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犬のケンカは首にある環軸関節(頚椎)の脱臼や骨折の原因になる

 犬をけしかけて争わせたり、「犬同士の序列を決めるために必要」などと言ってケンカを放置するのは非常に危険です。小型犬では環軸関節の亜脱臼や骨折を起こすことがあります。

犬の環軸関節とは?

 環軸関節(かんじくかんせつ, atlantoaxial joint)とは頚椎の最上部にある第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)によって構成される関節のこと。リング状の環椎と「歯突起」とよばれる軸椎の一部が組み合わさることにより、首の回旋運動を可能にしています。関節を補強しているのは環椎横靱帯、歯尖靱帯、翼状靱帯、背側環軸靭帯といった線維性の組織です。 犬の環軸関節解剖図  環軸関節に何らかの不具合が生じ安定性が損なわれた状態は「環軸関節不安定症」などと称されます。その多くは先天的なもので、軸椎歯突起の無形成や低形成、靭帯の強度不足、環椎の不完全な骨化、椎骨の癒合(癒合椎)、歯突起の角度異常などが報告されています。
 しかし全てが先天的ではなく、後天的な理由によって不安定症が引き起こされることもあります。その代表格が「環軸関節亜脱臼」です。首の上部に何らかの強い力が加わることで環軸関節が緩み、環椎と軸椎の正常な位置関係が崩れて発症します。外傷を原因とするものは特に「外傷性環軸関節亜脱臼」(TAAS)とも呼ばれます。
 近年の画像診断技術の向上により、TAASが小型犬や「トイブリード」と称される超小型犬において頻繁に発症している可能性が示されました。

犬の外傷性環軸関節亜脱臼

 犬の外傷性環軸関節亜脱臼(TAAS)に関する報告を行ったのは、アメリカ・アラバマ州にあるオーバーン大学小動物教育病院のチーム。2009年1月から2016年5月の期間、病院を受診した犬たちの電子医療記録を後ろ向きに調査し、「環軸関節の脱臼, 亜脱臼, 圧迫性脊髄症, 骨折」のいずれかと診断された症例を集めていきました。選別条件はCTスキャンかMRIの少なくともどちらか一方を行なっていることです。 外傷性環軸関節亜脱臼を発症した犬のCT画像  合計542頭分の医療記録から先天性の病変が疑われるケースや医療記録が不十分なケースを除外していったところ、最終的に8つの症例が残ったと言います。内訳はオス犬6頭、メス犬2頭、年齢中央値4歳(1.5~11歳)、体重の中央値5kg(3~25kg)というものでした。
 症状は「四肢不全麻痺+歩行不能」が6頭(75%)、「四肢不全麻痺+歩行可能」が2頭(25%)で、CTスキャンもしくはMRI撮影で環軸関節の不安定性が確認されました。発症原因の内訳は以下です。
TAASの原因
  • 他の犬に攻撃された=2頭
  • 不明動物に攻撃された=2頭
  • 交通事故=2頭
  • 他の犬にジャンプされた=1頭
  • 不明=1頭
 8頭中7頭(87.5%)では外科手術が行われ、すべての犬が死亡することなく退院に至りました。入院日数の中央値は14日間(6~19日間)です。
 退院時の容態は4頭が「歩行可能+四肢不全麻痺」、残りの4頭が「歩行不能+四肢不全麻痺」でしたが、後者の4頭に関しては退院後2ヶ月以内に歩行能力を取り戻したといいます。
Traumatic atlantoaxial subluxation in dogs:8 cases (2009-2016).
Hansen SC, Bacek LM, Kuo KWTaylor AR. J Vet Emerg Crit Care. 2019;1?8

環軸関節亜脱臼は小型犬に多い

 外傷性環軸関節亜脱臼(TAAS)の発症原因の63%は他の動物との接触でした。他の犬によって首筋を噛まれるとか、中~大型犬にのしかかられるといった状況が想定されます。犬の体重中央値が5kgでしたので、小型犬は骨格が細くて靭帯も弱いため、強い力が加わると関節がすぐにずれてしまうのでしょう。
 また8頭中5頭(63%)では随伴する骨折が確認され、そのうち4頭は頚椎の骨折でした。具体的には軸椎体2頭、軸椎歯突起1頭、環椎1頭という内訳です。また3頭では頭蓋骨の骨折も確認されました。
 全頭が退院できたものの、外科手術は喉元を切開すると言う極めて侵襲性の高いもので、術後は補強器具と絶対安静が指示されました。さらに7頭(87.5%)では合併症も確認されましたので、決してイージーなケースというわけではありません。

犬のケンカを放置しないで!

 ソーシャルネットワーキングサービス上では、犬をけしかけて他の犬の首筋に噛みつかせる動画が動物虐待として激しい非難を浴びました。また飼い主の中には「序列を決めるのに必要」などと言って犬同士のケンカを放置している人がいます。どうやら無知な獣医師がそうするよう奨励しているというケースもあるようです。
 どちらのパターンであれ、フィジカルが弱い小型犬の場合、ただ単に流血騒ぎで終わるというわけではなく、首元にかかる強い力によって脱臼や骨折を発症してしまう危険性があります。こうした闘犬まがいの行為は絶対にけしかけたり放置してはいけないものの一つです。首筋に噛み付いた状態で激しく揺さぶる行動が見られたら、それはもはやじゃれ合いではなく攻撃行動ですので、監督している人間が早急に介入しなければなりません。しかし無理に止めようとすると人間の方が攻撃対象になりますので、大きな音を出して驚かせるなど遠隔的な方法で対処します。 犬が首筋や首元に噛み付いて激しく揺さぶるのはじゃれ合いではなく攻撃行動  環軸関節の外傷で最も多い症状は首の痛みや四肢の不全麻痺ですが、最悪のケースでは脳幹に対する圧迫から呼吸不全や突然死を引き起こすこともあります。
犬の四肢不全麻痺
 以下でご紹介するのは四肢不全麻痺を発症した犬の動画です。よろよろしながらもかろうじて歩ける場合は「歩行可能型の四肢不全麻痺」、体重を支えることすらできない場合は「歩行不全型の四肢不全麻痺」と区別されることもあります。動画内の犬は「歩行可能型」(ambulatory)の方です。 元動画は⇒こちら
 特に小型犬や「トイブリード」と称される超小型犬を飼っている人においては、首輪の使用を控えるのはもちろんのこと、他の犬によって首筋を噛まれるような状況自体をそもそも作らない配慮が求められます。また攻撃性の高い犬を飼っている場合は、飼い主が動きを制御することで同居犬や他人の犬を不測の怪我から守ってあげるのが最低限の義務です。一度ケンカが始まると、攻撃する犬もされる犬も、それを止めようとする人間も怪我を負う危険性が高まりますので、環境操作による予防が何よりも重要です。 犬の攻撃行動