トップ愛犬家の基本犬の法律

犬の法律ガイド~疑問やトラブルのQ&A集

 犬を飼っている人が遭遇しそうな状況を、法律という観点からQ&A方式まとめました。当たり前と思っていることが、実は法律違反だったということはよくあります。ありがちな誤解パターンを事前に理解しておきましょう。

犬の法律の基礎知識

 「犬」という言葉が直接記載されており、最も大きな影響力を持っている法律には「動物愛護法」「ペットフード安全法」「狂犬病予防法」などがあります。書き方がまどろっこしくて読みにくい部分もありますが、一度原文を読んでおいたほうがよいでしょう。その他の法律は、犬との暮らしの中で間接的に関わってくるものです。
犬関連の法律や規則

犬の飼い主が守るべき法律

 犬を飼い始めた瞬間から、飼い主に対しては全国統一の法律、都道府県レベルの条例、一般常識というさまざまなレベルで義務が発生します。以下は日本国内に暮らしている限り絶対に守らなければならない最低限のルールです。動物愛護法および環境省告示の内容を簡潔にまとめてあります。これらを守っていないような場合は、いわゆる「動物虐待」とみなされます。
最低限のルール
  • 給餌適切な量の餌や水を与えること。餌を与えずにガリガリにしたり、逆に餌を与えすぎてブクブク太らせたりしない。
  • 健康管理病気やケガをした場合は速やかに動物病院を受診すること。おなかに腫瘍ができて歩くたびに地面を擦っていたり、骨折して足を引きずっているのに放置しない。
  • しつけ・訓練適切な方法でしつけを行うこと。鳴き止まないからと行って犬を蹴飛ばしたり石を投げつけてはいけない。
  • 飼育環境犬にとって快適な飼育環境を整えること。屋外の場合はエアコンの室外機の風が当たる場所に犬小屋をおかない、吹雪の中、犬を外に放置しない、外につなぐ際は道路や通路に接しないようにするなど。屋内の場合は常に清潔にする、脱走しないようドアや窓を常にチェックする、災害時の準備をしておくなど。
  • 公共マナー公共の場所を汚したり他人に迷惑をかけないこと。犬を放し飼いにしない、散歩するときはリードにつける、散歩中に出したうんちやおしっこを放置しない、ベランダでブラッシングをして抜け毛を飛散させない、夜中の鳴き声で近隣住人に迷惑をかけないなど。
  • 頭数制限管理能力を超えて飼育頭数を増やさないこと。事前に去勢手術や避妊手術を行い繁殖制限をするなど。
  • 終生飼養遺棄しないこと。むやみに飼育放棄して保健所や動物愛護センターに犬を持ち込まないこと。どうしても飼育が困難な場合は譲渡するよう最大限の努力をするなど。
 上記した最低限のルールに加え、ほとんどの都道府県では動物の飼育に関する条例を設けています。また狂犬病予防法により、犬の登録を行うことと年1回狂犬病予防注射を受けることが義務づけられています。犬の飼い主は法律のほか条例の内容もしっかりと把握して遵守しなければなりません。守らない人には罰則が設けられています。

犬をめぐるトラブルの解決法

 犬をめぐるトラブルが民法に関わるものである場合は、当事者同士の話し合いである「民事調停」や「あっせん・仲裁」といった解決法があります。一方、刑法に関わるものである場合は警察に犯罪事実を告知し、捜査をしてもらう必要があります。どの方法がベストなのかがわからない場合は、国が設立した法的トラブル解決のための総合案内所「法テラス」にひとまず相談するというのも手です。

民事調停

 自分自身がトラブルを起こした場合やトラブルに巻き込まれた場合、いきなり弁護士を雇って裁判に持ち込んでしまうと時間もお金もかかってしまいます。こうした事態を避けるため、裁判所には民事調停という制度が設けられています。これは決まった日時に裁判所が当事者双方を呼び出し、間に一般市民から選ばれた調停委員と裁判官が入って話合いを行うというものです。目的は勝ち負けを決めることではなく、話し合いによって両者が合意できる点を見つけることです。
 扱われるのは民事に関する紛争全般で、具体的には金銭の貸し借り、物の売買、交通事故、土地や家屋の貸し借りをめぐる紛争などが含まれます。 民事調停について

あっせん・仲裁

 あっせん手続きとは、当事者間での話し合いによる解決が困難な場合、第三者があっせん人となって双方の言い分を聞き、争点を整理した上で和解をあっせんするというものです。民事調停における第三者が調停委員や裁判官だったのに対し、あっせん手続きにおいては主として弁護士が間に入ります。当事者の合意があれば、手続の途中で次の「仲裁」手続に移行することもできます。
 仲裁とは弁護士会や行政書士会が行う裁判外紛争解決手続の一種で、仲裁人(主として弁護士)が双方の言い分をよく聞き、争点や事実関係を整理した上で最終的に仲裁判断をして解決するというものです。当事者双方が「仲裁人の判断に従う」と約束していることが前提となります。仲裁人を裁判所の外にいる裁判官と考えれば分かりやすいでしょう。仲裁判断は裁判における確定判決と同一の効力を有しますので「そんな判断は納得いかない!」といったわがままはもう通用しません。 手続全般についての質問(東京弁護士会)

