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犬と人間の「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)に共通点あり

 子供の10人に1人が抱えているという「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)の発症メカニズム解明に、犬が役立ってくれるかもしれません(2016.10.6/フィンランド)。

詳細

 「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)は、「衝動性」、「過剰な活動性」、「注意散漫」を特徴とする行動障害の一種。子供の5~10%が抱えており、大人においても「ケアレスミスが多い」、「約束を守れない」、「片付けるのが苦手」といった行動となって現れるとされています。およそ70%が遺伝的要因であると推測されているものの、人間を対象とした調査では煩雑すぎる関連因子がネックとなり、発症メカニズムに関する研究はあまり進んでいませんでした。
小児期のADHD
元動画は⇒こちら
 今回、フィンランドのヘルシンキ大学が調査対象としたのは、遺伝的多様性が人間よりもはるかに少なく、また環境因子も統一しやすい犬です。フィンランド国内の犬種クラブや一般の飼い主に対してアンケート調査を行い、人間のADHDに似た行動を示す犬を見つけ出し、行動的に正常と思われる犬との比較調査を行いました。犬たちの基本テータは以下です。
ADHD調査対象犬
  • 犬種=ジャーマンシェパード
  • 参加頭数=22頭
  • オス犬=6頭
  • メス犬=16頭
  • 平均年齢=62ヶ月齢
 食事内容を統一した2週間の準備期間を経た後、全頭から血液を採取し、ADHDを示す犬だけが持つ特徴的な代謝産物がないかどうかを精査しました。その結果、以下に示すような物質がバイオマーカーの候補として浮かび上がってきたと言います。
ADHDのバイオマーカー候補
  • リン脂質リン脂質は構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質の総称。ADHDのレベルと反比例の関係にある。特に強い関連性が見出されたのは「sn-1 LysoPC(18:3)」、「sn-1 LysoPE(18:2)」、「PC(18:3/18:2) 」の3つ。
  • 遊離脂肪酸遊離脂肪酸(FFA)は脂肪が分解されて生じる脂肪酸のうち、アルブミンと結合して血漿中を漂っているもの。特に「C20:4」と「C18:1」がADHDレベルと強い比例関係にあった。
  • IPA「3-indolepropionic acid」(IPA, 3-インドールプロピオン酸)は腸内細菌が食事中のトリプトファンを脱アミノ化してできる代謝産物。ADHDのレベルと反比例の関係にある。
  • IAA「indoleacetic acid」(IAA, インドール酢酸)は腸内細菌によってトリプトファンから生成される。ADHDのレベルと反比例の関係にある。
  • KYNA「kynurenic acid」(KYNA, キヌレン酸)はトリプトファンがキヌレニン回路を通じて生じる代謝産物。ADHDのレベルと反比例の関係にある。
 こうしたデータから調査チームは、ADHDと強い関連性を持った血中バイオマーカーに関する知見は、病気を早期発見する際の足がかりになるだろうとしています。 A non-targeted metabolite profiling pilot study suggests that tryptophan and lipid metabolisms are linked with ADHD-like behaviours in dogs
Jenni Puurunen, Sini Sulkama, et al. 2016

解説

 たくさんあるリン脂質の中で、特に15種類はADHDと強い反比例の関係にあることが確認されました。リン脂質は細胞膜における受容器の機能に影響を及ぼす重要な物質ですので、血中のリン脂質濃度が低いという事は、脳内における細胞膜の機能が障害を受けている可能性を示唆しています。
 IAAとIPAの生成に腸内細菌が関わっているという事実と、調査対象となった犬たちの食事内容が統一されていたという事実を考え合わせると、これら2つの代謝産物の違いは、個々の犬が持つ腸内細菌叢の違いを反映していると考えられます。メカニズムとしては「IPAの減少→脳内における酸化ストレスの増加→中枢神経系の異常→ADHD」などが想定されています。
 今回の調査ではKYNAとADHDの比例関係が確認されました。詳細なメカニズムは不明ですが、「炎症や酸化ストレス→組織中で生成されるKYNAの増加→脳内に入るトリプトファンの量が減少→セロトニンの減少→衝動性や社会的行動への制御が失われる→ADHD」といった仮説が想定されています。しかし、成人を対象とした調査では、ADHD患者の血中KYNAレベルが低くなる(=反比例の関係にある)という逆の報告がありますので、今後さらなる検証が必要となるでしょう。
 脂肪酸とADHDの関連性に関しては、今回の調査結果と相反する報告が幾つか存在しています。げっ歯類を対象とした調査では、オメガ3不飽和脂肪酸が不足すると脳内におけるドーパミン不足を引き起こし、注意力や行動に問題を引き起こすとされています(反比例関係)。また、大人と子供のADHD患者を対象とした調査では、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの長鎖不飽和脂肪酸の血中濃度が低下していると報告されています(反比例関係)。一方、犬を対象とした今回の調査では、血中の遊離脂肪酸(C20:4及びC18:1)レベルとADHDが比例関係にあるという結果になりました。詳細なメカニズムはわからないものの、リン脂質の分解が促進されたか、リン脂質の生成プロセスに何らかの問題が生じて脂肪酸濃度が高まった可能性が検討されています。また「C20:4」が酸化ストレスのバイオマーカーであることから、何らかの形で活性酸素が影響を及ぼした可能性も考えられます。