トップ2019年・犬ニュース一覧5月の犬ニュース5月29日

パピークラスは子犬と飼い主の両方にメリットあり

 子犬の社会化を促す目的で開催されるパピークラス。このイベントに参加するかどうかが成犬になってからの行動特性に大きな影響を及ぼすことが再確認されました。

パピークラスの影響を検証する

 調査を行ったのはスペインにあるサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の獣医学チーム。2012年から2014年の間に生まれた犬合計80頭を対象とし、子犬同士を安全な環境下で触れ合わせる「パピークラス」への参加が成長後の行動特性にどのような影響を及ぼすのかを検証しました。 パピークラスは子犬同士の社会化を促すためのセッション  パピークラスに参加した犬は32頭で、そのうち15頭は生後3ヶ月齢未満の「社会化期進行中グループ」、残りの17頭は3ヶ月齢以上の「社会化期終了グループ」です。48頭はパピークラスに参加していない比較対象グループとされました。

パピークラスの内容

 パピークラスとは子犬の社会化を促す目的で開催されるイベントのこと。「パピーパーティー」などとも呼ばれます。日本では「犬の幼稚園」という表現がどこぞの企業によっていつの間にか商標登録されているため、当ページ内では「パピークラス」という表現で統一します。
 具体的な内容は以下です。1クラスのマックスは5頭まで、犬同士の月齢は1ヶ月以上離れないように配慮されました。スケジュールは1週間に1度の間隔で6週間連続、1セッション1時間です。
パピークラスセッション
  • ゲーム&レクチャーまずはリードを付けた状態で挨拶させ、慣れてきたらリードを外して人が監督している状況で15分程度自由に遊ばせる。また同時に、飼い主に対してご褒美を与えることの重要性、トイレのしつけ、動物学的に見た犬の行動や社会的コミュニケーション方法、問題行動の予防法に関するレクチャーが行われる。
  • 正の強化おやつを鼻先に近づけて特定の行動に誘導するルアートレーニング。お座り、伏せ、待て、おいでの、リーダーウォークなど。セッションの時間は犬の集中力に合わせる。
  • 休憩
  • 人との交流・ハンドリング近づいてじっとしていたらご褒美を与える、撫でられてもじっとしていたらご褒美を与える、お腹をさすったり耳を触られてもじっとしていたらご褒美を与えるなど。舌なめずりしたりあくびをするなどストレスの兆候が見られたらすぐにやめる。ハンドリングを行う人間は衣装を着替えたり見慣れないものを持ったりして子犬に対する刺激を変える。
  • ゲームノーリードの状態で子犬同士を遊ばせる。

子犬の行動特性評価

 パピークラスを終了してからちょうど1年後のタイミングで飼い主に「C-BARQ」と呼ばれるアンケート調査を行い、子犬の行動特性を客観的にデータ化しました。
 「C-BARQ」(Canine behavioral Assessment and Research Questionnaire)とは100項目からなる質問に対して飼い主が主観的に評価(0~4)することにより、子犬のキャラクターを13の側面から分析する評価法のことです。パピークラスに参加しなかった犬の飼い主に対しても同じタイミングでアンケート調査に回答してもらいました。
 「C-BARQ」を集計した結果、パピークラスに参加した犬としなかった犬との間に、統計的に有意な格差が見られたと言います。具体的には以下です。

親しい犬に対する攻撃性

 パピークラスに参加しなかった犬が参加した犬よりも高い値(=攻撃的である)を示す確率は2.6倍。不妊手術を受けていない犬が受けた犬よりも高い値(=攻撃的である)を示す確率は3.3倍。

訓練性

 パピークラスに参加した犬が参加しなかった犬よりも高い値(=訓練性が高い)を示す確率は3倍。

非社会的な恐怖

 パピークラスに参加しなかった犬が参加した犬よりも高い値(=犬や人間といった生物以外に対する恐怖心が強い)を示す確率は2.8倍。

接触感受性

 パピークラスに参加しなかった犬が参加した犬よりも高い値(=人に触られることが苦手)を示す確率は3.1倍。
Association between puppy classes and adulthood behavior of the dog
Journal of Veterinary Behavior (2019), doi: https://doi.org/10.1016/j.jveb.2019.04.011

パピークラスは子犬の社会化を促す

 パピークラスは1週間に1度の間隔で6週間連続、1セッション1時間というスケジュールで行われました。合計してもたった6時間ですが、この短い時間における経験が子犬の性格形成に対して決定的に重要な役割を担っているようです。
 パピークラスに参加した犬たちの間で見られた行動特性は、人と共に生活していく上で重要な要素だと考えられます。