民事裁判

 話し合いで解決できない場合は、裁判所で民事裁判を起こして判断を求めます。裁判手続では、当事者双方の主張や情報に基づいて裁判官が判断を下し、最終的な判決を出して争いに決着をつけます。
 請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、請求額が140万円超もしくは獣医療過誤訴訟のような複雑な案件は地方裁判所の管轄となります。また相手への請求金額が60万円以下の場合は、審議を1日で終了させる少額訴訟という手続きも用意されています。
 裁判が始まってからも進行具合によっては話し合いでの解決を勧められることがあります。話し合いに決着がつけば、裁判は判決を待たずに終了です。 民事訴訟

刑事裁判

 傷害罪、器物損壊罪、動物愛護管理法違反など何らかの罰則が定められている法律の違反があった場合には刑事上の処分を求めて刑事裁判が行われることもあります。流れは「警察への告訴・告発→警察による捜査→検察による起訴→刑事裁判→判決」というものです。
刑事事件の流れ
  • 告訴・告発 告訴とは犯罪を受けた被害者が行う犯罪事実の告知で、例えば「隣人がわざと私に犬をけしかけて足首を噛まれた!」などが含まれます。一方、告発は誰でも行うことができる犯罪事実の告知で、例えば「隣人が犬を蹴飛ばしていた!」などがあります。
     告訴や告発は最寄りの警察署や事件のあった場所を管轄している警察署に口頭または書面で行います。似たような言葉で「被害届」というものがありますが、これは犯罪事実があった事の届出に過ぎません。犯人を処罰したいという明白な意思がある場合は告訴や告発をしたほうがよいでしょう。
  • 捜査告訴や告発を受けた警察はその犯罪事実を取り調べ証拠収集などの捜査を開始します。
  • 起訴捜査の結果を受けた検察官が、被疑者の性格や年齢といった状況を考えて訴追の必要性を判断します。必要ないと判断された場合は不起訴、必要と判断された場合は刑事裁判となります。なお100万円以下の罰金・科料に相当する事件の場合は略式起訴(りゃくしききそ)という手続が行われることがあります。これは通常の起訴手続きを簡略化したものであり、「軽微な犯罪」の代名詞と考えられることもしばしばです。残念ながら動物虐待事件の多くは、この略式起訴で終わらされます。
  • 刑事裁判・判決裁判官が検察側と弁護側の主張を聞き、最終的な判決を下します。有罪判決が下った場合は刑期、執行猶予期間、罰金額が決められます。

よくある質問と誤解

法律上、ペットはどのように扱われていますか?

ペットは「物」として扱われます。  日本の民法では、形あるものは全て物とされます(民法85条)。このうち土地とその定着物である建物(不動産)以外のものは全て動産とされますので(民法86条)、法律上ペットは「動産」として扱われます。
 ですからペットの名前で賃貸契約したり口座を作ったり訴訟を起こすことはできません。また第三者がペットを傷つけたり殺したりしても、人間で言う「傷害罪」や「殺人罪」にはならず、「器物損壊罪」や「動物愛護法違反」という形になります。ペットを家族の一員と考えている飼い主にとって、ペットの法律的な位置づけに関しては違和感しか覚えないでしょう。

日本は狂犬病がないので予防注射はしなくていいですよね?

そういうわけにはいきません。  狂犬病予防法(第一章の第4条)により、犬の飼い主には飼い犬を市区町村に登録すること、および交付された鑑札と注射済票を犬に装着することが義務付けられています。鑑札や注射済票がない犬は捕獲の対象になり、また飼い主が20万円以下の罰金に処せられる場合があります。
 生後90日齢以下の犬に関しては生後91日齢~120日齢の間に、生後91日齢以上の犬に関しては犬を取得した日から30日以内に登録を済ませることになっています。登録に必要なのは印鑑と登録手数料3,000円です。また狂犬病の予防注射は4~6月に行われる集団接種、もしくは動物病院で随時行われている個別接種により、年1回受けなければなりません。 狂犬病について

迷子札は必要ですか?

必要です。  動物愛護法(7条6)では「動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置を講じるように努めなければならない」とされています。また、いささか曖昧な法律の内容を細かく規定した環境省の告示「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」では、飼育動物が逸走した場合には自らの責任において速やかに捜索し捕獲することと規定されており、家を犬が脱走できないような構造にすることのほか、脱走した犬の所有者をすぐに発見できるようマイクロチップを装着するなど所有明示をすることと定められています。
 ですから犬の飼い主は市区町村から交付される鑑札、自主的に用意した迷子札やマイクロチップなどによって、犬が迷子になった時すぐに自分のもとに連絡が来るよう努めなければなりません。 迷子犬の探し方

リード無しで犬を放し飼いにしている人がいます!

管轄の保健所に通報しましょう。  係留義務は法律や条例で義務化されている最低限のルールです。動物愛護法では「動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」(7条の1)、「動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」(7条の3)と定められています。
 また動物愛護法の内容をより詳細にした環境省告示「家庭動物等の飼養および保管に関する基準」では以下のような細目が定められています。
  • 原則として犬の放し飼いを行わないこと
  • 犬をつなぐ場合は行動範囲が道路や通路に接しないようにすること
  • 人の生命に危害を加えたり人に迷惑を及ぼすことのないように適正な方法でしつけを行い、所有者の指示に従うよう訓練に努めること
  • 屋外で犬を散歩させる場合、犬を制御できるものが原則として引き運動により行うこと
  • 犬の突発的な行動に対応できるよう引きつなの点検及び調整等に配慮すること
  • 大きさや闘争本能に鑑み、人に危害を加える恐れが高い犬を散歩させるときは人の多い場所や時間帯を避けること
  • 危険と判断される犬には必要に応じて口輪を装着すること
 さらに地方自治体の条例によって犬の管理方法が指示されていることもあります。たとえば「東京都動物の愛護及び管理に関する条例」(7条)では「犬を制御できる者が、犬を綱、鎖等で確実に保持して、移動させ、又は運動させる」と定められています。
 リード無しで放し飼いにされている犬の飼い主が判明している場合は、まず管轄の保健所や動物愛護センターなどに通報して現状を把握してもらいましょう。職員もしくは動物愛護担当職員や動物愛護推進員を通じて適切なアドバイスがなされ、飼育が改善するかもしれません。悪質と判断された場合は、市区町村レベルからの命令や勧告がなされることもあります。

