んだ「White Gorilla Glue」  「White Gorilla Glue」に関しては大手通販サイトで入手が可能な状態です。ひとたび誤飲誤食事故が起こると、接着剤と体液が反応して胃袋の中で発熱・膨張後にウレタンを形成し、最終的には体に対する負担が大きい開腹手術を余儀なくされますので予防を徹底するようにしましょう。
商品の大きさが犬のおもちゃくらいですので、勘違いしてガジガジしないようくれぐれもテーブルの上に放置しないようにしましょう。誤飲が疑われる場合は無理に水を飲ませたりせず、すぐ動物病院を受診して製品の特徴を説明してください。