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犬と猫における放射性セシウムの生物学的半減期が判明

 福島原発から20km圏内で保護された動物を対象とした調査により、犬や猫における放射性セシウムの生物学的な半減期が初めて明らかになりました(2017.1.23/日本)。

詳細

 調査を行ったのは北里大学獣医学部のチーム。福島第一原発から20km圏内の警戒区域内で保護した犬や猫を三春シェルターへ移送した後、2013年4月からから2年半かけ、特殊な装置を用いて非侵襲的に放射性セシウム137による内部被曝を計測しました。
放射性セシウム137
 ウラン235などの核分裂によって生成するセシウムの放射性同位体のうち、質量数が137のもの。遠くまで飛ぶガンマ線を放出し、外部被曝を引き起こす。自然界における物理学的半減期は30.1年だが、人体内における生物学的な半減期は年齢依存性で、1歳未満の9日から50歳の90日まで幅広い(→出典)。
 犬68頭と猫120頭を経時的に調べた結果、以下のような事実が明らかになったといいます。なお「半減期」とは、ある放射性同位体が自然に崩壊したり排泄されるなどして半分になるまでにかかる時間のことです。
犬猫の放射性セシウム137による内部被曝
  • 犬における半減期は38.2日
  • 猫における半減期は30.8日
  • 犬では年齢と半減期に関連性があった
  • 猫よりも犬の放射線が高値を示した
  • 猫の生殖器官の放射線はその他の器官の7分の1
福島第一原発から20km圏内におけるセシウム137の蓄積状況  猫よりも犬において高い放射線が検出された理由は、保護される前の段階における屋外での過ごし方にあると考えられています。猫たちは家屋の中でじっとする傾向があったのに対し、犬たちはあちこち動き回り、複数の場所で水を摂取する傾向がありました。こうした放浪生活が、放射線を含む物質を経口摂取する機会を増やしたのだろうと推測されます。
 猫の生殖器官の放射線濃度が、その他の器官の放射線濃度のわずか7分の1だった理由は、そもそもセシウムが筋肉に蓄積しやすい性質を有しているからだと推測されます。これと同様の傾向は、過去に家畜を対象として行われた放射線検査でも確認されています。
 調査チームは、今回の調査で明らかになった生物学的な半減期に関する知見を生かせば、万が一原発事故が再発したときの効果的な保護計画を立てることもできるだろうとしています。
Whole-Body Counter Evaluation of Internal Radioactive Cesium in Dogs and Cats Exposed to the Fukushima Nuclear Disaster.
Wada S, Ito N, Watanabe M, Kakizaki T, Natsuhori M, Kawamata J, et al. (2017) PLoS ONE 12(1): e0169365. doi:10.1371/journal.pone.0169365

解説

 原発事故によって撒き散らされた放射性ヨウ素や放射性セシウムは、外部被曝や内部被曝を通じて細胞のDNAを破壊し、確定的な影響や確率的な影響を及ぼします。「確定的な影響」とは、一度に大量の放射線を浴びたときに生じる急激な身体的症状(造血機能の低下・皮膚が赤くなる・脱毛など)のことで、「確率的な影響」とは少量の放射線を浴びたときに生じる不確定な影響(がんなど)のことです(→出典)。 放射線による外部被曝と内部被曝の違い  「確率的な影響」に関し、人間においては自然や医療放射線を除く追加放射線の生涯における累積量が100ミリシーベルトに達すると、悪性新生物(がん)による死亡率が0.5%増加すると言われています。しかし境界線がはっきりしているわけではなく、当然、犬や猫といった動物における閾値(しきいち)も不明です。今回の調査で明らかになったのも、体内における放射性セシウムが崩壊や排泄を通して半分になるまでの期間であって、どの程度の内部被曝でどの程度の確率的な影響が出るのかという知見ではありません。 放射線が人間の健康に害を及ぼすと考えられる閾値は100ミリシーベルト  犬における放射性セシウムの半減期が38.2日、猫が30.8日ということが判明したことにより、体内に残存している放射線の量がわかれば、あとどのくらいでゼロにできるかを逆算することが出来るようになりました。ゼロになった犬や猫から優先的に里子に出していけば、シェルターが保護動物で過密状態になってしまうという事態をいくらか軽減できるかもしれません。あとは「原発いじめ」に代表されるような、放射線に対する偏見がなくなることを祈るばかりです。