飽きたんで犬を捨てていいですか?

だめです。  さまざまな法律に反していると同時に、一般倫理的にも許されません。
【動物愛護法】
 第6章の罰則で、「愛護動物を遺棄した者は、百万円以下の罰金に処する」と規定されています。ですから予定外の妊娠で生まれた子犬を動物愛護センターの前に置き去りにしたり、子猫を猫カフェの前に置き去りにしたりすることは、全て犯罪として扱われます。
【軽犯罪法】
 第1条12号で「人畜に害を加える性癖のあることの明らかな犬その他の鳥獣類を正当な理由なく開放し、またはその看守を怠ってこれを逃した者」は拘留または科料に処するとあります。要するに、言うことを聞かないからといって犬を捨てると法律に触れるということです。拘留とは1日以上30日未満の期間拘留場に拘置されること、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭を払うことです。
【刑法】
 捨てた犬が人畜に危害をくわえてしまい、さらに飼い主が判明している場合は過失致傷罪、過失致死罪、器物損壊罪などが発生し、飼い主はその責任を取らねばなりません。
【民法】
 捨て犬が他人に危害を加えた場合、不法行為として飼い主が賠償責任を負います。

ペットの不妊手術は合法ですか?

合法です。  動物愛護法(第3章・第1節の第7条)では「動物の所有者は、その所有する動物がみだりに繁殖して適性に飼養することが困難とならないよう、繁殖に関する適切な措置を講ずるよう努めなければならない」と規定されています。つまり複数のペットを飼うには経済的にきつかったり、十分なスペースがないのにむやみやたらに頭数を増やすのはやめましょう、と規定しているのです。
 繁殖制限をする場合、オスなら去勢手術、メスなら避妊手術を施すことになります。なお市区町村によっては避妊・去勢手術に補助金が適用されるところもありますので、役所にご確認下さい。 犬の不妊手術

近所にペットを虐待している人がいます。どうすればよいでしょうか?

最寄の警察署や動物愛護センターに相談してみましょう。  動物愛護法で定められている飼い主の義務は犬の飼い主が守るべき法律で解説しました。もしこうした義務を果たしていない飼い主を見かけたときは、保健所、動物愛護センター、警察などに通報しましょう。たとえば「犬を蹴飛ばしている」「犬がガリガリに痩せている」「冬もずっと屋外につながれたままだ」「体中にダニがついている」などです。
 動物愛護法には罰則が設けられており、違反した者は刑事上の責任に問われます。警察に犯罪行為を通報するときは、被害者本人が行う告訴と被害者以外の人間が行う告発とがありますが、犬は告訴を行うことができませんので、周囲にいる人間が告発という形で虐待されている犬を守ってあげなければなりません。
 告発を受けた警察官は「いそがしい」とかなんとか言って取り合ってくれないかもしれません。しかし刑事訴訟法(242条)では「告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない」と規定されていますので、その対応が警察全体のものなのか、その警官個人のものなのかを氏名とともに確認しておきましょう。

犬が出産しました。ペットショップに売ってもいいですか?

「第一種動物取扱業」の登録をしていない場合は違法です。  ペットの所有権を第三者に移す対価として金銭を受け取る場合は、販売業者とみなされます。動物販売業者が先に述べた「第一種動物取扱業」の登録をせずに販売を行った場合は、動物愛護法違反により罰金に処せられます。つまり登録をしていない一般人が、「小遣い稼ぎ」程度の軽い気持ちで子犬を第三者に譲って代金を受け取ると違法になるのです。現に2017年10月、「第一種動物取扱業」の登録を受けずにチワワ3頭を販売したとして、練馬区在住の無職男性(84)が逮捕されるという事件が起こっています。
 ただし「業」とは同じ行為を繰り返し行うということです。その金銭の授受が1回きりで、なおかつ今後もそのような授受が行われないという場合においては、単なる個人間のお金の受け渡しということで例外的に認められることもあります。

犬を迎えるときの法律

首輪をつけた犬が迷い込んできました。このまま飼ってもいいですか?

