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犬のティーツリーオイル中毒~アロマに使うエッセンシャルオイルは危険

 アロマセラピーに使うエッセンシャルオイルや一部のノミダニ製品に含まれている「ティーツリーオイル」。犬においては死亡を含む重大な副作用が生じる危険性があります。

ティーツリーオイルとは?

 ティーツリーオイルとはフトモモ科に属する植物「オーストラリアンティーツリー」(Melaleuca alternifolia)の葉から抽出されたエッセンシャルオイル(精油)のこと。植物名からメラルーカ(melaleuca)オイルとも呼ばれます。キャリアオイルで薄めてアロマセラピーに使ったり、抗菌・防虫作用を期待してシャンプーや虫よけスプレー(ノミよけ・ダニよけ・蚊よけ)に入れたりします。 オーストラリアで商業的に栽培されているティーツリー(Melaleuca  alternifolia)の畑  ティーツリーはオーストラリアにだけ分布している植物で、1930年頃から抽出されたエッセンシャルオイル(精油)が盛んに使われ始め、抗菌作用から人間用の医薬品として認可されていた時期もあります。細い針のような葉をもち、成長すると高さ5~7mに達しますが、商業的に栽培されているティーツリーは収穫の利便性があるためそこまで大きくなることはありません。
ティーツリーオイルの作り方
 以下でご紹介するのはティーツリーの葉を収穫してからエッセンシャルオイル(精油)を抽出するまでの過程をアニメ化した動画です。低温で蒸留された後、色付きのボトルに密閉されて出荷されます。これは精油が光、空気、熱で容易に変性し、品質が著しく劣化してしまうからです。 元動画は⇒こちら
 ISO(国際標準化機構)によるティーツリーオイルの2017年度の最新国際規格では、色は透明から薄黄色、匂いは特徴的(樟脳に似た臭い)とされています。また、テルペン系炭化水素類を主体とする少なくとも15種類の化学成分を一定の割合で含んでいることが条件とされています。具体的には以下です。 ISO(国際標準化機構)によるティーツリーオイルの規格

ティーツリーオイルの効果

 ティーツリーオイルには殺菌、抗ウイルス、抗原虫、抗炎症効果があると考えられています。こうした効き目を背景とし、人間向けの商品としてはシャンプー、クリーム、スプレーなどが出回っています。

人間に対する効果

 過去に人間を対象として行われたいくつかの調査により、にきび、爪真菌症(爪水虫)、足部白癬(足水虫) に塗りつけたときの効き目が示唆されています。しかし日本国内においては人間用の薬でティーツリーオイルを含んだものはありません。全く効果がないとまでは言わないものの、他の成分に比べてそれほど薬効が著明ではないのでしょうか。
 ちなみにティーツリーオイルは「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に含まれていますので、もし医薬品として使用する場合は科学的な実証データを提出して国の認可をもらう必要があります。

犬や猫に対する効果

 過去に犬を対象として行われた調査では、ティーツリーオイルの効き目に関して以下のような報告があります。猫を対象として行われた調査はありません。
ティーツリーオイルの効果・犬編
  • Weseler et al, 2002犬の皮膚から分離したマラセチア菌に抗菌作用を示した
  • Fitzi et al, 2002慢性皮膚炎やそう痒症(かいかい)を患う53頭の犬を対象とし、1日2回のペースで4週間、10%ティーツリーオイル含有のクリームを塗布してもらった。その結果、改善が82%、まあまあ改善が7.8%、改善なしが9.8%となった。
  • Reichling et al, 2004局所的なそう痒性皮膚炎を患う犬を28頭と29頭にランダムで分け、前者には10%のティーツリーオイル含有のクリーム、後者にはプラセボクリームを塗布した。1日2回のペースで患部に塗った所、10日目においてクリーム塗布群では71%が改善したのに対し、比較対象群では41%にとどまり統計的に優位と判断された。
 2019年の時点で、ティーツリーオイルを有効成分として含んだ動物用医薬部外品はノミよけとして市販されているスポット薬だけです(犬猫用それぞれ1種類)。
 医薬品や医薬部外品は医学的な検証データを提出して農林水産省の認可を受ける必要がありますが、いったいどのような試験結果を持ってノミよけに有効な商品として流通しているのかはわかりません。その種のデータは多くの場合、「企業の知的財産」というブラックボックスの中に隠されたままで一般消費者には公開されないからです。

