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「ルーシー法」(Lucy's Law)の背景にあるのはイギリス国内における子犬の違法売買

 母犬の姿を見せなければ子犬を販売できないとする「ルーシー法」の制定が急がれるイギリス。スコットランド政府が犬の売買に関する白書を公開し、国内に深く根を張った問題点を明らかにしました(2018.2.8/スコットランド)。

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 イギリス(北アイルランド | スコットランド | ウェールズ | イングランド)国内では犬の販売業者に対して免許制が導入されているものの、インターネットを介した売買には1950年代に制定された法律(The Pet Animals Act 1951)が追いついておらず、違法取引の温床となっています。
 例えば、スコットランド国内で7つのオンライン販売サイトをモニタリングしたところ、わずか12週間のうちに1,500もの広告が出され、頭数に換算すると4,074頭、取引価格に換算すると330万ポンド(5億円)に相当する売買が行われたと言います。これを1年に換算すると少なく見積もって1,300万ポンド(20億円)ですが、この数字はたった7つのウェブサイトを対象とした調査ですから、マーケットの実態はこの数字よりもはるかに大きいものと推測されています。詳しいデータは以下のページにも記載してあります。 法の監視機構がいい加減なイギリスでペット産業がほとんど無法化  インターネットの広告に関しては「PAAG」(ペット広告監視グループ)によって広告を載せる側に最低基準が設けられているものの有名無実で、販売業者が免許の登録番号を公開する義務もありませんし広告の仲介会社が販売業者をチェックするということもありません。例えば2017年5月には、大手のペット保険会社「Petplan」が運営するブリーダー紹介サイトが、登録にあたって全く審査をしていなかったにも関わらず「信頼のおけるブリーダー!」と喧伝していたことが判明して問題となりました。
 こうした違法取引のしわ寄せは多くの場合、動物たちに集中します。一例を挙げると、劣悪な環境下における大量繁殖、劣悪な環境下における移送、衝動買いした飼い主による不適切な飼育(体罰・虐待・ネグレクト)、飼育放棄とその結果としての安楽死などです。
 特にパピーミルと呼ばれる劣悪繁殖業者に関する問題は深刻で、ウェールズやスコットランドで販売されている子犬たちはアイルランドのパピーミル、そしてイングランドで販売されている子犬たちは、主にヨーロッパのパピーミルが供給源になっていると考えられています。
 上記したような英国内の危機的な状況に対し、スコットランド政府の調査グループは現在の問題点を明らかにすると同時に、将来的に進むべき道が何であるかを検証しました。具体的には以下のような対策が提案されています。
ペット売買健全化のために
  • 消費者学校のカリキュラムを通じて動物福祉の最低条件である「5つの自由」くらいは教育しておく | 多くの人に働きかける力を持ったマスメディアが違法取引の現場を伝え(ドキュメンタリーやドラマなど)、消費者に気づきを与える | 違法業者を通報しやすいようなシステムを提供してあげる
  • 繁殖業者DEFRA(環境・食糧・農村地域省)が中心となってライセンスシステムの見直しを行い、販売業者がネット上に広告を出すときはライセンス番号を公開するよう義務付ける | 広告が適正かどうかをチェックするシステムを構築する | 広告を仲介する業者が地元当局と販売業者の情報を共有する | 動物福祉の基準に関する見直しを行い、法律がしっかりとした抑止力を発揮するため罰則を強化する
  • 地元当局地元当局の資金と人員を増やし、違法業者から救出したはずの犬たちが、政府の収容施設で逆に劣悪な環境下に置かれないようにする | 業者に対する抜き打ちチェックを行い、いったいどの程度の割合で違法取引が行われているのかに関する現状把握を行う
  • 子犬マイクロチップの義務化のほか、現在は見送られている登録の義務化も進める | 現在複数に分散しているデータベースを中央に統一し、子犬や繁殖業者のトレーサビリティを向上させる | 国外から一度に持ち込める犬の数(現行では1人につき5頭まで)にさらなる規制を設ける
Scoping Research on the Sourcing of Pet Dogs From Illegal Importation and Puppy Farms 2016-17

解説

 2017年12月、イギリスの首相であるテリーザ・メイがパピーミル撲滅のため「ルーシー法」(Lucy's Law)を成立させることを公約したことで話題になりました。「ルーシー」とはパピーミルの犠牲になったキャバリアのことで、法律の概要は以下です(→出典)。
ルーシー法(Lucy's Law)
  • 子犬を販売する際は母犬の姿を同時に見せなければならない
  • 購入者に対面販売しなければならない
  • ブリーダーライセンスを持っていたとしても自分自身で繁殖を手がけなかった犬を販売してはならない
  • 広告にはその形態にかかわらずブリーダーのライセンスナンバーを記載しなければならない
 動物福祉に関係した複数の団体は、長年にわたって上記法律を制定するためのキャンペーンを展開させてきました。今回、スコットランド政府が公開した白書を読んでおくと、キャンペーンの背景にどのような問題が横たわっているのかが理解できるでしょう。 ルーシー法(Lucy's Law)のきっかけとなったキャバリアの「ルーシー」  日本国内でもパピーミル問題はありますが、現在の動物愛護法では完全に駆逐するにはほど遠いというのが現状です。例えば関東で繁殖業を営む某ブリーダーは「私たちは犬に生かされている。心から感謝している。だから最低限のことはやっている」といいつつ、3段重ねのバタリーケージに繁殖犬をすし詰めにし、運動不足から「座りダコ」ができている状態を放置しています。さらに「劣悪なブリーダーを行政はしっかり取り締まるべきです」と言い出す始末です(→sippo)。 狭いケージにすし詰めにされたパピーミルの繁殖犬たち  白書の中で指摘されているように、悪徳繁殖業者を減らすためには、まずは消費者の意識を変える必要があります。そのためには影響力のあるメディアや人物が繁殖業の現場に対する言及を行う必要があるでしょう。日本ではNHKが「クローズアップ現代+」といった番組の中で、たびたび動物福祉に関する内容を放映しているものの、民放ではいまだに子犬や子猫をゲストの芸能人に抱っこさせて「かわいい~!」と叫ばせるだけの軽薄な番組が放映されています。放映される時間帯や視聴率から考えると、何も考えずにペットショップに足を運び、まるで物でも買うかのようにペット衝動買いしてしまう人の方が多いように思えてなりません。
 さらに上記国営放送は、声符、視符、賞罰のタイミングが全て間違っている自称ドッグトレーナーを「プロフェッショナル」として紹介し、あたかも犬に対する体罰が正攻法であるかのような印象を視聴者に与えてしまいました。しつけに関する知識もないまま衝動買いした人が、このような隔たった内容の番組を見てしまったら犬は一体どうなってしまうのでしょうか。
 2018年は5年に1度の動物愛護法改正の年です。生体販売業界からの圧力がかかる中で、海外における失敗例を参考にしつつ、どの程度犬や猫の福祉向上につながる改正が行われるかが注目されます。一例を挙げれば、ペットのネット通販サイト内では生後4週齢程度の子犬や子猫が公開され、ペットショップよりも悪質な形で衝動買いを促している問題などです。 動物愛護法を知ろう 日本のペット産業