だめです。  首輪をつけた犬はほとんどの場合飼い犬ですので、他に所有者がいます。迷い犬が飼い犬である可能性がある場合は、遺失物として警察に報告しましょう。警察に報告せず、そのまま強引に他人の飼い犬を飼ってしまうと以下のような法に抵触する危険性がありますのでご注意下さい。
【民事責任】
 所有権に対する侵害行為として、民法709条の不法行為に当たり、損害賠償責任が発生します。たとえば飼い犬を探すためにかかった費用、犬がいない間にこうむった損害、精神的な苦痛に対する慰謝料を請求される場合があり、これに応じなければなりません。
【刑事責任】
 拾った財布をネコババしたのと同様、遺失物横領罪という犯罪が成立し、1年以下の懲役、または10万円以下の罰金、科料(刑法254条)という刑罰が課せられる危険があります。帰ろうとしている犬を無理やり鎖でつないだ場合は、より重い窃盗罪が適用されるかもしれません(刑法235条)。
 警察に報告した場合、「飼い主が見つかるまでこちらで預かります」と申し出れば、そのまま自宅で預かることも可能です(遺失物法4条3項)。もし6ヶ月経っても飼い主が現れなかったら拾った本人の所有物となります(民法240条)。またもし飼い主が現れたら、犬の時価の5~20%の報労金(遺失物法4条)や犬を預かっていた間の必要経費を請求できます。

野良犬をペットにすることはできますか?

野良犬であることが確実ならできます  飼い主のいない犬、つまり野良犬は自然環境の中に存在する物として扱われますので、野良犬を飼うことに問題はありません(民法239条1項)。これは「無主物先占」といって、カブトムシを捕まえて虫かごで飼うのと同じこととして扱われます。ただしその犬が誰かの飼い犬である場合は話が違います。飼い犬は第三者の所有物ですので、勝手に飼うと窃盗罪や占有離脱物横領罪などが成立する危険性があります(首輪をした犬を買ってもいいですか?参照)。
 飼い犬か野良犬かの判断がつかないときは、一旦遺失物として警察に報告しておいて、飼い主が見つかるまで預かるという形にしたほうが無難です。動物病院などに行って健康診断とともにマイクロチップがないことを確認しましょう。また動物愛護センターに迷子犬の届け出がないかを確認し、ネット上の掲示板や近所に迷子犬のポスターやチラシが出回っていないかどうかをチェックします。
 迷子を探している飼い主の気配がなく、6ヶ月経っても飼い主が現れなければ、その犬を自由に飼うことができるようになります。

知人から子犬をもらう予定ですが、法的に問題はありますか?

何らかの法に抵触するということはありません。  お金を払って物を所有する売買契約に対し、お金や対価を払わないで物を所有することを贈与契約といいます(民法549条)。知人から子犬をもらい受ける行為は贈与契約に当たり法的な問題はありませんが、以下のような制約がありますのでご確認下さい。
 環境省の告示「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」では、犬の所有者が子犬を譲渡する際はできるだけ離乳後にするよう努めること、および社会化期に関する情報を提供することと規定されています。ですから子犬を譲り受ける側も、社会化期が終わった生後14週齢以降にするよう努めなければなりません。
 もらった子犬に先天的な病気があり、高額の医療費がかかったとします。しかしもらった側はあげた側にその医療費を請求することや、「やっぱり返すわ」といって突き返すことはできません(民法551条)。金銭のやりとりがある売買契約の場合は、売主側に欠陥を保証する責任がありますが(瑕疵担保責任)、金銭のやり取りを伴わない贈与契約の場合は贈与側にそこまでの責任がないのです。ただし欠陥を知っていてわざと贈与した場合はその限りではありません。
 贈与する際、「毎日散歩させる」とか「きちんと育てる」といった約束している場合は「負担付き贈与」となり、譲り受けた側がしっかりと約束(負担)を果たさなければなりません。もし約束を破っていいかげんな育て方をしてしまうと、贈与した側が債務不履行を理由に贈与契約を解除し、返還を求めることができます(民法553条)。

ペットショップで買った犬に病気が見つかりました。返還はできますか?

できることもあります。  販売時の契約で他の犬との交換や医療費の部分補償が約束されている場合は可能です。トラブルが発生したときのため、補償内容は口頭ではなく文書で残しておいたほうが無難でしょう。その病気が先天的であれ後天的であれ、ペットショップにいた時点で保有していたものなのか、それとも購入者の家に移動した後に保有したものなのかが争点になります。
 売買契約自体を解約したい場合は難しいかもしれません。自分自身が店に出向いてペットを買った場合は、家に押し売りが来て買った場合とは違い、特定商取引法によるクーリングオフが適用されません。クーリングオフでは8日以内に意思表示をして契約を解除することができますが、ペットショップの場合は1度売買契約したら解約することはなかなか難しいのです。なお売買契約は書面を交わさなくても口約束だけで成立します。

販売後に判明した先天疾患が原因で死亡してもペットショップは一切責任を負わないと主張していますが…。

そのような主張は無効です。  事業者(ペットショップ)と個人(飼い主)との売買契約では消費者契約法が適用され、消費者にとって一方的に不利益となる免責条項は無効となります(消費者契約法8の1)。「一切責任を負わない」といった類(たぐい)の、事業者の責任を全面的に免除する条項はそもそも認められません。

血統書は信用できますか?

売主が信用できなければ、血統書も信用できません。  血統書(血統証明書)には一般的に犬名、犬種、登録番号、性別、毛色、繁殖者名、所有者名、登録日、生年月日、出産頭数、登録頭数、一胎子登録番号、チャンピオン賞歴、訓練資格、両親や祖父母の犬名や登録番号、及びチャンピオン歴等が記載されます。血統は一般的に3代前(両親、祖父母、曽祖父母)までの計14頭が記載されます。
 以上の一般的な基準と比較して、売主から渡された血統書の項目があまりにも少なかったり、或いは売主が言っていたこととは明らかに矛盾する内容が記載されている場合は、売主も血統書も信用できないと言ってよいでしょう。また、「血統書付」を宣伝文句に犬を販売していた場合、売主は買い手に対して無料で血統書を交付しなければなりません。 血統書について

血統書付きと言われて犬を買ったのですが、その血統書は偽物でした。代金の返還を要求することはできますか?