ティーツリーオイル中毒の症状

 100%ティーツリーオイルは医薬品ではないため、ネット通販などでも簡単に入手できます。しかし簡単に手に入る半面、間違った使い方をすることによる犬や中毒症例が後を絶ちません。症例の多くは、精油を薄めずにそのまま飲ませたり、皮膚に直接塗りつけることで発生しています。
 症状は体内に入ってから早ければ2~8時間、遅くとも24時間以内に現れます。しかし非特異的(=特徴がない)で見落とされることもしばしばです。口から摂取した場合は口臭、嘔吐物、尿、糞便からティーツリーオイルの強い臭いが発散されます。一方、皮膚についたときは炎症、紅斑、かゆみ、発赤、脱毛、やけどといった症状として現れます。 Tea tree oil exposure in cats and dogs(The Veterinary Nurse | November 2018, Volume 9 No 9)
ティーツリー中毒の軽い症状
  • よだれの増加
  • 沈うつ
  • 元気喪失
  • 運動失調・足がフラフラ
  • 振戦・体がブルブル震える
  • 線維束性筋収縮
  • 不全麻痺
  • 腹部の不快感
  • 嘔吐
  • 低体温
ティーツリー中毒の重い症状
  • 失神・昏倒・ぶっ倒れて立てない
  • 昏睡・意識不明
  • けいれん・ひきつけ
  • 死亡
アロマセラピーに用いられるティーツリーオイルの精油は犬に危険  犬においては7~8滴を投与されただけで下肢の不全麻痺と運動失調が引き起こされることがあります(Kaluzienski, 2000)。また死亡事例もけっこう報告されています。いずれも原因は100%のティーツリーオイル精油です。
 0.3~0.4mlのティーツリーオイルを医療ミスにより静脈から投与されたシープドッグ(7.5歳)のケースでは、静注直後に卒倒し、心停止で死亡しています。また28.5mlのティーツリーオイルを経皮的に3日間にわたって塗布されたミニチュアプードル(15歳)の症例では、3回目の塗布後に運動失調に陥り、支持療法で一時は回復に向かったものの退院後に死亡しています。最後の経皮投与からカウントして60時間後の出来事でした(Khan et al, 2014)。さらに湿疹部位に30mlを直接塗り込まれた症例では支持療法に反応せず4日後に安楽死となっています(Thornton, 1990)。
 原液が皮膚に付着しただけで死に至ることがことがおわかり頂けるでしょう。飼い主は事前にしっかりと危険性を知っておかなければなりません。

ティーツリーオイル中毒の治療

 犬がティーツリーオイル中毒に陥ってしまった場合の治療は支持療法が第一選択肢です。
 エッセンシャルオイル(精油)は常温で揮発するため、嘔吐を引き起こす催吐剤(さいとざい)は禁忌とされています。これは揮発成分を吸引して肺炎につながる危険性があるためです。また同じ理由により、中枢神経症状、沈うつ、嘔吐の患犬に対する胃洗浄も禁忌とされています。
 ティーツリーオイルを口ではなく皮膚から吸収した場合は汚染除去が最優先です。界面活性剤を含んだ溶液で臭いがしなくなるまで洗います。ティーツリーオイルは水に溶けにくいため、石鹸や中性洗剤を使わなければなりません。皮膚炎がひどい場合は抗炎症薬が投与され、エリザベスカラーの装着を余儀なくされることもあります。

ティーツリーオイル中毒の予防

 犬のティーツリーオイル中毒を予防する方法は、飼い主が気をつけることです。人間向けのニキビクリーム、歯磨き粉、デオドラントに含まれているからと言って、ペットに同じ使い方をしてはいけません。

誤飲を予防する

 誤飲を予防するため、ティーツリーオイルが入ったボトルに犬が近づけないようにします。容易に開かない箱の中に入れるとか、ペットの口が届かない場所に保管するのが鉄則です。

吸引を予防する

 ティーツリーオイルは常温で揮発するため、基本的に犬がいる部屋でボトルのフタを開けることは控えるようにします。目に見えない空気中の分子成分を吸い込んだり、被毛の表面に付着した成分をなめてしまうかもしれません。またアロマセラピーのためオイルをディフューザーなどで室内に拡散するのもやめた方がよいでしょう。成分が壁、カーペット、フローリングの床、そしてペットの被毛表面に付着し、舐め取ってしまう危険性があります。

グルーミング性中毒を予防する

 ティーツリーオイルを含んだペット向け製品はなるべく使わないほうがよいでしょう。通常は安全性を考慮し、極めて低濃度に抑えられているので中毒に陥るということはありませんが、被毛に付着したオイル成分をなめてしまう危険性を否定できません。局所的に濃度が高まっている場合、一気に大量のオイルを摂取して中毒に陥る可能性があります。
 犬と猫が同居している場合は特に要注意です。猫においては「テルペンの代謝に動員されるグルクロン酸抱合が苦手」および「被毛をなめてきれいにする習性がある」という特徴から、グルーミング性の中毒に陥る危険性が犬よりも遥かに高いと言えます。オーストラリア・ティーツリー・産業協会(ATTIA)は「猫には有毒だから絶対に使ってはいけない」と警告しているくらいです。ですから犬の体をなめた猫が中毒に陥る「グルーミング性中毒」には十分な注意が必要となります。
 以下はティーツリーオイルが含まれているペット向け製品の一覧です。製品ラベルをよく読み、オイルが含まれている場合は避けたほうがよいでしょう。
ティーツリーオイル含有ペット製品一覧
  • 虫除け(ノミ・ダニ・蚊)シャンプー
  • 虫除け(ノミ・ダニ・蚊)スプレー
  • 虫除け(ノミ・ダニ・蚊)スポット薬
  • スキンクリーム
  • ローション
  • 軟膏
  • イヤークリーナー
EFSA(欧州食品安全機関)は人間において安全とされる許容一日摂取量(ADI)を、体重1kg当たり1日「0.03mg」としています。またCOLIPA(欧州化粧品香水協会)では1%を超える濃度で使用しないよう注意を呼びかけています。飼い主も要注意です。