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犬のサケ中毒を引き起こすネオリケッチア属に新種が加わる

 治療を受けなかった犬の90%を死に追いやる「サケ(鮭)中毒」を引き起こすネオリケッチア属に、新たな種が加えられました(2016.11.14/アメリカ)。

詳細

 「サケ中毒」(salmon poisoning disease, SPD)は、ネオリケッチア属の一種である「Neorickettsia helminthoeca」によって引き起こされる犬の致死性疾患。今からおよそ200年前の1814年、オレゴン州における犬の死亡例が文献に登場して以来、主にアメリカの西海岸を中心とした感染例が報告され続けています。 アメリカ西海岸では生の鮭を食べた犬が死亡するという事例が起こる  今回の報告を行ったアメリカの大学調査チームによると、サケ中毒の媒介生物であるサケ住血吸虫の体内から「Stellanchasmus falcatus agent」(SF agent)と呼ばれる病原体が検出されたといいます。この病原体はこれまでアナプラズマ科のエーリキア属に分類されていましたが、遺伝子的に解析した結果、どうやらアナプラズマ科のネオリケッチア属であるらしいとのこと。この報告はまだ十分な審査を経ていない「短報」という形ですが、今回の分類法が公認されたとすると、犬に対して病原性を持つネオリケッチア属には、サケ中毒を引き起こす「N. helminthoeca」、エロコミン吸虫熱を引き起こす「N. elokominica」、そして今回新たに加えられた「SF agent」の3種類があることになります。 Nanophyetus salmincola, vector of the salmon poisoning disease agent Neorickettsia helminthoeca, harbors a second pathogenic Neorickettsia species

解説

 病原性ネオリケッチアに属する3種類について、以下で簡単に説明します。
Neorickettsia helminthoeca
  • 疾患名サケ中毒(salmon poisoning disease, SPD)。
  • 媒介生物吸虫の一種「サケ住血吸虫」(Nanophyetus salmincola)→巻き貝の一種「Juga plicifera」→サケ科の淡水魚(サケ、マス、イワナ、スチールヘッド)やサンショウウオ(パシフィックオオサンショウウオ)。
  • 感染動物終宿主は淡水魚を食べたネコ、キツネ、ヒト、イヌなど。
  • 流行地域太平洋に面したサンフランシスコ~アラスカの海岸。特にカスケード山脈西側のカリフォルニア北部~ピュージェット湾にかけてが流行地域。
  • 症状 ヒトやネコにも感染するが、イヌ以外の動物では軽微な症状しか示さない。5~7日の潜伏期間を過ぎたあたりから発熱、下痢、嘔吐、脱水症状、食欲不振、リンパ節腫脹、目や鼻からの排出物といった症状を呈し始める。治療を行わなかった場合、2週間以内に90%の患犬が死亡するとされる。
  • 診断リンパ節から採取した体液からリケッチアを検出。もしくは糞便中の卵を確認。
  • 治療輸液や抗生物質(オキシテトラサイクリンやドキシサイクリン)の投与で、通常は2日以内に回復する。
Neorickettsia elokominica
  • 疾患名エロコミン吸虫熱(Elokomin fluke fever, EFF)。
  • 媒介生物吸虫の一種「サケ住血吸虫」(Nanophyetus salmincola)→巻き貝の一種「Juga plicifera」→サケ科の淡水魚(サケ、マス、イワナ、スチールヘッド)やサンショウウオ(パシフィックオオサンショウウオ)。
  • 流行地域太平洋に面したサンフランシスコ~アラスカの海岸。特にカスケード山脈西側のカリフォルニア北部~ピュージェット湾にかけてが流行地域。
  • 症状リンパ節腫脹と軽い胃腸障害。治療しなかった場合の死亡率は10%程度。
  • 感染動物イヌ科動物、クマ、アライグマ、フェレット。
SF agent
  • 疾患名無症状が多いため命名されていない。
  • 媒介生物通常は吸虫の一種「Stellanchasmus falcatus」だが、サケ住血吸虫にも寄生可能→巻き貝(Stenomelania, Melanoides, Tarebia)→淡水魚(ボラ属, ガビ類, アナバス属)。
  • 流行地域媒介吸虫「Stellanchasmus falcatus」の生息が確認されている地域は、ハワイ、中国、フィリピン、カンボジア、タイ、イスラエル、エジプト、オーストラリア、日本。
  • 症状ほとんどは無症状~軽い胃腸障害。
  • 感染動物淡水魚を食べる動物全般(ネコ、恐らくイヌ科動物)。
ネオリケッチア属の一般的なライフサイクル  「サケ中毒」と「エロコミン吸虫熱」に関しては、媒介生物であるサケ住血吸虫がアメリカ西海岸にしか生息していないため、風土病と言ってもよさそうです。しかし「SF agent」の方は、媒介生物である「Stellanchasmus falcatus」の分布域に合わせ、世界中に生息している可能性があります(→出典)。残念ながら、この吸虫が最初に分離されたのは日本ですので、全く無関係と切り捨てることはできないようです(→出典)。
 どのネオリケッチア属にしても、以下に述べるような注意さえ守っていれば比較的簡単に予防できます。「釣った川魚を生の状態で犬に与える」といった極端なことさえしなければ、ほぼ心配することはありません。
ネオリケッチア属の予防法
  • 病原体を含んだ魚を最低24時間冷凍する
  • 淡水魚に完全に火を通す
  • 流行地域を避ける
 なお、犬が一度感染すると免疫力を獲得しますが、種の間で免疫反応が共有されることはありません。つまり、たとえ「N. helminthoeca」に対する免疫体制ができあがっていても、「N. elokominica」や「SF agent」を駆逐する能力はないということです。 Salmon Poisoning Disease and Elokomin Fluke Fever