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犬におけるカナビス(カンナビス, 大麻)中毒統計~規制がゆるい地域ほど誤飲事故のリスクが高まる

 国際的には規制を緩和する方向で動いているカナビス含有製品。アメリカ国内でカナビスが原因と考えられる犬の中毒事例を調べたところ、誤飲誤食事故のリスクを高める要因がいくつか浮かび上がってきました。

カナビスとは?

 カナビス(カンナビス, 大麻, あさ)はアサ科アサ属の一年生植物。人類とは1万年以上の付き合いがあり、茎や皮に含まれる繊維は工業(麻紙・麻布)、実に含まれる油は医療や娯楽に用いられます。 アサ科の植物カナビス(Cannabis sativa)  カナビスに含まれる成分は「カナビノイド」と総称され、100種類以上が確認されています。代表的な成分は以下です。
代表的なカナビノイド
  • THCテトラハイドロカナビノール/カナビスの樹液腺から分泌される精神に働きかける主成分で、リラクゼーションや多幸感を引き起こす。煙にして吸引すると分子が血流に入り、脳内(大脳皮質・小脳・大脳基底核)にある特殊なカナビノイド受容器と結合して作用を発揮する。
  • CBDカナビジオール/神経に働きかけて不安を和らげるとされているがエビデンスレベルは低い。副作用としては疲労感、下痢、食欲の変化、眠気や不眠などが報告されている。
 北米においては連邦法によって所有と使用が禁じられているものの、州レベルでは医療目的や娯楽目的の使用が緩和される傾向にあり出典資料:FDA)、すでに以下のような製品がグレーゾーンにあるものも含めて流通しています。
さまざまなカナビス製品
  • オイル
  • 飲料
  • チョコレート
  • グミ
  • カプセル錠
  • 犬向け製品
カナビス(CBD)を含んだ犬向けのおやつ(トリーツ)の一例  「犬向け製品」にはおやつ、ピーナツバター、チンキなどが含まれます。しかし毒性は十分に検証されておらず、生の植物であれ、医療用に加工された製品であれ、娯楽用に加工された製品であれ、最小致死量(MLD)や半数致死量(LD)は明らかになっていません。
 過去に行われた調査では、医療用カナビスの使用許可を有している飼い主の割合と、犬におけるカナビス中毒の割合が正の関係にあると報告されているため、今後合法化が進むにつれ使用者による乱用だけでなく、子供・動物による誤飲中毒事故が増えると懸念されます。

犬のカナビス中毒・危険因子

 カナダにあるゲルフ大学の調査チームは2009年1月1日から2014年12月31日の期間、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)が運営するアニマル中毒コントロールセンター(APCC) のデータベースに蓄積された133,309件の症例を参照し、犬の属性や住んでいる地域によってカナビス中毒のリスクがどのような影響を受けるかを統計的に検証しました。
 データを調べた結果、疑わしいものまで含めた中毒症例が以下の件数で見つかったといいます。
犬のカナビス中毒事故
  • 生のカナビス=1,315件
  • 合成カナビノイド=68件
  • THC=97件
  • CBD=2件
  • ハッシュオイル=4件
  • 麻の実オイル=1件
 さらにこれらの症例を国の経済社会的データ、州レベルの法規制、郡や地域レベルの変数とからめて統計的に計算したところ、犬におけるカナビス中毒のリスクに関して以下のような事実が浮き上がってきました。

罰則規定

 州法で定められた罰則規定が緩くなるほど犬のカナビス中毒リスクが高くなることが確認されました。具体的には、完全に違法化されている州を基準とした場合、医療用カナビスだけが合法化されている州におけるオッズ比が1.36、医療用及び娯楽用カナビスの両方が合法化されている州におけるオッズ比が1.59というものです。 アメリカにおけるカナビスに対する州法規制状況一覧(2021年版)  カナビスの利用が合法化され、使う人の数が増えるとうっかりテーブルの上に置き忘れる人の割合も単純に増えるため、犬が誤飲してしまうリスクも上がるのは当然の成り行きです。その他、食べるタイプの製品に含まれるチョコレートが中毒症状を悪化させた可能性も考えられます。またそれまで違法だった製品が合法となったため、中毒の原因を正直に報告する人が増えて数値上の患犬数が増えたというパターンもあるでしょう。

