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ドッグフードの甲状腺ホルモン汚染・経緯と原因

 2017年から2018年にかけ、アメリカ国内において立て続けに発生したドッグフードの甲状腺ホルモン汚染。原因は何なのでしょうか?また日本国内でも起こりうるのでしょうか?

甲状腺ホルモン汚染の経緯

 2017年から2018年にかけ、アメリカ国内においてドッグフードに異常な量の甲状腺ホルモンが混入したためドライフードやトリーツ5種が立て続けにリコールされました(→FDAリコールデータベース)。この汚染事件の原因は、ドッグフードの原料となる家畜動物(すべてウシ)の首元にある組織を、原型に近い状態で使用したことにあるようです。
甲状腺ホルモン汚染によるリコール
  • 2017年3月17日【製造メーカー】WellPet LLC
    【ブランド】Wellness
    【フードタイプ】ダイジェスト(※粒にまぶす粉)
    【症例】3症例をメーカーに報告したところ、自主的なリコールに入った
  • 2017年3月17日【製造メーカー】Blue Buffalo Company
    【ブランド名】BLUE Wilderness Rocky Mountain Recipe
    【フードタイプ】ウエット
    【症例】1症例をメーカーに報告したところ、自主的なリコールに入った
  • 2018年3月22日【製造メーカー】J.M. Smucker Company
    【ブランド名】Milo’s Kitchen
    【フードタイプ】トリーツ
    【症例】FDAに寄せられた3症例をメーカーに報告したところ、自主的なリコールに入った
  • 2018年5月23日【製造メーカー】Castor & Pollux, Merrick
    【ブランド名】Merrick Pet Care
    【フードタイプ】トリーツ
    【症例】1頭に給餌したところ具合が悪くなり給餌を止めたら回復した
  • 2018年6月12日【製造メーカー】Dave's Pet Food
    【ブランド名】Dave's Pet Food
    【フードタイプ】ウェット
    【症例】4頭の犬において遊離T4とTSHレベルが低下
牛の甲状腺混入により甲状腺ホルモン汚染が起こったリコール商品4種  上記したようにドライフードは1つも含まれていません。理由としては、製造過程で甲状腺ホルモンを含む首元の組織がレンダリング(※粉々に砕いて脂肪を取り除くプロセス)され、他の部位と入り混じって十分に希釈されたからだと考えられています。それに対しウェットフードやトリーツではこうした希釈が行われません。結果として、ある製品中には首元の組織が全く入っていないけれども、別の製品中には高い濃度で含まれるというムラが生じます。これが甲状腺ホルモン汚染の原因だと考えられています。またそれまで前例がなかったにもかかわらず、 2017年になって突如ホルモン汚染が起こりました。この現象の原因はよくわかっていません。

そもそもウシの首を使ってよい?

 甲状腺ホルモン汚染の原因は全て「ウシ」でした。ウシに関しては狂牛病(BSE)に対する懸念から特定危険部位(SRM)が指定されており、家畜用の飼料やペットフードには使用できないことになっています。アメリカにおける具体例は以下です(→Specified Risk Material (SRM) Control, FDA/05/31/2018)。
ウシの特定危険部位(SRM)
  • 全年齢扁桃腺 | 回腸遠位部
  • 30ヶ月齢以上頭蓋骨 | 脳 | 眼球 | 脊髄 | 三叉神経節 | 脊髄後根神経節 | 脊柱
 上記したように、扁桃腺までは使用不可ですが扁桃腺から下にある首の部分は使用できるようです。ですから甲状腺を含んだウシの首をペットフードに使用すること自体は違法ではありません。

甲状腺を食べるとどうなる?

 甲状腺ホルモンは多くの哺乳動物において共通の作用を示しますので、甲状腺を含んだ首の組織を摂取すると食餌性の甲状腺機能亢進症を発症する可能性があります。具体的な症状は以下です。
甲状腺機能亢進症の症状
  • 呼吸数の増加(頻呼吸)
  • 心拍数の増加(頻脈)
  • 体温上昇
  • 多食
  • 多尿
  • 体重減少
  • 食欲増進
 甲状腺機能亢進症は猫では頻繁に見られるものの(300頭に1頭)、犬では極めて珍しい疾患です。多くの場合、甲状腺の腫瘍が原因となりますが、腫瘍が認められないにもかかわらず発症した場合は食餌に原因があると考えるのが妥当です。

日本では起こりうるのか?