できます。  この場合その犬を買おうと決意した判断材料として血統書が挙げられます。しかしその血統書自体が偽物だった場合、購入者は購入という行為が錯誤(さくご=ありもしないことをあると思い込むこと/この場合は血統書の内容を信用すること)に基づくものとして、売買契約の無効を主張することができます(民法95条)。購入者は店に対して代金の返還を要求し、逆に子犬を店に返還するという形になります。
 また店の側が血統書の内容が偽りであると認識していたにもかかわらず犬を購入させていた場合は詐欺罪(刑法246条)にあたり、購入者は店を告訴することもできます。なお詐欺行為によって成立した契約は、民法第6条によって取り消すことが可能です。 血統書について

犬との暮らしの中での法律

ペットによるトラブル

飼い主によるトラブル

動物病院とのトラブル

第三者によるトラブル

犬が人を噛んで怪我をさせてしまいました。飼い主にどのような責任が生じますか?

民事上と刑事上、両方の責任が生じます。 【民法上の責任】
 わざと(故意)やうっかりミス(過失)によって他人の権利や法律上保護されるべき利益を侵害した場合、加害者は生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条/不法行為責任)。またたとえ利益を侵害したのが動物だったとしても、動物の占有者として飼い主が被害者の損害を賠償する責任を負います(民法718条)。ですから「やったのは犬だ。私は関係ない!」という言い訳は通用しません。
 犬が人に噛み付いて怪我をさせてしまった場合は、具体的に傷の治療費、慰謝料、逸失利益(いっしつりえき)などを賠償する責任を負います。「治療費」には傷の治療にかかった費用のほか通院に必要な交通費まで含まれます。「慰謝料」は噛まれたことで体に傷跡が残り、精神的な苦痛を味わったときなどに発生します。「逸失利益」とは、噛まれて障害を持ったことにより事故が起きる前の労働を行うことが出来なくなり、収入が減少することです。たとえば被害者がたまたま「手タレ」をやっている女性で、犬が噛まれたことで傷が残り、もはや仕事ができなくなった場合は、仕事を失ったことで生じる損害を逸失利益として埋め合わせしなければなりません。
 被害者の側にもミス(過失)があると認められるときは「過失相殺」といって飼い主の責任が軽減されることもあります(民法722条の2)。例えば子供が敷地内に無断で入ってきて、つながれている犬を犬小屋から引きずり出し、無理やり抱っこしようとして噛まれたときなどです。
 例外的に飼い主が責任を免れるのは、「十分に注意を尽くしていた」と認められる場合です。しかし裁判で認められることはほとんどありません。例えば飼い主が犬の散歩中リードでしっかりコントロールしていなかった、犬を庭につないでいたけれども玄関に届く距離だった、犬注意のシールを張っていなかったなど、重箱の隅をつつけば飼い主の側の落ち度はいくらでも見つかりますので、「十分注意していた」と判断されることはきわめて稀なケースです。
【刑法上の責任】
 飼い主のわざと(故意)やうっかりミス(過失)が原因で犬が人に危害を加えた場合、傷害罪(刑法204条)に問われることがあります。
 飼い主の過失が重大とまでは言えない場合は「過失致死傷罪」(刑法209条)、過失が重大なものである場合は「重過失致傷罪(刑法211条)になります。ただし民法とは違い、刑法の傷害罪は申告罪であるため、被害者が自らアクションを起こして噛んだ犬の飼い主を警察などに告訴しなければ成立しません。またドッグトレーナーやドッグウォーカーが職業として犬を管理していたときに咬傷事故が起こった場合は、「業務上過失致傷罪」(刑法211条)に問われることがあります。

犬が他の犬に怪我をさせてしまいました。飼い主に賠償責任はありますか?

あります。  犬が人に怪我をさせたときと同様、飼い主は犬の占有者として生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条/不法行為責任)。加害者が賠償しなくてならないのは、社会的に見て加害行為と相当の範囲にある損害に限定されます(民法416条)。
 例えば動物が怪我をしてしまった場合は治療費を、動物が死んでしまった場合は時価総額を支払わなければなりません。時価総額は、純血種の場合はペットショップなどで売られている相場の価格ですが、盲導犬や警察犬など特殊な犬の場合は数百万円を越えるようなかなりの高額になることもあります。また犬が死んで飼い主が精神的な苦痛を味わった場合は、慰謝料を請求されることもあるでしょう。

知人に預けていた犬が第三者を噛んで怪我をさせてしまいました。私にも責任がありますか?

あります。  民法718条では「動物の占有者はその動物が他人に加えたる損害を賠償する責に任ず」とし、また同時に「占有者に代わりて動物を保管するものもまた同じ」と定めています。つまりペットを預けた側も預かった側も共に責任を取らねばならないのです。「私がいない間に起こった事故だから私には関係ない」とか「私は一時的に預かっているだけだから関係がない」といった言い訳はともに通用しないということになります。
 噛まれた被害者の方は預けた側と預かった側の両方に損害賠償請求をすることができますが二重支払いはできません。これに対して預けた側と預かった側は、動物の種類や性質に従って相当の注意を払って保管したことを立証することができれば責任をまぬかれることができます。また、被害者の側に過失があった場合は過失相殺により加害者の責任が軽減されることもあります。

犬が飛びかかってきたので身を守るため蹴飛ばしました。怪我に対する賠償責任はありますか?

