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犬の鼻に入り込みやすい異物は?~急なくしゃみ、鼻水、鼻血が出たらすぐ動物病院へ

 犬の鼻に入ったまま外に出ることも胃の中に落ちることもできずその場にとどまる鼻腔内異物。鼻の穴にとりわけ入りやすいものはあるのでしょうか?

犬の鼻腔内異物・疫学調査

 犬の鼻腔内異物に関する調査を行ったのはポルトガルにあるリスボン大学獣医学部のチーム。2012年4月から2019年6月までの期間中、大学附属の動物病院に蓄積された医療データを後ろ向きに参照し、鼻鏡検査(rhinoscopy)によって鼻の中の異物が確認された症例だけをピックアップしてどのような傾向があるのかを統計的に検証しました。 全身麻酔下で鼻鏡検査を受ける犬の様子  その結果、42頭分の症例が見つかったといいます。犬たちの年齢中央値は4歳(6ヶ月齢~16歳)、平均体重は21.8kg(3~40kg)、オス犬は59.5%(25頭)でメス犬は40.5%(17頭)でした。その他の詳細は以下です。
鼻腔内異物の特徴
  • 症状主な症状はくしゃみ(78.6%)、鼻血(38.1%)、鼻水(35.7%)、逆くしゃみ(9.5%)などでした。また鼻水の具体的な内容が記録されていた12頭のデータでは50%が粘液膿性、41.7%が粘液性、8.3%が血液性という内訳でした。
  • 受診までの時間症状が出てから病院を受診するまでのタイムラグが判明した33頭のデータでは、24時間以内が33.3%、1~7日が45.5%、2~4週間が18.2%、そして4週間超が3.0%でした。
  • 異物の内容鼻腔内から見つかった異物の具体的な内容は90.5%までもが「ノギ」(芒)で、7.2%が鉱物(骨と小石)、2.4%が繊維(おそらく犬用ベッドの一部)という内訳でした。 犬の鼻腔内異物~ノギと繊維
  • 鼻腔の左右差異物の発見場所に関しては右の鼻が52.4%、左の鼻が42.9%、そして両方の鼻の穴が4.8%でした。
  • 予後追跡調査を行った35頭のうち97.1%では異物を除去した後に症状の改善が報告されました。残りの1頭に関しては歯根部に膿瘍が見つかったため治療を行ったところ、改善が確認されたといいます。
Nasal foreign bodies identified by rhinoscopy in dogs: 42 cases
Maria Joana Dias, Sofia Mouro, et al., Journal of Small Animal Practice (2020), DOI: 10.1111/jsap.13220

異物が入りやすい犬の特徴は?

 犬の基本属性を見る限り、7歳までの犬が76.2%(32/42頭)、10kg以上の犬が78.6%(33/42頭)でした。若くて活発だと屋外でいろいろな場所に鼻先を突っ込む機会が多く、体重が重いと(=体が大きいと)それに比例して鼻の穴が大きくなるのでしょうか。意外なことに、鼻腔狭窄が特徴の短頭種(ボクサー+フレンチブルドッグ)が14.3%(6頭)という高い割合を占めていましたので「鼻ぺちゃだから異物は入り込まないだろう」という油断は禁物のようです。 草むらを無防備で散歩すると犬の鼻にノギが入り込みやすい  異物の90%までもが「ノギ」(grass awn)と呼ばれる植物の一部でした。また全体の71.4%(30/42頭)が5月から8月の受診だったといいます。おそらく屋外に出て草むらをクンクン嗅ぎ回っているうちに、空気とともに植物を吸い込んでしまうのでしょう。鼻腔内にとどまった異物を長期間放置すると、慢性的な違和感と炎症、局所的な組織の壊死などを引き起こしてしまいます。症状の発現から受診まで4週間超の時間が空いたケースが3.0%もありましたので、「くしゃみ」「鼻血」「鼻水」などの症状が急に現れた場合はできるだけすみやかな検査が望まれます。
 16歳という高齢犬の症例では、症状の出現から1ヶ月が経過してようやく受診し、年齢的に悪性腫瘍の可能性を否定できないためCTスキャンという高額な検査が行われました。もっと早く受診していれば鼻鏡検査だけで済み、医療費も犬の感じる苦痛も少なくて済んだはずです。
鼻鏡検査はCTスキャンよりも異物の発見効率がよく、検査と治療(=異物除去)を一緒に行えるというメリットがあります。急なくしゃみや鼻血にはくれぐれもご注意を。犬に多い鼻の病気