 狂牛病騒動により日本国内においても法律が制定され、ウシ由来のタンパク質に関する使用制限が設けられました。ですのでウシを原因とする犬や猫の食餌性甲状腺機能亢進症の可能性はほぼないでしょう。2018年における日本のBSE予防策は以下です。
日本におけるBSE予防策
  • 家畜飼料給与反すう動物由来タンパク質の全ての家畜用飼料への使用禁止
  • SRMの利用実態すべての牛の頭部(舌・頬を除く)、脊髄および回腸遠位部(盲腸との接続部分から2メートルまでの部位)、脊柱を除去し、800℃以上で完全な焼却を行う
  • レンダリングの条件反すう動物の肉骨粉は全ての家畜用飼料に使用が禁止されており、かつ、反すう動物のレンダリング処理工程は豚及び鶏の処理工程から物理的に分離されている。生産された肉骨粉はセメント工場でセメントに加工利用されるか、廃棄物処理工場等で焼却される
 上記したように、人間用の食肉を取った後のウシ体組織は危険部位であれ非危険部位であれ、基本的に家畜用の飼料にも犬猫用のペットフードにも使用できません。唯一の例外は、養魚に用いられる特定危険部位(SRM)を除いた部位だけです。 日本国内における各種動物由来の肉骨粉に関する制限一覧表  一方、ブタ、ウマ、イノシシ、家きん(ニワトリやアヒル)、魚介類、海産哺乳動はペットフードの原料として認められています(→FAMIC)。ですからブタやウマの首元の組織を原因とする甲状腺機能亢進症は、可能性は極めて低いものの起こりえます。
 ウシを除いた哺乳動物の甲状腺がレンダリング工程において他の部位と入り混じり、十分に希釈されれば高濃度でペットフードに含まれるという事は恐らくないでしょう。しかしアメリカのリコール事例で見られたように、ウェットフードやトリーツなど組織の希釈が十分に行われない場合は、甲状腺ホルモンが部分的に高濃度で含まれる可能性は依然として残ります。ちなみにこのホルモンは製造過程で失活しませんので、熱や圧力が加えられているかどうかはほとんど関係ありません。

ホルモンの含有上限値は?

 乾燥重量中6%の甲状腺組織を含んだフードを2週間給餌された犬では、下痢、多尿、頻脈といった亢進症が人為的に引き起こされたといいます。その一方、乾燥甲状腺粉末を1.8%含んだフードを18週間給仕された犬では症状が出なかったとも。このデータを甲状腺ホルモンであるチロキシンに換算すると「0.3 mg/体重kg/日」です。
 甲状腺機能亢進症引き起こさないための上限値は以下のように推測されています(→AntonC.Beynen, 2018)。数値は過去に行われた給餌試験からの推測であり、あくまでも暫定版です。
ドッグフード中の甲状腺ホルモン上限値(暫定)
  • チロキシン量→0.07mg/体重kg/日
  • 乾燥甲状腺量→ドライフード中0.44%未満

飼い主が気をつける事は?

 犬に手作りフードを与えている場合は注意が必要です。アメリカ内外においては製品のリコールにまでは発展しなかったものの、フードに関連した甲状腺機能亢進症の症例が報告されています。レポートを総合すると、亢進症が疑われる35頭中21頭で臨床症状が現れました。
食餌性甲状腺機能亢進症の発症パターン
  • 11頭→牛の骨と肉、甲状腺を含む牛の首、粉砕された頭部を用いたホームメイドフード
  • 8頭→乾燥もしくは生の首部分を含む市販フード
  • 2頭→急速冷凍されたフード
  • 14頭→工業的に製造された風乾フードもしくはジャーキートリーツ
 手作りフードや生の素材を用いるローフード(raw food)にこだわっている飼い主は、使用する部位にまで気をつけなければなりません。
 その他の事例としては、人間用もしくは動物用のホルモン治療薬を誤って飲み込んで発症するというパターンがあります。また同居犬が甲状腺機能低下症の治療薬としてチロキシンを投与されている場合、食糞行動にはとりわけ注意する必要があるでしょう。フンに含まれたホルモンが原因となって亢進症を発症するという珍しい症例報告があるからです。 犬の甲状腺機能低下症 犬の食糞のしつけ