ケースバイケースです。  賠償責任が発生するかどうかは犬がどのような状況で飛びかかってきたのかによります。
【正当防衛の場合】
 犬の飼い主が公道で放し飼いをしているとか、飼い主がわざと犬をけしかけたような場合は、飼い主に不法行為(過失・故意)が認められます。その場合、自分の身体や財産が侵害される恐れがあったとして「正当防衛」(民法720条の1)が認められ責任を免れる可能性があります。
【緊急避難の場合】
 地震や火事などによって犬が偶発的に逃げ出して道をうろついていたような場合は、犬の飼い主に不法行為は認められません。その場合、他人のものから生じた急迫の危難を避けるためだったとして「緊急避難」(民法720条の2)が認められ責任を免れる可能性があります。
 正当防衛にしても緊急避難にしても、身を守るためだったら何をしてもよいというわけではありません。例えば犬に馬乗りになって殴り殺したというような極端な場合は、守ろうとした法益と侵害した法益の均衡が保たれていないとして「過剰防衛」になる可能性があります。

犬を連れてレストランに入ってもいいですか?

店がペット同伴を認めているなら問題ありません。  レストランの経営者には日本国憲法22条が認める「営業の自由」がありますので、客との間の契約内容を自由に決めることができます。ですから「犬同伴OK!」というルールがある場合は犬を連れて入っても問題ありません。しかしペット同伴が可能かどうか分からないお店の場合は、入る前に店の責任者に必ず確認してください。レストランでの飲食は、店側が施設内で食事やサービスを提供する義務を負い、客側は代金を支払う義務を負うという契約です。常識の範囲内で他の客に迷惑をかけないことも客側の義務の一部として含まれます。
 もし同伴したペットが鳴き声や粗相によって他の客に迷惑をかけたときは、店側が契約を解除し「出て行ってください」ということもできます(民法415条)。「うちのペットは人間と同じよ。追い出そうとするのは人権侵害だわ!」という発言は、法的には何の根拠もない感情論ですので、日本では全く通用しません(海外では一部通用)。

犬を連れて電車に乗ろうとしたら注意されましたが…。

基本的には駄目だとお考え下さい。  盲導犬や聴導犬を電車の中で見かけたことのある人は、犬を電車の中に連れ込んでいいと思い込んでいることがありますが、これは誤解です。盲導犬や聴導犬は身体障害者補助犬法により「国が管理する施設や公共交通機関、不特定多数の人々が使用する施設では、身体障害者補助犬の同伴を拒んではならない」というルールによって特別に許可されています。普通のペットを補助犬と同等に考えて交通機関に同伴しようとすると、ほとんどの場合は注意されます。
 各交通機関を利用する前に事務所などに確認してみましょう。以下はJRの場合です。
  • まずペットを縦・横・高さの合計が90cm程度のケージに入れる
  • 1辺の長さの上限は70cm
  • ケージ+ペットの重量が10kg以内であれば乗せることができる。
  • 小荷物扱いとなるので、手回り品切符を買って付ける
  • 走行距離100kmにつき料金は270円

ペット禁止の賃貸住宅でこっそり犬を飼ってはいけませんか?

いけません。  賃貸借契約は、大家さんや不動産会社からペットを飼ってはいけないという特約の説明がなされた上で結んでいるはずです。ですからこの特約に違反した場合は、生じた損害を賠償する義務を負いますし、場合によっては立ち退きを要求されることもあります。
 例えば2013年10月、東京都在住の某俳優が「大型犬の飼育禁止」というマンション規約に違反して飼っていたドーベルマンが隣人に噛みつくという事件がありました。噛みつかれた隣人は事件をきっかけに引っ越したため、管理会社が失った賃料収入を求めて俳優夫妻を訴え、最終的に1,725万円の支払い命令が下っています。
 上記した例は損害に対する請求でしたが、貸主と借主の間の信頼関係が完全に破綻しているときなどは部屋からの立ち退きを要求されることもあります。例えば2017年11月、神戸市東灘区の市営住宅で50頭を超える猫を飼育していた40代の女が、強制退去と同時に部屋の原状回復費用およそ1千万円を請求されるという事件が起こっています。これは市からの再三の注意にも関わらず生活を改善しなかったことから、借り主に悪質な「背信性」があると判断された結果です。

ペット不可というマンションの管理規約を変えることはできますか?

住人の3/4以上の賛成があれば可能です。  区分所有法31条の1では「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする」とされています。ただし同時に「一部の区分所有者の権利に特別の影響をおよぼすべきときはその承諾を得なければならない」ともされています。
 「特別の影響」とはたとえば、重度の犬アレルギーを抱えており、エレベーター内に残されたアレルゲンが原因で喘息発作を起こして最悪のケースでは死亡してしまう危険性があるなどです。こうした特別な影響を受ける人が住人の中にいる場合、その人の承諾を得ていなければたとえ3/4以上の賛成があったとしてもその決議は無効になってしまいます。

動物病院に行ったら休診日を理由に断られました。この対応は合法なんでしょうか?

