トップ2016年・犬ニュース一覧12月の犬ニュース12月8日

匂い検知器に犬のクンクン運動をさせると検知能力が10倍以上に跳ね上がる

 匂いを嗅いでいる時の犬がするようなクンクン機能を市販の匂い検知器に後付けしたところ、検知能力が10倍以上に跳ね上がることが明らかになりました(2016.12.8/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のチーム。匂いを嗅いでいるときに犬が行う吸って吐いての連続運動(クンクン)が流体力学的にどのような作用を生み出しているのかを明らかにするため、3Dプリンターで制作した犬の鼻を用い検証実験を行いました。 3Dプリンターで作成した犬の鼻の模型  チームはまず鼻の模型を使って吐き出し実験と吸い込み実験を行い、模型周辺の空気がどのように流れるのかを見てみました。その結果、鼻から吐き出された空気が下側方に押し出されると同時に、前方の空気が鼻の近辺に流れ込んでくることがわかったと言います。 犬の鼻腔から吐き出された息は下側方に流れる  次にチームは「ずっと吸い続けるパターン」と「1秒間に5回の割合でクンクンするパターン」とに分け、ニオイの発生源から犬の鼻の模型をさまざまな距離に置き、ニオイ物質の取り込み能力がどの程度変化するのかを確認しました。その結果、「クンクンパターン」は対象(DMF)との距離が10cmの時は4倍、20cmの時は18倍も「吸い続けパターン」より好成績だったと言います。 鼻から押し出された息が空気の流れを作り、前方の空気を鼻先に導き入れる  最後にチームは、市販の匂い検知器(VaporTracer)に後付けでクンクン機能(1秒間に5回空気の出し入れを行う+空気は下側方に押し出される)を取付け、検知能力がどの程度変化するのかを実験しました。 市販の匂い検知器にクンクン機能をあとづけするだけで、検知能力は16倍に跳ね上がる  実験の結果、ただ単に周囲の空気を吸い込み続けるよりも、吸って吐いてを繰り返しながら空気を取り込んだほうが16倍も検知能力が上がることが確認されました。
 こうしたデータから、持続的に吸引するだけの従来の匂い検知機に、犬の「クンクン」から着想を得た断続的な取り込み機能を付け加えるだけで、検知能力が格段にアップする可能性が示されました。
Biomimetic Sniffing Improves the Detection Performance of a 3D Printed Nose of a Dog and a Commercial Trace Vapor Detector
Matthew E. Staymates, et al. Scientific Reports 6, Article number: 36876 (2016) doi:10.1038/srep36876

解説

 匂いを嗅いでいるときに犬がクンクンする理由は、鼻息を吐き出すことによって空気の流れを作り出し、ニオイ物質を豊富に含んだ前方の空気を鼻先に導き入れるためです。前に進みながら匂いをスキャンする犬の動きから考えると当然の仕組みと言えるでしょう。鼻の横にある切れ目は、ひょっとすると吐き出した息を下側方に流すための導管として機能しているのかもしれません。 犬の鼻の横にある切れ目は空気を下側方に導いている  従来の匂い検知器には、ニオイの発生源に機械を近づけるだけのタイプや、四方の空気をむやみやたらに取り込み続けるタイプのものしかありませんでした。その結果、ニオイを検知する能力自体はあるものの、ニオイの発生源を突き止める能力に関してはイマイチだったようです。今回の実験で使用されたような人工の「クンクン機能」を取り付ければ、前方にあるニオイ物質を効率的に取り込むと同時に、ニオイの発生源をピンポイントで確定できる能力を後付けできると期待されています。これは、生物が持っている機能を工業製品に生かす「バイオミメティクス」(生物模倣)の好例といえるでしょう。
 将来的に麻薬犬や爆弾探知犬の代わりに匂い検知器が導入されるようになれば、危険な現場に駆り出される犬たちの数も減ってくれると考えられます。 犬の鼻・嗅覚