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多剤耐性菌の脅威は犬や猫にも迫ってきている

 複数の抗生物質を跳ね返してしまう多剤耐性菌の脅威は、人間のみならず犬や猫にも迫ってきているようです(2016.6.24/日本)。

詳細

 山口県にあるみやもと動物病院は、犬や猫における多剤耐性菌の保菌率や、耐性菌に対する新興抗生物質の効果を検証するため、病院を訪れた患犬・患猫を対象とした統計調査を行いました。基本的な用語の解説は以下です。
用語解説
  • 多剤耐性菌 複数の抗菌薬(抗生物質)に対して抵抗力を獲得してしまった菌のこと。従来の抗生物質に対して耐性を持ったごく一部の菌が、患者の体内で増殖して発生すると考えられている。
  • ESBL産生菌 多剤耐性菌の一種。「ESBL」(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)とはペニシリン系、第1~4世代セフェム系、およびモノバクタム系の薬剤を分解する酵素のこと。具体的には大腸菌、クレブシエラ、プロテウス属に多く、厚生労働省の統計によると、ESBL産生菌と思われる大腸菌の検出率は15%程度にまで高まっていると推測されている。
  • MRSA 多剤耐性菌の一種。「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」とも呼ばれ、メチシリンを始めとする複数の抗生物質に耐性を示す。
  • ファロペネム 日本で作製された新興の経口ペネム系抗菌薬。細菌の細胞壁合成におけるペニシリン結合性蛋白を阻害すると共に、β-ラクタマーゼを阻害するため、ESBL産生菌にも有効とされる。
 2013年9月~2014年8月の期間、みやもと動物病院に来院した犬猫のうち、細菌感染症と診断された個体から菌を採取し、種の同定とESBL産生の有無などを確認しました。その結果、グラム陽性菌からは「MRSA」が、グラム陰性菌からは「ESBL産生菌」が発見されたといいます。また、ファロペネムは「MRSA」に対しては全く効かなかったものの、「ESBL産生菌」に対してはしっかりと抗菌作用を示したとも。
 こうした結果から調査班は、従来の抗生物質が奏功せず、「ESBL産生菌」への感染が疑われる時は、注射でしか投与できない「カルバペネム系薬」に加え、経口投与できる「ファロペネム」も選択肢の1つとして考えてよいだろうとしています。なお、犬や猫での投与量は確立されていないものの、人での投与量を参考にすると「5mg/kgを1日3回」程度が妥当だろうとのこと。 多剤耐性菌を正しく理解するためのQ&A 犬と猫からの臨床分離菌におけるファロペネム耐性株

解説

 多剤耐性菌はそもそも、何らかの抗生物質を投与された患者の体の中に生息している菌の中で、全く偶然に抵抗力を持っていたものだけが生き残り、増殖することで生み出されます。つまり多剤耐性菌を保有している危険性が高いのは「病院で抗生物質を投与されている患者」なのです。この逆説的な事実は動物病院においても変わりません。ですから「待合室で他の犬や猫を触らない」、「自分の犬や猫を他の飼い主に触らせない」という基本事項は厳守する必要があります。
 ただしどんなに飼い主が注意していても、動物病院の意識レベルが低い場合は感染を完全に予防することはできません。なぜなら、病院で使用される「聴診器」は一般人が想像しているより遥かに汚いからです。詳しくは姉妹サイト「子猫のへや」のこちらの記事をご参照ください。 医師の多くは使用後の聴診器をしっかりと消毒しない