違法です。  正当な理由がないのに診療を拒んだ場合は、獣医師法第19条の「応召義務」(おうしょうぎむ)に違反することになり、獣医師免許の取り消しや業務停止などの措置が取られることもあります。
 ここでいう正当な理由とは「獣医師自身の病気」「診療ができないほどの強度の疲労」「獣医師の不在」で、逆に不当な理由とは「休診日」「軽度の疲労」「過去における小額の診療費不払い」です。ですから休診日を理由に診療を拒むことはできません。もし診療拒否によってペットの死が引き起こされたことが証明できれば、獣医師に対して損害賠償を請求することもできます。

治療費明細の中に事前に聞いていない治療項目がありました。払わないといけませんか?

内容によっては拒否できます。  獣医師に診療を依頼して獣医師が引き受けた場合、民法上は準委任契約(民法656条)が成立し、獣医師は善良な管理者の注意を持って診療行為をする義務を負うことになります。診療内容について事前に飼い主に説明する義務(民法645条)が生じるほか、説明義務を果たしていない場合は債務不履行責任(民法415条)を負うことになります。
 事前に何の説明もなかった場合は、飼い主の自己決定権行使の前提となる説明をしなかったということで不法行為に基づく損害賠償(民法709条)の対象となることがあります。例えばペットに腫瘍が見つかり、飼い主に対して十分な説明をしないまま外科手術に踏み切るなどです。この場合、本来飼い主が行うべき決定を獣医師が勝手に行ったということで自己決定権が侵害されています。また1回数万円もするペット用CTスキャンを事前になんの説明もなく勝手に獣医師が行った場合も、飼い主の自己決定権が侵害されているといえるでしょう。

「手術により生じた事態に病院は一切責任を負わない」という同意書にサインさせられました。この免責事項は有効ですか?

無効です。  獣医師に診療を依頼して獣医師が引き受けた場合、民法上の準委任契約(民法656条)が成立し、獣医師には善良な管理者の注意を持って診療行為をする義務が発生します。そして獣医師がミスをしたような場合は、本来行うべき責務を果たさなかったということで「債務不履行責任」が発生します(民法415条)。たとえ同意書に「一切責任を負わない」と記載されており、飼い主がサインしたとしても、法的には無効とされます。
 また消費者契約法第8条では事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項を無効としています。ですから消費者契約法という観点からも無効です。

獣医師の手術中のミスで犬が死んでしまいました。病院を営業停止にできませんか?

営業停止処分を得ることは難しいでしょう  獣医師法(8条2)では、「農林水産大臣は期間を定めてその業務の停止を命じることができる」とされています。停止命令の条件は診察を求められた時に正当な理由がないのに診療を拒んだ場合、必要な届け出をしなかった場合、重大な背反行為があった場合、獣医師としての品位を損ずるような行為をした場合などです。
 手術中のミスを始めとする医療過誤を農林水産省に申し出たとしても、上記した獣医師法上の条件に該当すると判断されることはほとんどなく、民法に回されることが大半です。ですから医療ミスをもってその病院を営業停止にするということは難しいでしょう。

動物病院のミスで犬が死んでしまいました。ネット上にその経緯をさらしてもいいですか?

民事上と刑事上の責任が発生します。 【民事上の責任】
 民事上は不法行為責任が発生します。わざと(故意)やうっかりミス(過失)によって他人の権利や法律上保護されるべき利益を侵害した場合、加害者は生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条/不法行為責任)。たとえばネット上の書き込みが原因で動物病院の信頼が落ち、売上が低下した場合は、たとえ記載している内容が事実だったとしても、不法行為責任として損害賠償を請求される可能性があります。
【刑事上の責任】
 刑事上は侮辱罪や名誉毀損罪に問われる可能性があります。侮辱罪とは事実を指摘しない状態で相手に対する評価を示して社会的な評価を下げる行為のこと、名誉毀損罪とは事実を指摘した上で相手に対する評価を示して社会的な評価を下げる行為のことです。前者の例は「○○病院の医師はヤブ」、後者の例は「医療過誤でかわいいペットを殺した○○医師に天罰を!」といった感じです。「事実」の内容は真実だろうと妄想だろうと構いません。
 読んだ本の感想をレビューとして投稿するのとは違い、ネット掲示板、Twitter、ホームページなどを通して不特定多数の人に特定個人や団体の誹謗中傷をさらすと、それなりの責任とリスクが発生するということです。

隣家の犬の鳴き声で不眠症です。訴えることはできますか?

できる場合もあります。  ペットの飼い主にはその動物が他人に加えた損害を賠償する責任があります。例外は動物の種類及び性質に従い相当の注意を持ってその保管していると認められるときだけです。
 では、この場合はどうでしょうか。もし住居がマンションなどの共同住宅で、賃貸規約にペットの飼育が禁止されているような場合は「十分に注意を払っている」とは到底いえませんので、管理組合などに訴えて立ち退き要求をすることもできるでしょう。
 もし隣家が持ち家の場合は、犬の鳴き声による騒音が隣近所の我慢の限界(受忍限度)を超えていると判断される場合に限って損害賠償請求、もしくは差し止め請求訴訟(犬を飼うことを強引にやめさせること)を起こすことができます。しかし受忍限度に一定の基準があるわけではありませんので、どう判断されるかはまちまちです。四六時中吠えている、吠え声が異常に大きい、鳴き声が夜間も続くなど一般常識から考えても明らかに迷惑と思われるような場合ですと、受忍限度を超えていると判断される可能性もあります。
 一方、動物愛護管理法では「動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」と定められています。犬の無駄吠えをしっかりとしつけていない飼い主は動物愛護法に違反していると考えられるため、動物愛護担当職員や動物愛護推進員に相談すると飼い主に対して適切なアドバイスを与えてくれることがあります。また再三の注意や指導にも関わらず改善が見られない場合は、都道府県の条例違反や動物愛護法違反ということで行政機関が勧告や命令を出してもらうことも可能です。
 さらに、犬の飼い主が悪意を持ってわざと犬にワンワンと吠えさせ、近隣住人をノイローゼにしようとしている場合は、刑法の傷害罪(204条)が成立することもあります。

近所に多数の犬を飼っている人がおり、道路上に悪臭が漂っています。どうにかなりませんか?