親しい犬に対する攻撃性低下

親しい犬に対する攻撃性」は多頭飼育家庭において重要になるでしょう。犬同士のいがみ合いが減れば家庭内におけるストレスも軽減し、トラブルに発展することがなくなります。

訓練性の向上

 「訓練性」は犬に正しい行動を教え込むときに決定的に重要になります。犬の物覚えが良ければ飼い主のストレスも減りますし、飼い主のストレスが減れば突発的に敵対的な行動をとることもなくなりますので、犬と人間の間の信頼関係や絆も深まるでしょう。例えば不機嫌そうに舌打ちをしたり「このバカ犬が!」と怒鳴りつけるなどです。

非社会的な恐怖低下

 「非社会的な恐怖」、すなわち生き物以外に対する恐怖心は、パピークラスそのものよりも、パピークラスが開催される会場に赴くというイベント自体が偶発的なトレーニングになった可能性があります。クレートに入るにしてもリードにつながれて路上を歩くにしても、道中には色々な音、匂い、自動車、オートバイ、自転車など、非生物的な刺激に触れる機会が増えます。

接触感受性の低下

 「接触感受性」は日常的な体のケアをしたり動物病院に行った時に決定的に重要になります。口元を触らせてくれない犬は歯磨きができず早い段階で歯周病を発症してしまうかもしれません。動物病院においてじっとしていてくれないと、正しい診察ができず病気を見落としてしまうかもしれません。マナーの悪い人が飼い主の許可を得ず犬の頭を撫でようとした時、反射的に噛み付いてしまうリスクも軽減するでしょう。

興奮性の低下

 「興奮性」に関してはパピークラスに参加した犬と参加しなかった犬との間で統計的に有意な格差は見られませんでした。しかしパピークラスに参加した犬のうち生後3ヶ月齢未満の「社会化期進行中グループ」と生後3ヶ月齢以上の「社会化期終了グループ」を比較したとき、後者が高い値を示す確率は5.7倍と推計されました(※統計的には非有意) 。
 生後3ヶ月齢未満のタイミングで参加した犬の方が成長してからの興奮性が低くなるという傾向がみられましたので、なるべくなら社会化期が終了する13週齢に達する前にスタートするのが良いのかもしれません。
 しかし社会化期が終了したら一巻の終わりというわけではなく、それなりに馴化してパピークラスに参加しなかった犬との間に明白な行動格差が生まれるようですので、生後3ヶ月齢を過ぎてから参加することにも大きな意味があります。

パピークラスは飼い主を成長させる

 パピークラスにおいて重要なのは子犬の社会化を促すということですが、実は飼い主を教育する場という側面も併せ持っています。
 例えば今回のクラスでは、セッションの最初の方でごほうびベースの正の強化をしつけの基本方針とすること、懲罰を用いたしつけの弊害、チョークカラーのリスク、家族間で一貫性のないしつけ方を行うことの悪影響などが飼い主に対してレクチャーされました。これらはしつけの基本中の基本ですが、この知識があるかどうかで犬との接し方が大きく変わります。 パピークラスは飼い主に対して正しい躾け方をレクチャーするための重要な場  パピークラスが終了した後の1年間、正の強化でしつけをされた犬と、懲罰的かつ敵対的な方法で高圧的に支配されてきた犬との間に、行動上の大きな格差が生まれるのは当然といえば当然でしょう。
 パピークラスによって子犬の社会化が促されることは事実ですが、それに加え、飼い主の知識レベルがアップするということも行動特性に対する大きな影響因子になりえます。

8週齢規制とパピークラス

 日本国内では生後8週齢(生後56日齢)未満の子犬や子猫を販売業者に引き渡すことが禁止されることとなりました。いわゆる「8週齢規制」というものですが、表面だけ見てぬか喜びしてはいけません。本当に重要なのは引き渡しの時期ではなく、生後8週齢までの間どのような環境で過ごすかということです。
 引き渡しの時期が引き伸ばされたとしても、その間に過ごす環境がパピーミルのような劣悪な環境ならば、むしろ取り返しがきく生後7週齢で別の環境に移した方が良いということになりかねません。 子犬の引渡し時期が先延ばしにされても生育環境が劣悪なら意味がない  8週齢規制は単なるスタートラインです。今後は子犬の生育環境に対する法的な規制を目指してプレッシャーをかけ続けなければなりません。生体販売業を根絶することが現実的ではないなら、パピークラスの内容を非敵対的な手法に統一し、ブリーダーに参加を義務付けるなどの次善策が考慮されます。参加費用を販売費用に上乗せしてしまえば、衝動買いによる購入者の数も減ってくれるでしょう。 子犬の社会化期について 「小型犬」を「ペットショップ」で購入する危険性