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施設への収容は年老いた犬に持続的ストレスを与える

 飼育放棄されて行政機関にやってきた老犬を対象とした調査により、犬のストレスレベルが低下するまでには通常よりも長い時間がかかる可能性が示されました(2016.12.26/日本)。

詳細

 調査を行ったのは麻布大学獣医学部のチーム。2014年4月から2015年9月の期間、神奈川県動物保護センターに収容された老犬12頭を対象とし、犬のストレスレベルが時間とともにどのように変化するのかを検証しました。犬たちの基本的なプロフィールは以下です。
収容老犬の基本情報
  • 平均年齢9.8歳
  • オス犬10頭+メス犬2頭
  • 全頭不妊手術はしていない
  • 純血種6頭
  • ミックス種6頭
 犬たちは体の大きさに合わせ、小サイズ(0.8m×1.5m×0.7m)か大サイズ(1.0m×2.0m×2.5m)どちらか一方のケージに収容されました。そして食事の時間(朝9時と午後5時)、室温(25℃)、部屋の明るさ(40ルクス)などをすべて統一した上で、犬の糞便を採取すると同時に、午後2時から4時の間の行動を観察したところ、時間の経過とともに以下のような変化が見られたと言います。なお「コルチコステロン」とはストレスの指標となる物質のことで、値が高ければ高いほどストレスの度合いが強いことを意味しています。
老犬の糞中コルチコステロン(ng/g)
保護施設に収容された老犬の糞便コルチコステロン経時変化  行動に関して最も大きな変化を見せたのは「常同行動」(同じ動作を延々と繰り返す)と「睡眠」で、前者が初日35.7%→6日目2.6%、後者が初日0%→6日目42.7%と著明な改善を見せました。一方コルチコステロンレベルに関しては、初日と7日目でおよそ27%の低下が見られたものの、7日目でも比較的高い状態に維持されていたと言います。その値は人間とコンスタントに接する機会がある同一施設内の犬に比べ10倍以上でした(1,035ng/g:12,178ng/g)。
 こうした結果から調査チームは、コルチコステロンレベルだけに注目すると、老犬を新たな環境に慣らすためには1週間以上の期間が必要なのではないかと推測しています。ストレスを軽減するために施設のスタッフが接触してあげることが重要ではあるものの、世話をする人間の変化に対し歳をとった動物はうまく対処できないという報告もあるため、どのみち時間を要するだろうとも。
Effects of Sheltering on Behavior and Fecal Corticosterone Level of Elderly Dogs.
Uetake K, Yang CH, Endo A and Tanaka T (2016) Front. Vet. Sci. 3:103. doi: 10.3389/fvets.2016.00103

解説

 1997年にアメリカで行われた調査では、施設に収容されてから最初の3日間のストレスレベルが最も高く、以降は徐々に減っていくとされています(→出典)。しかし今回の調査では、収容7日目でも基準レベルの10倍近いストレスレベルを保っているという可能性が示されました。7歳以上の老犬を対象とした別の調査(→出典)では、世話をする人間の変化に対処するのが苦手であるとされていますので、若い犬に比べて老齢犬は環境の変化から大きなストレスを感じとっているものかもしれません。 保護施設に収容された老犬は、若い犬よりも強いストレスを感じている可能性がある  日本国内では高齢化に伴い高齢者によるペットの飼育放棄が問題になりつつあります。こうした事態を受けて2016年2月、東京都が高齢者向けの適正飼育ガイドライン「ペットと暮らすシニア世代の方へ」を急遽作製した事は記憶に新しいところです(→詳細)。入院や死亡に伴って飼い主を失ったペットたちは、飼い主と同様高齢であるケースが多々あります。仮に自分が居なくなったとしても、犬の生活を保障してくれる体制を事前に整えておけば、年老いた犬たちに不要なストレスを強いるような状況がいくらか減ってくれるものと考えられます。 東京都が高齢者によるペット飼育放棄に歯止め