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犬の前足にある狼爪を切除すると運動中の指先の怪我が増える?

 アジリティ競技に参加した犬を対象とした調査により、指先に発生する怪我のリスクを高める要因が明らかになりました(2018.1.5/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのはワシントン州立大学などを中心とした共同チーム。アジリティ競技に参加するなどして指先に怪我を負った犬(46犬種/207頭)と競技に参加したもののけがを負わなかった犬(109犬種/874頭)を対象とし、指先の受傷リスクを高める要因が何であるかを検証しました。インターネットを通じてハンドラーにアンケート調査を行い、両グループの違いを統計的に精査したところ、以下のような要因がリスクとして浮かび上がってきたと言います。数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
アジリティ中の指の受傷リスク
  • ボーダーコリー=2.3
  • 爪が長い=2.4
  • 前足の狼爪がない=1.9
  • 体重体高比が大きい=1.5
  • 犬の年齢が高い=0.8
A survey of risk factors for digit injuries among dogs training and competing in agility events
Debra C. Sellon DVM, PhD; Katherine Martucci DVM, et al., Journal of the American Veterinary Medical Association, January 1, 2018, Vol. 252, No. 1, Pages 75-83, doi.org/10.2460/javma.252.1.75

解説

 ボーダーコリーでは受傷リスク率が2.3倍に高まることが明らかになりました。競技に参加している割合が他の犬種に比べて高く(受傷67+非受傷166頭で全体の21.6%)、データとして現れやすかったということが一因としてあるでしょう。その他、身体能力が高いため走っているときのスピードが早く、また止まる時の衝撃が強くなるため、足先に怪我をやすいといった理由も考えられます。受傷した状況で最も多かったのが「アジリティへの参加」もしくは「アジリティのためのトレーニング」で44.8%(30/67)でしたので、この犬種では走行中の動きがとりわけ激しいものと推測されます。 ボーダーコリーはアジリティの練習や本番中における指先の怪我が多い  爪が長いと受傷リスクが2.4倍に高まることが明らかになりました。人間でも爪を長く伸ばしていると物にぶつかったときに生爪をはがしやすくなります。これと同様、犬の爪が伸びた状態だと爪の先にかかった地面からの力がテコの原理によって増幅され、根本に大きな力がかかってしまうものと推測されます。また地面が凸凹した状態の時、爪が伸びている方が出っ張りに引っかかりやすくなるということもあるでしょう。
 体重と体高の比率が大きい(=ずんぐりしている)場合、受傷リスクが1.5倍に高まることが明らかになりました。ダックスフントやウェルシュコーギーのような短足犬種の参加頭数はそれほど多くなかったため、体重と体高の比率が大きい、すなわち背が低い割に体重が重いという傾向は単純に太り気味である事実を反映していると考えられます。人間を対象とした調査でも体重が重いほど怪我を負いやすいという関連性が指摘されていますので、犬でも同じことが言えそうです。
 前足の狼爪がないと受傷リスクが1.9倍に高まることが明らかになりました。狼爪は子犬の頃に切除されてしまうことがあり、中には切除することをスタンダード(犬種標準)に盛り込んでいる犬種すらいます。切ってしまう理由としては「そもそも痕跡的な器官だからあってもしょうがない」もしくは「引っかかって怪我を負ってしまう」というものです。しかし、過去に行われた調査では、狼爪の怪我はほとんどが最小限から軽度のものであり、重症に至るものはほとんどないと報告されています。また過去にビデオ録画を用いて行われた調査では、狼爪が走っている時に地面と接触し、クッションとして機能している可能性が示唆されています。そして今回の調査では狼爪がない犬においてはその他の指における受傷リスクが倍近くに高まることが指摘されました。 犬の前足の狼爪を切除すると他の指への負担が増えてうかも  こうした事実をすべて考え合わせると前足の狼爪は走っている時のクッションとして機能しており、取り除いてしまうとその他の指にかかる負荷が増えて怪我を負いやすくなるということになるでしょう。狼爪を切り取ってしまう理由が「前もって怪我を予防する」というものである場合、取ってしまうことで逆にその他の指に怪我を負ってしまう可能性が高まり、本末転倒になってしまいかねませんね。 犬の狼爪切除