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犬の難産発生率および危険因子

 救急外来を受診した犬を対象とした調査により、難産の発生率および危険因子が明らかになりました(2017.9.25/イギリス)。

詳細

 調査を行ったのは、イギリス・王立獣医科大学のチーム。2012年9月1日から2014年2月28日の期間、英国内にある千以上の一次診療施設を救急外来として受診した出産可能なメス犬のうち、「難産」に関わるケースだけをピックアップし、疫学データを統計的に計算しました。その結果、メス患犬全体における割合が3.7%(701/18,758)だったと言います。また発生の危険因子を統計的に検証したところ、最終的に「年齢」と「犬種」が残ったとも。具体的には以下です。なお数字は「オッズ比」(OR)で、標準の起こりやすさを「1」としたときどの程度起こりやすいかを相対的に示したものです。数字が1よりも小さければリスクが小さいことを、逆に大きければリスクが大きいことを意味しています。
年齢と難産のオッズ比
犬の年齢と難産のオッズ比(英国版)
  • 3歳未満=1.0
  • 3歳以上6歳未満=3.1
  • 6歳以上9歳未満=0.9
  • 9歳以上=0.0
  • 不明=0.4
犬種と難産のオッズ比
犬の品種と難産のオッズ比(英国版)
  • フレンチブルドッグ=15.9
  • ボストンテリア=12.9
  • パグ=11.3
  • チワワ=10.4
  • ミニチュアダックスフント=6.0
  • ブルドッグ=4.5
  • S.ブルテリア=4.1
  • ゴールデンレトリバー=3.6
  • ボーダーテリア=3.6
  • ジャックラッセルテリア=3.4
  • ヨークシャーテリア=2.7
  • その他の純血種=2.6
  • W.ホワイトテリア=2.5
  • ボクサー=2.4
  • シーズー=2.1
  • キャバリアK.C.スパニエル=1.8
  • スプリンガースパニエル=1.7
  • ボーダーコリー=1.7
  • コッカースパニエル=1.5
  • ジャーマンシェパード=1.4
  • ラブラドールレトリバー=0.8
Canine dystocia in 50 UK first-opinion emergency-care veterinary practices: prevalence and risk factors
D. G. O'Neill et al., Veterinary Record 2017 Jul 22;181(4):88, dx.doi.org/10.1136/vr.104108

解説

 年齢に関しては3歳以上6歳未満で難産のリスクが3倍になるという可能性が示されました。理由としては、同腹仔の数が少なく1頭のサイズが大きくなる、無力症や炎症、蓄膿症など子宮関連の疾患を発症している犬が多い、分娩時間が長いなどが想定されています。なお6歳以上9歳未満になると、逆にリスクが10%ほど低下する理由に関してはよくわかっていません。 犬で難産リスクが高いのは「小型の短頭種」  難産リスクの高い犬種の上位を見てみると、「小型の短頭種」という共通項が見えてきます。過去に行われた複数の調査では、ボストンテリア、フレンチブルドッグ、パグといった極端な短頭種では、ほぼ100%の確率で難産が発生すると報告されています(Gill 2002, Jackson 2004, Linde-Forsberg 2009)。また128頭の難産ケースを対象とした調査では、チワワ、ダックスフント、ペキニーズ、ヨークシャーテリア、ミニチュアプードル、ポメラニアンで高いリスクが報告されています(Gaudet 1985)。さらにスウェーデンの保険会社「Agria Insurance」が行った調査では、チワワ、ポメラニアン、パグのリスクが高かったとも(Bergstrom and others 2006)。ただしこの調査では、そもそも保険でカバーされていないという理由によりボストンテリア、ブルドッグ、フレンチブルドッグが除外されています。過去の事例や、今回の調査結果を併せて考えると、やはり「小型の短頭種は難産になりやすい」という傾向は否めないようです。
 「戌の日」に象徴されるように、犬は安産の代名詞でした。しかし小型化に伴って骨盤が小さくなり、短頭化に伴って頭の比率が大きくなるにつれ、分娩に支障をきたすようになったと推測されます。難産による新生子の死亡率は20%、母犬の死亡率は1%とされています(Gendler and others 2007)ので、見た目重視の選択繁殖が犬の福祉を損なっている一例ともいえるでしょう。 犬の出産