詳細
調査を行ったのは、イスラエル・ヘブライ大学を中心としたのチーム。2012年から2014年の期間、交通事故による受傷から6時間以内に動物救急外来を受診した犬を対象とし、予後の予見因子が何であるかを検証しました。医療記録がしっかりと揃っていた140頭のデータを統計的に調べたところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます
Veterinary Record (2017), doi: 10.1136/vr.104293, Sigal Klainbart et al.
基本データ
- 死亡率は16.8%
- 年齢中央値30ヶ月齢(2歳半)
- 体重中央値11kg
- 都市部が64.2%(88頭)
- 郊外が35.8%(49頭)
統計的な関連性
- 3歳以下の若齢犬の重傷率が高い
- 性別や不妊手術のステータスで死亡率に違いはなし
- 季節による変動はない
- 年齢や体重と入院期間に関連性はなし
- ATT(※)と入院期間は弱く関連
- ATT(※)の中央値が高い犬(平均9.8)の方が低い犬(平均6.6)より死亡する確率が高い
- 動物外傷トリアージ(ATT)
- 犬の体を6つのカテゴリに区分し、各カテゴリに関して0(怪我なし)~3(重症)までで評価する。最終的に0~18にスコアリングされ、数が大きいほど重症。
Veterinary Record (2017), doi: 10.1136/vr.104293, Sigal Klainbart et al.
解説
人間の場合と同様、若齢個体の方が交通事故によって受傷しやすいという傾向が見られました。体重による違いがなかったと仮定しても、3歳以下の若齢犬が70%、中年犬が23%、老齢犬が8%という大きな格差です。若い犬で事故に遭う確率が高い多い理由としては、活動性が高い、好奇心が旺盛、環境経験が浅い、危険性に対する理解が浅い、注意力が散漫などが想定されています。
受傷後、歩行できなかった犬の死亡率が高いことが明らかになりました。歩けないということは中枢神経系への外傷、重度のショック、低酸素状態を示していると考えられます。特に脳外傷を負った場合、犬でも人間でも死亡率が高まることから、受傷時の犬の歩様を聞くことが重要だとしています。この知見は飼い主にとっても重要でしょう。
今回の調査では、レントゲン撮影を行った患犬のおよそ80%で胃の拡張が見られました。エサを求めて屋外をうろついているときに交通事故に遭ったという可能性もありますが、おそらく食後すぐのタイミングで飼い主が散歩に連れ出したときに事故に遭ったものと考えられます。
データ不足のため統計的な関連性までは分かりませんでしたが、食後30~45分のうちにおこる「脳のかん流低下」(Postprandial somnolence, Postprandial fatigue)が交通事故の遠因になっている可能性を否定できません。これは食事を摂ることによって血液が消化器系にとられ、脳内に流れ込む血流量が相対的に減ってしまうという現象のことです。「ぼーっとした状態」といえばわかりやすいでしょう。
犬でも人間でも、消化器系に血液を奪われると脳のかん流低下が起こり、注意力が散漫になってしまいます。「腹ごなしの散歩」とはよく聞く言葉ですが、特に飼い主は犬が事故に巻き込まれてしまわないよう注意する必要がありそうです。
犬でも人間でも、消化器系に血液を奪われると脳のかん流低下が起こり、注意力が散漫になってしまいます。「腹ごなしの散歩」とはよく聞く言葉ですが、特に飼い主は犬が事故に巻き込まれてしまわないよう注意する必要がありそうです。