詳細
調査を行ったのは「VNIIP」と略されるロシアの動植物寄生虫研究機関。2017年3月から11月の期間、モスクワ市内に暮らす犬とその飼い主、および犬を飼っていない人(6名)を対象とし、足がどの程度回虫の卵によって汚染されているかを検証しました。
中~大型犬8頭の足や人間が履いていた靴底を洗い流し、洗浄水に含まれている虫卵を調べた所、以下のような結果になったといいます。犬の検査回数は時間を空けて1頭に付き4~5回、飼い主の検査回数は1人につき7~8回、非飼育者の検査回数は1人につき4回です。
Panova OA, Khrustalev AV, Veterinary Parasitology(2018), doi.org/10.1016/j.vetpar.2018.09.004
足裏の回虫卵陽性率
- 犬の足(36サンプル)虫卵陽性率=19.4%(平均2.9個) | イヌ回虫=5.6%(平均1.5個) | ネコ回虫=16.7%(平均2.8個)
- 犬飼育者の靴虫卵陽性率=11.4%(平均1.8個) | イヌ回虫=6.8%(平均1.0個) | ネコ回虫=9.1%(平均1.5個)
- 犬非飼育者の靴虫卵陽性率=0% | イヌ回虫=0% | ネコ回虫=0%
Panova OA, Khrustalev AV, Veterinary Parasitology(2018), doi.org/10.1016/j.vetpar.2018.09.004
解説
過去に行われた調査では、犬の被毛から回虫卵が検出された(Overgaauw et al., 2009; El-Tras et al.,
2011)とか、犬との接触が人の回虫感染リスクになっている(Wolfe, Wright 2003)などと報告されています。しかし具体的にどのようなルートを通じて感染が成立しているのかに関してはよくわかっていませんでした。今回の調査により、土壌を歩いた後の犬の足や人間の靴に虫卵が付着し、そのまま家の中に持ち帰ってしまうということがわかりました。この傾向は家の中でも靴を脱がない文化圏においてより顕著になるでしょう。
虫卵数にしても虫卵陽性率にしてもネコ回虫がイヌ回虫を上回りました。日本でもイヌ回虫よりネコ回虫のほうが3倍も多い(Uga et al. 1989)と報告されていますし、ポーランドでも土壌から回収された寄生虫卵のうち89.9%がネコ回虫でイヌ回虫はわずか10.1%だったと報告されています(Mizgajska, 2001)。国や地域によって変動はあるでしょうが、散歩帰りにネコ回虫をテイクアウトしてしまう危険性が高いようです。猫を飼育している家庭においては、たとえ完全室内飼いだったとしても散歩から帰った犬や飼い主によって虫卵が持ち込まれ、回虫症を発症してしまう可能性を否定できません。具体的には、猫が犬の足をグルーミングする、足から床やカーペットに移動した虫卵をエサと共に飲み込んでしまうなどです。
飼い主の靴よりも犬の足の方が虫卵をトラップしやすいことが判明しました。被毛や指の隙間など、土がこびりつきやすい構造が陽性率を高めているものと推測されます。散歩から帰った後の足先の掃除は念入りに行ってあげましょう。
イヌ回虫は人獣共通感染症であり、人間においてはトキソカラ症を引き起こしたりします。土遊びをする機会が多い子供に多いとされていますが、当調査で判明した感染ルートから考えると、大人に感染する可能性も否定できません。床に落とした食べ物を、いわゆる「3秒ルール」でそのまま口に入れてしまうと、犬の足から床に移動した虫卵ごと体内に取り込んでしまうかもしれません。
イヌ回虫は6ヶ月を過ぎた犬の体内では成虫にまで発育できず、「シスト」という形で潜伏するようになります。しっかりとした予防を講じていないと免疫力の低下に乗じて回虫症を再発してしまうかもしれません。体内に5つのシストがある状態よりも20のシストがある状態の方が、再発した時の症状が重くなりますので予防に努めたいものです。先述したように、散歩から帰った直後の足の拭き掃除、および免疫力を落とさないためのストレス管理はしっかりしてあげましょう。