トップ2017年・犬ニュース一覧4月の犬ニュース4月27日

犬の不安症に関する統計調査

 3,000人を超える犬の飼い主を対象としたアンケート調査により、犬が感じる不安の中で最も報告が多い「怖がり傾向」、「騒音感受性」、「分離不安」の出現頻度および共存性が調査されました(2017.4.27/フィンランド)。

詳細

 調査を行ったのは、フィンランド・ヘルシンキ大学のチーム。国内の動物病院、犬種クラブ、SNSなどを通じて35項目からなるアンケート調査を犬の飼い主に対して行い、犬の不安症の中で最も報告例が多い「怖がり傾向」、「騒音感受性」、「分離不安」という3項目に関する統計データを収集しました。その結果、192犬種の飼い主合計3,284人から回答が寄せられたといいます。犬たちの基本情報は、オス犬1,516頭(平均年齢5.1歳)、メス犬1,729頭(平均年齢5.3歳)で、家庭内にやってきた時の年齢は平均8週齢です。上記3項目と「見知らぬ人への攻撃性」、「見知らぬ犬への攻撃性」の出現頻度を調べた所、以下のような結果になりました。
犬の不安症・出現頻度
フィンランドの犬3500頭超における怖がり傾向、騒音感受性、分離不安の出現頻度
  • 騒音感受性大きな物音(雷・ 花火・銃声)に対して恐怖反応を示す
  • 怖がり傾向見知らぬ人間、見知らぬ犬、なじみのない状況や場所に接した時40%~100%の割合で恐怖反応を示す
  • 分離不安分離不安の兆候があるかという質問に対し、飼い主がイエスと答えた場合(具体的な内容に関しては未指定)
  • 見知らぬ人に対する攻撃性見知らぬ人に対して吠える、うなる、噛み付こうとする、実際に噛み付くといった攻撃行動を示す
  • 見知らぬ犬に対する攻撃性見知らぬ犬に対して吠える、うなる、噛み付こうとする、実際に噛み付くといった攻撃行動を示す
 どの数字をとってみても、過去の調査報告と着地点が大幅に異なるという現象は見いだされませんでした。
 例えば「怖がり傾向」に関し、過去に行われた非公式の調査報告(Voith and Borchelt, 1996)では見知らぬ大人に対する恐怖が22%、見知らぬ子供に対する恐怖が33%だったのに対し、今回の調査では26.2%でした。また「騒音感受性」に関し、過去の報告では20%(Mills, 2005)、38%(Voith and Borchelt, 1996)、51.7%(Martinez et al., 2011)といった幅広い数字が報告されているのに対し、当調査では39.2%でした。さらに「分離不安」に関しては、20% (Martinez et al., 2011)、20%~40%(Horwitz, 2012)、34%(Blackwell et al., 2013)という報告があるのに対し、当調査では18%という結果でした。
 調査の手順やデザインが微妙に異なるため単純な比較はできませんが、犬の不安徴候に関しては国や調査規模が違っても比較的近い値が出るようです。
Prevalence, comorbidity, and behavioral variation in canine anxiety
Tiira, Katriina et al. Journal of Veterinary Behavior: Clinical Applications and Research , Volume 16, 36-44

解説

 出現頻度とは別に、犬の不安徴候に関する3項目が一体どのように関わり合っているのかを調べた所、以下のような傾向が浮かび上がってきました。

不安3項目の共存性

 「怖がり傾向」、「騒音感受性」、「分離不安」という3項目の共存性を調べた所、以下のような数値になりました。
  • 怖がり傾向が強い犬・騒音感受性=55.9%
    ・分離不安=29.8%
    ※怖がり傾向なし→騒音感受性28.8%
  • 騒音感受性が強い犬・怖がり傾向=51.9%
    ・分離不安=22.7%
    ※騒音感受性なし→怖がり傾向25.7%
  • 分離不安が強い犬・怖がり傾向=58.8%
    ・騒音感受性=49.5%
 「怖がり傾向」のおよそ半数が「騒音感受性」を示し、逆に「騒音感受性」のおよそ半数が「怖がり傾向」を示すという高い共存性が確認されました。また「分離不安」のおよそ半数が「怖がり傾向」と「騒音感受性」を示すことも明らかになりました。どれか1項目だけを単独で保有しているというケースはあまり多くないことがうかがえます。

不安3項目と攻撃性

 怖がり傾向の犬とそうでない犬、騒音感受性が強い犬とそうでない犬、分離不安の犬とそうでない犬を対象とし、攻撃性に関する比較調査を行いました。ここでいう「攻撃性」とは、吠える、うなる、噛み付こうとする、実際に噛み付くといった行動のことです。
 調査の結果、3項目全てにおいて陽性(傾向を有する)犬の方で高い攻撃性が確認されたと言います。特に顕著だったのは「怖がり傾向」の犬が見知らぬ人間に対して示す攻撃性で、怖がりでない犬を「1」とした時の割合は「16.43」にまで跳ね上がりました。
 通りすがりの犬や公園などで出会った犬を、飼い主の許可無く撫でようとする人がいますが、その犬がもし強い怖がり傾向を有している場合、高い確率で咬傷事故が発生してしまう気がします。2016年に更新された日本国内における咬傷事故統計で、事故の92%は「飼い主・家族以外」が対象となっているのは興味深いところです。 犬による咬傷事故件数・最新平成26年度版

騒音源の共存性

 雷、花火、銃声に対する恐怖心は多くの場合共存することが明らかになりました。具体的には以下です。
  • 雷の音が怖い時・花火が怖い=92.9%
    ・銃声が怖い=73.8%
  • 花火が怖い時・雷が怖い=71.8%
    ・銃声が怖い=70.1%
  • 銃声が怖い時・花火が怖い=90.3%
    ・雷の音が怖い=74.5%
 サイレン、掃除機、リーフブローアーといったその他の騒音を怖がる割合は、雷を怖がる犬のうち53.5%、花火を怖がる犬のうち50.2%、銃声を怖がる犬のうち53.3%と比較的低い値にとどまりました。 犬の耳は「急に発する大きな音」とその他の持続的な騒音を無意識的に区別しているのかもしれません。突発的な爆音を怖がる犬がいる家庭においては、「ドアの開閉を静かに行う」、「くしゃみをするときは控えめにする」、「呼び鈴や着信音のボリュームを下げる」といった配慮をすることが望まれます。 犬をいろいろな音に慣らす