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犬の回虫症における初感染と再感染の危険因子

 千頭近い犬を対象とした統計調査により、寄生虫症の一種「回虫」の感染率と再感染率を高めている危険因子が明らかになりました(2016.11.3/オランダ)。

詳細

 調査を行ったのはオランダ・ユトレヒト大学が中心となったチーム。2011年7月から2014年10月の期間、オランダ国内に暮らしている生後6ヶ月以上の犬938頭から月1で糞便サンプルを回収すると同時に、570人の飼い主に対するアンケート調査を行い、寄生虫症の一種である回虫の初感染と再感染に関する統計データを長期的に収集しました。その結果、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。
回虫症の疫学
  • 全体の感染率は4.5%
  • 1年スパンで見ると1頭の犬が0.54回感染しているという計算になる
  • 感染なしは67.9%(637頭)
  • 感染1回のみは17.5%(164頭)
  • 感染複数回は14.6%(137頭)
  • 感染率のトラフ(最小)は夏
  • 感染率のピーク(最大)は冬
 また836頭の犬を対象とし、初感染リスクを高めている要因を調査した所、以下のような項目が候補として挙がってきました。
回虫初感染の危険因子
  • 食糞
  • 土食
  • 全体の80%以上の時間をリードなしでの散歩
  • 飼い主が糞中に回虫を発見
  • 市販のドッグフード
  • 泌尿器や呼吸器系の疾患あり
 一方、281頭の犬を対象として再感染に関する調査を行った所、小康期間の中央値は9ヶ月で、危険因子として以下のような項目が上がってきたと言います。
回虫再感染の危険因子
  • 糖質コルチコイドの投与
  • 犬の使役目的の変更
  • 駆虫薬を動物病院で購入している
 初感染にしても再感染にしても、感染率のピークが冬にあることから、調査チームは現行の駆虫計画である「年に3~4回」には改善の余地があるとしています。 Recurrent patent infections with Toxocara canis in household dogs older than six months: a prospective study
Rolf Nijsse, Lapo Mughini-Gras, et al. 2016

解説

 寄生虫陽性と出た糞便サンプル585個のうち、421個は複数回感染犬(2~9回)によって構成されていたといいます。調査チームはこうした犬たちのことを「ワーミー」(wormy, 虫が多い)と表現し、とりわけ念入りに駆虫する必要があるとしています。
 初感染の危険因子として挙げられた「食糞」、「土食」、「ノーリード散歩」に関しては飼い主が意識することで十分予防が可能です。また再感染の危険因子としれ挙げられた「使役目的の変更」は、ほとんどの場合猟犬としてハンティングに連れ出す状況を意味していますので、こちらも十分防ぐことができるでしょう。それに対し、再感染の危険因子である「糖質コルチコイドの投与」は、持病を抱えている犬の投薬を中止する必要がありますのでそう簡単にはいきません。投薬による免疫力の低下と、投薬中止による持病の悪化とのバランスを、慎重に見極める必要があります。
 初感染にしても再感染にしても、感染率のピークが冬にくる理由はよくわかっていません。犬の祖先である狼の繁殖期が冬の中頃から終わり頃にかけてであることから、体内におけるホルモンの変化パターンが子孫である犬にも受け継がれ、何らかのメカニズムを通して冬期に免疫力の低下が起こるのかもしれないという仮説があります。また、寒い時期になると散歩の量が減り、屋内で過ごす時間が増えるため、ストレスが溜まって免疫力が低下するのではないかという仮説もあります。さらに、オランダでは冬になると花火が用いられる機会が多くなるため、犬のストレスを引き起こして免疫力を低下させているという可能性も検討されています。いずれにしても、宿主の免疫力低下が感染率の上昇に寄与しているようです。
 回虫症は人獣共通感染症で人間にも感染する危険性があることから、すべての年齢層に対して年3~4回の駆虫薬投与が推奨されています。しかし今回行われた調査により、感染なし~感染1回のみの犬が全体の85%を占めていることが明らかになったため、盲目的な駆虫薬投与よりも理にかなった代替策があるのではないかという可能性が検討されています。その一例が、「月に1回~3ヶ月に1回の糞便テストを行う」というものです。頻繁に寄生虫が確認される「ワーミー」な犬に対してのみ駆虫薬を投与するという方針に変えれば、薬による身体の負荷が軽減されると考えられます。 犬の回虫症