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犬が中毒に陥る危険が高い皮膚薬が判明~塗り薬・軟膏・ローションすべてに要注意

 北米で17年間に渡って集められた中毒症例の中から、皮膚薬に関連したものだけをピックアップして検証した結果、最も危険な成分が明らかになりました。

犬の皮膚薬中毒・疫学

 調査を行ったのは「Veterinary Information Network」(獣医療情報ネットワーク)と「ASPCA」(アメリカ動物虐待防止協会)からなる共同チーム。2001年1月から2018年1月の期間、 APCCに寄せられた相談の中から、皮膚局所薬(塗り薬・軟膏・ローションなど)に関連した症例だけをピックアップし、一体どのような成分がペットの中毒事故に関わっているのかを検証しました。
APCC
「Animal Poison Control Center」(APCC)はASPCAがアメリカとカナダに暮らす犬や猫の飼い主及び獣医師からの毒物や中毒に関する相談を24時間体制で受け付けている機関。
 センターに集積された膨大な数のデータを検証した結果、以下のような事実が判明したといいます。
犬と猫の皮膚薬関連中毒
  • 犬に関する相談件数は46,289件
  • 猫に関する相談件数は14,880件
  • 犬猫合わせて177の製品が関与していた
  • 全体の37.5%(22,910件)では何らかの症状が出た
  • 症状が出たケースのうち人間向けの薬が関与していた割合は15.1%(3,463)
  • 人間向けの薬のうち73.5% (2,545)は医師の処方箋が必要な要指示薬
  • 人間向けの薬に関連した犬の相談は92.6%(3,206)
  • 人間向けの薬に関連した猫の相談は7.4%(257)
  • 人間向けの薬を経口摂取したケースが94.2%(3,262)
  • 人間向けの薬を経皮摂取したケースが5.3%(184)
  • 軽症例が68.2%(2,361)
  • 中等度~死亡例が31.2%(1,080)
  • 合計44種の有効成分が中毒に関与していた
Dermatological topical products used in the USpopulation and their toxicity to dogs and cats
Kathy Chu Tater, Sharon Gwaltney-Brant, Tina Wismer, Veterinary Dermatology(2019), DOI: 10.1111/vde.12796

犬の皮膚薬中毒・実例集

 以下は「Animal Poison Control Center」(APCC)に寄せられた犬と猫の中毒症例の中から、皮膚薬に関連したものだけをピックアップしたものです。全部で44種類の成分が確認されましたが、報告頻度の高いものだけが紹介されています。
 なお「中等=症状がやや重く長く続き、獣医師による介入がある程度必要となる症例」「重症=生命に危険が及ぶレベルで、集中的もしくは長期的な治療を必要とする」「死亡=治療の甲斐なく死んでしまった、もしくは治療の見込みがなく安楽死が施された」という意味です。
成分名称中等重症死亡
アシクロビル--
アダパレン--
エストラジオール-
ガバペンチン
カルシトリオール
カルシポトリエン
クロトリマゾール--
クロベタソル-
ケタミン
サリチル酸--
ジクロフェナク-
シクロベンザプリン
スルファジアジン銀--
タクロリムス
ダプソン--
デソキシメタゾン--
テトラカイン
トリアムシノロン--
ナイスタチン--
ネオマイシン--
バクロフェン
バシトラシン-
ヒドロコルチゾン--
ピメクロリムス-
フェニレフリン--
ブテナフィン--
プラモキシン--
フルオロウラシル
フルルビプロフェン-
プロゲステロン--
ヘキサクロロフェン--
ベタメタゾン
ペルメトリン-
ベンゾカイン
ポリミキシン--
ミノキシジル
ムピロシン--
モメタゾン--
リドカイン
リンデン-
過酸化ベンゾイル-
樟脳-
尿素--
硫化セレン--

犬の皮膚薬中毒・文献資料集

 以下でご紹介するのは文献という形で症例報告がある成分です。上記した症例報告に含まれているものと含まれていないものが混在していますが、報告がなかったからと言って決して安全というわけではありません。
文献報告のある皮膚薬中毒
  • バクロフェンGABA作動薬として中枢神経系の機能を抑制し、筋肉の脱力を招く
  • 過酸化ベンゾイル局所組織に対する酸化障害を招く。濃度が10%を超えるとより重症化
  • 樟脳局所や呼吸器を刺激する。中枢神経の興奮作用
  • 糖質コルチコイド強作用薬剤により体液調整機能と細胞代謝不全を招く
  • クロタミトン局所や赤血球の酸化障害
  • シクロベンザプリン中枢神経(脳と脊髄)における神経伝達様式を変化させ、抗コリンおよび抗ヒスタミン作用を招く
  • ダプソン赤血球に対する酸化障害
  • エストロゲン様作用薬胸腺の間質細胞で骨髄造血阻害因子が生成される
  • ガバペンチン恐らくはGABA仲介性回路を通じて悪影響を及ぼす
  • ハイドロキノン局所への刺激と肝臓におけるフリーラジカルの生成促進
  • ケタミンNMDAに作用して中枢神経系を抑圧する
  • 局所麻酔薬神経と筋肉におけるナトリウムチャネルを妨害
  • ミノキシジルおそらく心房や冠状動脈における過灌流が障害を招き、低血圧が心室虚血を引き起こすことで心筋の変性と壊死を招く
  • NSAIDチクロオキシゲナーゼを阻害し、消化管や腎臓における細胞保護機能が低下する
  • レチノイド急性なら肝臓壊死、慢性なら骨芽細胞と軟骨芽細胞の減少
  • 硫化セレン抗酸化作用と代謝酵素を妨害することで心肺機能を低下させる
  • タクロリムス消化管に悪影響を及ぼすが詳細なメカニズムは不明
  • ビタミンD様成分カルシウム代謝と動員を変化させ、高カルシウム血症と軟部組織のミネラル化を招く

犬の皮膚薬中毒・予防法

 皮膚薬に関連した犬と猫の中毒症例のうち経口摂取、すなわち食べたり舐め取ったりしたことで口から薬剤成分を体内に取り込んでしまうというケースが94.2%と圧倒的多数であることが判明しました。摂取ルートとしては「飼い主の体に塗られた薬を舐め取った」「自分の体に塗られた薬を舐め取った」「薬のケースやチューブを誤食した」などが想定されます。これを踏まえて飼い主の注意点を列挙すると以下のようになるでしょう。
皮膚薬中毒の予防策
  • 人やペットの体に塗った薬をなめさせない
  • 薬はペットが届かない場所に保管する
  • 薬はペットが開けられないケース内に保管する
 過去に行われた別の調査では、飼い主のうち9%もが人間用の薬を犬や猫に誤投与しているとの報告があります。皮膚薬中毒のうち、処方箋によって出された人間向けの要指示薬が15%だったという事実と考え合わせると「人間も犬も同じ哺乳類だから同じ効果があるだろう」という誤解があるように思われます。上記した注意点に加え「人間用の皮膚薬を自己判断で犬に塗布しない」という点も重要でしょう。 飼い主の体に付着した皮膚薬を犬がなめることで中毒が起こりやすい  例えば犬の場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の一種「ジクロフェナク」がひどい潰瘍を形成する危険性が指摘されています。人間用の皮膚薬だろうとペット用の皮膚薬だろうと、経口摂取は想定されていませんので、絶対になめさせないよう注意しなければなりません。 多くの飼い主が人間用医薬品をペットに誤投与している