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骨関節炎の早期発見につながるバイオマーカーが見つかる

 診断や治療効果の判定が難しいとされる犬の骨関節炎のバイオマーカーとして、血液中に放出された関節軟骨代謝産物が活躍してくれるかもしれません(2016.2.24/スペイン)。

詳細

 調査を行ったのは、スペインの複数の大学から成る共同研究チーム。犬の骨関節炎の診断はこれまでレントゲン撮影で行うのが一般的でしたが、この方法は病気の早期発見が難しく、また治療効果が画像として現れにくいという難点を抱えていました。そこで研究チームが目をつけたのが、人医学の領域で骨関節炎のバイオマーカーとしての地位を確立しつつある「C2C」と「ヒアルロン酸」です。両物質は関節軟骨に含まれるコラーゲン線維が分解されたときに放出される代謝産物であり、生成よりも分解が過剰になったときに特徴的な数値を見せるとされています。
 調査の対象となったのは、股関節形成不全症に関連した中等度~重度の骨関節炎を抱えた「ペロ・デ・プレサ・カナリオ」(カナリーマスティフ)という大型犬10頭。平均体重は52.8 ± 3.4 kg、平均年齢は4.7± 1.2歳です。関節炎の治療法としては、骨や軟骨を再生させる能力を持った「MSC」(間葉幹細胞)と「PRGF」をブレンドした4mlの溶解液を、無菌状態で両方の股関節に1度だけ注入するというものが採用されました。治療前、30日後、90日後、180日後というタイミングで血液サンプルを採取して「C2C」と「ヒアルロン酸」を測定すると同時に、圧力センサーを取り付けたマットの上を7mほど歩かせて歩様解析を行ったところ、以下に示すような変化が見出されたと言います。
血清C2Cの変化
犬の骨関節炎への再生治療前後における血清C2C値の変化
血清ヒアルロン酸の変化
犬の骨関節炎への再生治療前後における血清ヒアルロン酸値の変化  このように、歩様の改善に伴って「C2C」が増加した一方、「ヒアルロン酸」は減少するという傾向が見いだされました。こうしたデータから研究チームは、病気の早期発見や治療効果の客観的判定を行う際、「C2C」と「ヒアルロン酸」は重要なバイオマーカーになってくれる可能性を秘めているとの結論に至りました。ただし「ヒアルロン酸」に関しては、日内変化、食事内容、体質によって容易に変動するため、犬たちの生活環境を統一した上でもう一度調査しなければ決定的なことは言えないとしています。 Serum Collagen Type II Cleavage Epitope and Serum Hyaluronic Acid as Biomarkers for Treatment Monitoring of Dogs with Hip Osteoarthritis

解説

 これまで重度の関節炎に対する根治療法は、体への負担が大きい外科手術が主流でした。しかし上記調査内で登場した「MSC」(間葉幹細胞)や「PRGF」を用いた再生医療は、体への侵襲性が小さく副作用がほとんどないといった利点から、今後外科療法に取って代わっていくと考えられています。 犬の変形性関節症 犬の股関節形成不全症
骨関節炎と再生医療
  • Zaragozaらの調査(2014年) 8頭の骨関節炎を抱えた犬に対しMSCを行った。180日後に歩様を解析したところ、治療前に比べて足にかかる力が10%ほど増加した(→出典)。
  • Vilarらの調査(2014年) 股関節に重度の骨関節炎を抱えた犬10頭に対し、関節内へのMSC注入を行った。その結果、最初の3ヶ月で歩様の著明な改善が見られた(→出典)。