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犬がアニマルセラピー中に受けるストレスを測る

 外科手術を受けた子供とセラピー犬の様子を観察することにより、アニマルセラピーセッション中の犬がどのようなストレスを受けているかが検証されました(2016.10.13/イタリア)。

詳細

 心理的・身体的に障害を負った人が、セラピー動物と交流することで苦痛の度合いを減らすセッションの事は「AAI」(動物補助介入)と呼ばれます。「AAI」を通して動物が人間に対して発揮する癒し効果に関しては、過去に行われた非常に多くの研究調査により肯定的に評価されていますが、動物がセラピーセッションによってどの程度のストレスを被っているかに関する報告はほとんどありませんでした。そこでイタリアのミラノ大学やパヴィア大学が中心となった共同調査チームは、セラピードックとしての資格を持つ7歳のゴールデンレトリバーと、何らかの外科手術を受けた子供が交流する様子を観察し、セッションが犬に対してどのような影響を及ぼしているかを検証しました。 小児病棟でAAIを行うパグ  調査に参加したのは、男の子15人と女の子5人からなる合計20人の子供たち(平均年齢8.59歳)。参加条件は、全身麻酔下で何らかの外科手術を受けたという点です。手術から2時間後のタイミングでハンドラーとセラピー犬のペアが病室を訪れ、20分間のセラピーセッションを行っている間、犬の行動が録画記録されました。その結果、以下のような内訳になったといいます。
平均的行動
AAI中の犬が見せた行動の平均的な割合
  • 探索病室内を嗅ぎ回ったりする行動。
  • 受動的行動伏せた状態で周囲に注意を払っていない状態。
  • 環境志向匂いを嗅いだり観察したり、遠くから眺めるなど、周囲の環境に注意を払っている状態。
  • 子供と交流触れ合ったり匂いを嗅いだり観察したりするなど、子供と接した状態。
  • ハンドラーと交流触れ合ったり匂いを嗅いだり観察したりするなど、ハンドラーと接した状態。
  • その他の人と交流触れ合ったり匂いを嗅いだり観察したりするなど、子供の親や病院のスタッフと接した状態。
  • 退避行動子供から目をそらして避けたり、その場を離れようとする行動。
  • パンティング浅くて早い呼吸。
カーミングシグナルの平均回数
AAI中の犬が見せたカーミングシグナルの平均値  また、合計20セッションのうち半分では、犬の心拍数も記録されました。その結果、10セッションにおける平均心拍数は「95.3回/分」(75±3~140±8)となり、一般的に正常と言われる「60~110回/分」の範囲内に収まったそうです。
 こうした結果から調査チームは、セラピーセッションが犬にとってのストレスのきっかけになっているという明白な証拠は見出せなかったとの結論に至りました。 Stress level evaluation in a dog during animal-assisted therapy in pediatric surgery

解説

 セラピーセッションが動物にとってのストレスになっているのではないかという懸念はかねてからありました。しかし、人間に対する効果が大きいということと、ストレスを計測するためのゴールドスタンダードが存在しないといった観点から、動物の側の福祉はあまり考慮されてこなかったという経緯があります。観察を行った研究者たちは、今回の調査が長らくおざなりにされてきたこの問題にとりかかる際の足がかりになってくれるだろうとしています。
 当調査で用いられたストレスの指標は、「行動」、「カーミングシグナル」、「心拍数」ですが、どの指標も犬のストレスや不快感を確実に反映しているわけではないため注意が必要です。例えばカーミングシグナルは不安や恐怖の指標とされていますが、セラピー犬ではあまり表に出さないよう訓練されています。ですから「カーミングシグナルが見られない=犬はストレスを感じていない」という単純な図式で捉えていると、事実を誤認してしまうでしょう。また今回の調査で多く観察された「パンティング」は、ネガティブなストレスを感じている時に現れることもありますが、逆にポジティブな興奮を感じている時に現れることもあります。さらに室温によっても影響を受けますので、「呼吸が荒い=犬がストレスを感じている」とは即決できません。
 上記したように、犬のストレスを客観的に把握することが難しいことから、調査チームは「予測不能性」を排除するハンドラーの役割が重要であると強調しています。次に何が起こるかわからないという「予測不能性」は、人間や犬を含めた多くの動物にとってストレスの引き金になる普遍的な要因です。ですからハンドラーが周囲に気を配り、この「予測不能性」をできるだけ排除することさえできれば、セラピー犬のストレスを最小限に抑えることができるだろうとしています。 AAI中の犬のストレスを軽減するためには、ハンドラーが予測不能性を排除する  AAI中のセラピー犬が被るストレスに関しては、現在アメリカで「Canines and Childhood Cancer」(CCC)という名の調査が進行中です(→出典)。こちらの調査では、犬のストレス指標として26個の行動と唾液中のコルチゾール値が採用されています。2016年中に結果がまとめられる予定ですので、AAIが動物にもたらす影響がより明らかになることでしょう。 犬のアニマルセラピー