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多種多様なごほうびをランダムで与える「バラエティ効果」は犬のしつけも有効?

 犬に対してトリート(一口サイズのおやつ)を与えるときは、大好きなものをただひたすらに与えればよいのでしょうか?それとも色々なトリートをランダムで与えた方がよいのでしょうか?犬では初めての「バラエティ効果」に関する検証実験が行われました(2018.9.4/スイス)。

詳細

 調査を行ったのはスイスにあるベルン大学獣医学部のチーム。人間やその他の動物で確認されている「バラエティ効果」が犬にもあるのかどうかを確かめるため、実験室内に特殊な装置を設けて自発的な選択試験を行いました。
バラエティ効果
動物の行動頻度を高める強化子(ごほうび)を何か1つに固定するのではなく、様々な種類に散らした方が効率的に強化が促進される現象のこと。犬を例にとると、チーズばかりを与えるのではなく、チーズ、ソーセージ、レバーをランダムで与えるなど。人間を例に取ると、ばかうけの青のりしょう油ばかり食べるのでなく、さまざまな味が入ったアソートパックからランダムで選んで食べるなど。単一の味ではなくさまざまな味の中からランダムで選んで食べるのが「バラエティ効果」
 調査対象となったのは16頭の犬たち。年齢、性別、犬種はバラバラです。事前の嗜好性調査で大好物のおやつを確定した後、押すと大好きおやつだけがコンスタントに出てくるボタンと、3種類のおやつ(チーズ、ソーセージ、レバー)がランダムで出てくるボタンを犬の前に提示し、自発的にどちらのボタンを選ぶのかを1頭につき60セッション観察しました。その結果、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。 犬においては単一な報酬を求める個体とランダムな報酬を求める個体がバラバラ  大好きな単一のおやつだけが出てくるボタンを選好した犬が6頭、ランダムで出てくるボタンを選好した犬が6頭、顕著な選好性を示さなかった犬が4頭と、個体レベルではバラバラな選好性を有していることが明らかになりました。一方グループレベルで見たとき、セッションが進めば進むほど、それまで同じおやつばかりを好んでいた犬が、ランダムなおやつを選好する傾向が強まったと言います。
 こうした結果から調査チームは、犬におけるバラエティ効果はそれほど明瞭ではないとの結論に至りました。ただし「馴化」によって強化子に対する飽きが生じ、ちょっとした浮気心を見せて大好きなおやつからランダムなおやつに鞍替えする傾向が見られるとも。長期的に見るとランダムなおやつにも強化子としての存在意義があるだろうと指摘しています。
Incentive motivation in pet dogs ? preference for constant vs varied food rewards
Annika Bremhorst et al., Scientific Reportsvolume 8, Article number: 9756 (2018), DOI:10.1038/s41598-018-28079-5

解説

 ラットを対象とした実験では単調なごほうびよりも2~3つのごほうびからランダムで1つ与えられる方が反応性が高いとされています。またドワーフハムスター、人間の成人、自閉症の子供、精神疾患を抱えていない子供を対象とした調査でも同様の傾向が部分的に確認されています。Steinmanによると、強化子の内容をバラバラにする「バラエティ効果」は、被験者の反応率を高めてオペラント条件付けによって学習した行動の消去が起こりにくくするとのこと。主な理論的根拠は以下です。
バラエティ効果の理論的根拠
  • 複数の刺激が加えられることにより1つの刺激に対する馴化が遮断される
  • 刺激と刺激の間にインターバルが挟まることにより馴化が遅れる
  • 刺激が繰り返し変化することにより脱馴化が繰り返される
  • 馴化した刺激が中断することにより自発的な回復が起こりやすくなる
 しかしすべての動物で等しく上記した「バラエティ効果」が見られるかというとそういうわけではありません。6頭のブタを対象とした選好性調査では、4頭はコンスタントなごほうび、1頭はランダムなごほうび、1頭は不明瞭という結果になったといいます。また発達障害を抱えた7人の子供を対象とした選好性調査では、4人がランダムなごほうび、2人がコンスタントなごほうび、残り1人が不明瞭になったとも。 犬の選好性を調べるための特殊な実験装置  今回の犬を対象とした調査でも、選好性に関してはバラバラでした。食物による強化は犬のしつけにおいて欠かせないテクニックですが、効率化を図る際は犬の好みを事前に把握しておく必要があるようです。例えば、種類が異なる2つのおやつを手に持ち、どちらにより強くがっついてくるかを観察すると、犬が最も好きなおやつを見極めることができるかもしれません。また犬がおやつに飽きてきたら、「バラエティ効果」を狙ってさまざまなおやつをランダムで与えるという方針に切り替えるのも手です。 犬のしつけの基本