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大阪府における犬のレプトスピラ症集団発生について

 2017年10月から11月にかけ、大阪府内でレプトスピラ症が疑われる犬の症例が立て続けに11件報告されました。日獣会誌に詳しい報告が掲載されましたのでご紹介します。

レプトスピラ症とは?

 レプトスピラ症は、レプトスピラ属の病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans)を原因とする人獣共通感染症の一種。ほとんど全てのほ乳類に感染し、腎臓を経由して尿中に排出されることで勢力を拡大します。
 250種以上の血清型が確認されていますが、家畜伝染病予防法で届け出が義務付けられているのは以下の7種です。 国立感染症研究所
届け出義務がある血清型
  • カニコーラ(Canicola)
  • イクテロヘモリジア(Icterohaemorrhagiae)
  • グリポティフォーサ(Grippotyphosa)
  • ポモナ(Pomona)
  • ハージョ(Hardjo)
  • オータムナーリス(Autumnalis)
  • オーストラーリス(Australis)
 届け出に際しては「顕微鏡下凝集試験」(microspic agglutination test, MAT)と呼ばれる検査を通して血清型を確定しなければなりません。確定できない場合は、レプトスピラ症の疑いが極めて強い「レプトスピラ症疑似患畜」として扱われます。
 なお人が感染した場合は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の規定により4類感染症として扱われます。

大阪府のレプトスピラ集団発生

 2017年10月から11月にかけ、大阪府内でレプトスピラ症が疑われる犬の症例が立て続けに11件報告されました。2014年の報告数が5件、2015年が5件、2016年が1件という流れですので、「アウトブレーク」(集団発生)という表現がぴったりでしょう。
 大阪府の健康医療部、獣医師会、実際に診察を行った獣医師などが連携して情報を集めたところ、以下のような事実が浮かび上がってきたと言います。

レプトスピラ症の診断

 感染が疑われた11頭中、臨床症状、血液検査、尿検査、PCR検査などを通し、血清型まで確認された2頭に関してはレプトスピラ症との確定診断が下りました。残りの9頭に関しては血清型の確定ができなかったため「レプトスピラ症疑似患畜」として扱われましたが、状況証拠から考えてレプトスピラ症の可能性が極めて高いと考えられています。

発生場所

 発生した場所は大阪府内にある某河川敷を中心とした地域。11頭中8頭がこの河川敷を散歩コースとしていたことから、感染源になった可能性がきわめて強いと考えられています。 大阪府内でレプトスピラ症のアウトブレイクを起こした疑いがある河川敷とその周辺地域の位置関係  また8頭が同じ市内で暮らしており、さらにそのうち4頭に関しては同じ町内の100m以内という極めて限られた空間内に暮らしていたことから、犬から犬への水平感染という可能性も否定されていません。

治療結果・転帰

 11頭のうち治療に反応して回復したのは2頭だけで、残りの9頭は全て死亡という厳しい転帰となりました。皮肉なことに、回復した2頭はレプトスピラのワクチン接種を受けておらず、逆にワクチン接種を受けていた6頭はすべて死亡するという結果になっています。 レプトスピラ症を発症した犬11頭の転帰一覧リスト  こうした逆説的な現象が起こった理由は、感染症を引き起こしたレプトスピラの血清型がワクチンに含まれていなかったからだと推測されています。具体的には日本国内で流通しているレプトスピラ向けワクチンはカニコーラ(Canicola)、イクテロヘモリジア(Icterohaemorrhagiae)、グリポティフォーサ(Grippotyphosa)、ポモナ(Pomona)、ハージョ(Hardjo)を対象としていますが、血清型が確認された2頭はどちらもワクチンでカバーしていないオーストラーリス(Australis)でした。
大阪府内で発生した犬レプトスピラ症集団発生事例
日獣会誌 72, 167~171(2019), doi.org/10.12935/jvma.72.167

飼い主の注意点

 夏になると犬を川や池に連れて行ってちょっと水遊びをさせるという状況が頻繁に発生するかと思われます。飼い主の中には「ワクチンを打ったから大丈夫!」と思い込んでいる人がいるようですが、今回の事例で示されたように、ワクチンを打っているからといって、犬が100%レプトスピラの脅威から守られているわけではありません。水遊びをさせるならば川や池ではなく、自宅の庭にプールを作って水道水で遊ばせた方が安全です。 レプトスピラアウトブレイクの発生源と考えられる河川敷の様子  上の写真は今回のレプトスピラ・アウトブレイクが発生したと考えられる河川敷の様子です。川の中に直接入ることは想定されていませんが、雨などが降ってネズミが発生し、水辺に尿を撒き散らすとその上を歩いた犬の肉球に菌が付着してしまいます。
 水に入らなくても感染の危険性がありますので、家に帰ってから足元をしっかり拭くという習慣を怠らないようにしましょう。 犬を水辺で遊ばせる時はレプトスピラへの感染に要注意!  なお、ワクチンで保護されない「オータムナーリス」に関しては2013年に行われた調査で三重県、滋賀県、宮崎県、鹿児島県における感染例が確認されています。また「オーストラーリス」に関しては、福岡県、佐賀県、長崎県、宮崎県、鹿児島県における感染例が確認されています出典資料:Koizumi, 2013。今回は新たに大阪での存在が確認されましたので、日本中どこにいても感染の危険性があると考えておくに越したことはありません。 犬のレプトスピラ症 犬との生活・夏の注意