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日本のペットフードに安楽死薬(ペントバルビタール)が混入する可能性はないのか?

 2017年と2018年、アメリカ国内で立て続けに起こったドッグフードの安楽死薬(ペントバルビタール)混入事件。これと同様の汚染は日本国内で起こらないのでしょうか?

安楽死薬汚染事件の発端

 2017年1月、「Evanger」が製造するドッグフードを食べた5頭の犬がワシントン州にある動物病院を受診し、そのうち1頭が死亡するという事件が起こりました(→ABC7)。 ドッグフードにまぎれこんだペントバルビタールの犠牲となったパグの「ニッキー」  地元ワシントンのABC放送による報道を通じてこの事実を知ったアメリカ食品医薬品局(FDA)は、オレゴン州立大学とともに早速調査を開始し、犬の遺体および犬が直前に食べていたものをラボへ回して成分検査を行いました。その結果、犬の死因として最も有力視されたのは、動物の鎮静や安楽死に用いられるペントバルビタール
ペントバルビタール
ペントバルビタール(Pentobarbital)はバルビツール酸系に属する鎮静催眠薬の一種。動物に対しては麻酔薬や安楽死薬として用いられます。人間用としては睡眠薬として用いられますが、副作用が強く、また過剰摂取(オーバードーズ)による死亡事故が多いことから、2012年の日本うつ病学会のうつ病の診療ガイドラインでは、ペントバルビタールを含むバルビツール製剤は推奨されないとしています。
 1月10日には製造元である「Evanger」の工場に検査が入り、ブランドの一部「Against the Grain©」および「Pulled Beef with Gravy©」からペントバルビタールが検出されました。メーカーは検査が終了するタイミング(2月14日)と前後するように、汚染が疑われるロットをリコールして急場をしのぎ、「ある特定のサプライヤーが用いたごく一部の素材にペントバルビタールが混ざっていた可能性がある」という見解を示しました(→FDA)。

立て続けに起こる汚染事故

 2017年4月、今度は「Party Animal」が製造するブランド「Cocolicious©」の複数商品からペントバルビタールが検出され、リコールが発動されました。
 さらにこうした騒動を受け翌2018年2月、ワシントン州にあるABCが62種類のウエットフードを検査に回して独自に調査したところ、「Big Heart Pet Foods」(Smuckerのペットフード部門)が製造する「Gravy Train©」15種のうち9種からペントバルビタールが検出されたと言います。親会社は「Smucker」で、こちらはリコール騒ぎに発展する前に「自主回収」という形でお茶を濁しました。 「Big Heart Pet Foods」が製造する15商品の内60%までもがペントバルビタール陽性だった!  健康を害するレベルでは無いと報告されたものの、一連の事件を通じて国産ドッグフードのペントバルビタール汚染が常態化しているのではないかとの懸念がいよいよ強まりました(→ABC7)。

安楽死薬混入の原因

 アメリカ国内では、人間向け(ヒューマングレード)の食肉に関してはUSDAの検査組織であるFSISがチェックして品質保証を請け合っています。しかしペントバルビタール混入の元凶とされた原材料のサプライヤーはこのFSISに登録されておらず、必然的に検査も受けていませんでした(→FDA)。
 「連邦食品・医薬品・化粧品法」(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)では、人間向けだろうと動物用の飼料だろうとペントバルビタールが入っていてはいけないと定めているものの、それを厳密にチェックするシステムは整っておらず、レンダリング業者のモラルと自主規制に任せられているというのが現状です(→FDA)。安楽死薬混入事件の背景にあったのは、こうした「ザル法」の存在でした。

安全性の問題は以前から

 FDAは1998年、ドックフードにペントバルビタールが含まれているかどうかを調べた経緯があります。このときの結果は半数以上が陽性というものでした(→FDA)。さらに2002年のレポートでは、犬と猫のDNA成分が検出されなかったことから、薬剤によって安楽死させられた家畜動物(牛・豚・馬・ヒツジ)が、連邦法に則って焼却処分されるのではなく、なぜかレンダリング工程に回され、結果としてペットフードに混入するに至ったのではないかとされています(→FDA)。
 20年の時を経て同様の事例が起こったことから、「病気で死亡した動物やと畜以外の方法で殺された動物を人間用の食料や家畜用の飼料にしてはいけない」という連邦法が有形無実化している現状が浮き彫りとなりました(→TaPF)。いわゆる「4D」と呼ばれる低品質かつ危険性の高い肉が依然として用いられている可能性があるということです。驚くべきことに、焼却や埋め立てによる環境への負荷を減らすため、FDAは問題を知っていて放置しているという見方をする人すらいます。
 人間や動物の食品の安全性を客観的に評価する「Clean Label Project」のジャッキー・ボウウェン氏は、「ペットフードに関しては無法地帯で見えない部分が多すぎる」と警鐘を鳴らしています(→ConsumerAffairs)。

日本のペットフードは大丈夫?

 日本国内で消費されるペットフードに安楽死薬が混入することはないのでしょうか?結論から言うと、可能性は否定できません
 肉骨粉などを原料にしてペットフードを製造する場合、日本国内では「人間用の食料としてと畜された鳥、牛、豚の副産物を用いること」と規定されています。また原料を海外から輸入する場合も指定検疫物に指定されていますので、肥飼料検査所(肉骨粉や穀類)や動物検疫所(魚粉)が検査と分析を行っています。しかし検査内容は伝染性疾病がメインであり、「ペントバルビタール」が含まれているかどうかは調べていません。
 未加工の肉を原料とする場合も、厚生労働省がポジティブリスト制度に則り、国内外の肉、魚、穀類を対象として「食品中の残留農薬等検査」をランダムで行っています。しかし600近くある検査項目の中にやはり「ペントバルビタール」は含まれていません。 日本国内においては食品の中にペントバルビタールが混入している可能性がそもそも考慮されていない  さらに盲点なのは、海外で製造されたペットフードを輸入する場合です。ペットフードは家畜用の飼料ではありませんので植物検疫にも動物検疫にも引っかかりません。いわゆるペットフード安全法の規制を受けますが、この法律ではざっくりと「有害な物質を含み、若しくは病原微生物により汚染され、又はこれらの疑いがある原材料を用いてはならない」とされています。しかしこの規則が守られているかどうかをチェックする体制は整っておらず、メーカーの企業倫理に任されているというのが現状です。
 ペットフードを輸入した企業は、ペットフード安全法で規定されている数十種類の化学成分くらいなら検査しているかもしれません。しかし「ペントバルビタール」のようなマイナーな有害成分はどうでしょう?輸入業者が受入規格を設けており、フードメーカーの生産工程や海外から輸入したフードをしっかりとチェックしているかどうかは直接問い合わせて確認する必要があります。