所得格差

 特定地域の所得格差が大きくなるほど犬のカナビス中毒リスクが高まることが確認されました。具体的にはジニ係数が小さい(0.44未満)地域を基準としたとき、係数が大きい(0.468超)地域のオッズ比が1.26というものです。
 過去に行われた複数の調査では、所得格差が大きい地域に暮らしている人ほどカナビスの利用割合が高く、特に所得が低くて経済的に不安定な人における利用率が高いと報告されています。

都市部の人口

 特定の郡内における都市部の人口比率が高いほど犬のカナビス中毒リスクが高まることが確認されました(1%上昇につきOR1.006)。
 郊外に比べて都市部の方が物流がよく、また街中の広告、実店舗、利用者を目にする機会が多いため、「自分も使ってみよう」と触発される人の割合が増えるのかもしれません。過去に行われた調査でも、人間におけるカナビスの乱用は都市部にある医療センターで多かったと報告されています。

時間の経過

 年が経つにつれ犬のカナビス中毒リスクが高まることが明らかになりました(1年経過につきOR1.07)。
 合法化する地域が増えることで利用者が増えたこと、商品のバラエティが増えたこと、中に含まれているカナビノイドの量が増えたことなどが要因として考えられます。同時期におけるオピオイドによる中毒事例は減少傾向を示していますので、中毒の認知度がまだ低くカナビスに対する警戒心が十分に育っていないことがうかがえます。

犬の性別

 メス犬を基準とした時のオス犬のオッズ比が1.2(リスク20%増加)、未手術を基準とした時の不妊手術済みのオッズ比が0.84(リスク16%低下)であることが確認されました。
 解釈は難しいですがオピオイド中毒においても同じ傾向が確認されていますので、性腺ホルモンが何らかの形で行動に影響を及ぼしたものと推測されます。行動メカニズムを度外視して端的に表現すると「未手術のオス犬における中毒リスクが一番高い」となります。

体の大きさ

 犬の体の大きさがカナビス中毒のリスクに関わっていることが明らかになりました。具体的には小型犬(7.2kg未満)を基準とした場合の中型犬(7.2~21.5kg未満)および大型犬(21.5kg以上)のオッズ比が共に0.82というものです。
 体が小さいため少量の誤食でも中毒症状に発展しやすいことや、愛玩動物や子供の代わりとして扱われることが多いため、心配した飼い主がすぐに報告することなどが数の増加に寄与していると考えられます。
The impact of state cannabis legislation, county-level socioeconomic and dog-level characteristics on reported cannabis poisonings of companion dogs in the USA (2009?2014)
Howard-Azzeh M, Pearl DL, Swirski A, Ward M, Hovdey R, O’Sullivan TL, et al. (2021) . PLoS ONE 16(4): e0250323, DOI:10.1371/journal.pone.0250323

カナビス中毒は日本でも要注意?

 犬におけるカナビス中毒は規制緩和に連動する形でリスクが増加するようですが、現在の日本国内においてそれほど心配する必要はないでしょう。
 これまで日本の法律では大麻の所持・譲り受け・譲り渡しが大麻取締法24条の2において罰則が規定されていたものの、不思議なことに最も肝心な「使用」については規制されていませんでした。理由は、使用を規制して罰則を設けてしまうと、七味唐辛子に含まれる麻の実をうどんと一緒に食べた子供や、収穫中に成分を吸い込んだ麻の栽培農家までも場合によっては逮捕する必要性が生じるからです。 七味唐辛子に含まれている麻の実  しかし2021年、大麻取締法違反者が年々増加していることに懸念を抱いた厚生労働省が、新たに大麻の使用罪を創設するために動き出しました出典資料:厚生労働省)。この背景にあるのは、大麻を「ゲートウェイドラッグ」としてその他の禁止薬物に手を染める人が多くいることや、犯罪者の半数以上が20歳以下の若齢層で占められていることなどです。
 医療目的の可能性が検討されているものの、少なくとも娯楽目的の商品が国内で流通することはないでしょう。そういった意味では犬における中毒事故の心配はないと言えます。ただし飼い主が何らかのルートを通じてカナビスを入手して使用している場合は犬の誤飲誤食リスクがありますのでご注意ください。
都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者(大麻栽培者・大麻研究者)以外は法律をよくご確認ください。輸入品に際してもガイドラインが示されています。なお一部合法とされるCBD(カンナビジオール)の安全性や法的な位置づけに関しては以下の記事をご参照ください。犬におけるカンナビジオール(CBD)の効果と副作用