管轄の保健所に通報しましょう。  動物愛護法では、多頭飼育が原因で動物が衰弱していたり周囲に迷惑をかけているような場合、命令や勧告を出すことができるとしています(動物愛護法25条の3)。また従わない場合は50万円以下の罰金が設けられています(同46条の2)。また地域によってはローカルな条例などによって一定頭数以上の犬や猫を飼育する際は役所に届け出ることを義務付けているところもあります。
 悪質な多頭飼育が疑われる場合、まずは管轄の保健所や動物愛護センターに通報し、現状を把握してもらいましょう。職員もしくは動物愛護担当職員や動物愛護推進員を通じて適切なアドバイスがなされ、飼育が改善するかもしれません。もし飼い主が管理能力を超えて動物を多頭飼育する「アニマルホーダー」である場合は、生活が破綻する前に行政で犬を保護する必要があるでしょう。

第三者に犬を傷つけられました。損害賠償請求できますか?

できます。  わざと(故意)やうっかりミス(過失)によって他人の権利や法律上保護されるべき利益を侵害した場合、加害者は生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条/不法行為責任)。第三者がペットを傷つけた場合、加害者は社会的に見て加害行為と相当の範囲にある損害を賠償しなければなりません。
 動物が怪我をしてしまった場合は治療費、動物が死んでしまった場合は時価総額、ペットを失ったことで飼い主が精神的苦痛を味わった場合は、その慰謝料を請求することもできます。
 もし加害者が子供であり、12歳に満たない責任無能力者と判断された場合は、子供の代わりに監督者の監督不行き届きを問う形になります(民法714条)。たとえば親、学童を引率していた教師などです。監督義務違反と被害との間に因果関係があることを証明し、監督者の不法行為責任を追及して損害賠償請求するという流れになります。
 走行中のタクシーに犬が轢かれたような場合、そのタクシー運転手を雇用していた会社自体にも損害賠償請求ができます(民法715条/使用者責任)。ただし、飼い主の側に過失がある場合「過失相殺」によって、加害者の責任が軽減してしまうことがあります。例えば自宅の門が開いていてペットが道路に飛び出し車にひかれてしまったなどです。
 加害者が意図的に動物を傷つけた場合は、動物愛護法が定める「動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめる」行為に相当するため、動物愛護法違反にも問うことができます。ただし器物損壊罪が「懲役三年以下または罰金三十万円以下の刑」(刑法261条)であるのに対し、動物愛護法違反の場合は「懲役二年以下または二百万円以下の罰金」(動物愛護管理法44条の1)となっており、懲役刑に関しては器物損壊罪のほうが重いというのが現状です。なおかつ、動物愛護法で執行猶予なしの懲役刑が下ることはまずありません。2017年、13頭の猫を残虐な方法で殺した埼玉県の税理士に対する判決は最終的に「懲役1年10ヶ月・執行猶予4年」というものでした。

おもちゃに欠陥があり、犬が怪我をしてしまいました。賠償請求はできますか?

欠陥が確かならできます。  おもちゃの損害賠償に関しては、販売店が本来行うべき義務を全うしていなかった(債務不履行)として賠償責任をいます(民法415条)。おもちゃが取替えのきくものである場合は「不特定物売買」として代わりのものと交換してもらいます。取替えのきかない唯一無二のものである場合は「特定物売買」として修理費や代金の一部を返還してもらったり、売買契約を解除して全額返金してもらいます。
 犬の怪我に関しては販売店ではなく製造元に賠償請求を行います。PL法(製造物責任法)では、「製造物に欠陥が存在していたこと」「損害が発生したこと」「損害は製造物の欠陥により生じたこと」という3つの事実を明らかにした場合、製造者に損害および拡大損害を賠償する義務があると定められています。ここで言う「拡大損害」とは、欠陥おもちゃによってもたらされた全く別の損害のことで、「おもちゃが破裂して犬が怪我をした」とか「おもちゃが飛んでいってテレビが壊れた」などが含まれます。
 上記したような賠償を受けるためには、買った時点で既に欠陥があったことを証明しなければなりません。取扱説明書に書かれている使用法を守っておらず、無茶な使い方をしたことで壊れてしまったような場合は、賠償を断られることもあります。

種付け料を払って交配しましたが妊娠しません。料金の返還要求はできますか?

基本的にはできません。  一般的に犬の種付けはただ単に交配を許可する「準委任契約」(民法656条)であり、妊娠までを保証する「請負契約」ではありません。ですから妊娠しないからといって料金の返還を求めることはできないでしょう。しかし事前に何らかの特別な契約を結んでいる場合はその契約にのっとった請求は可能です。例えば「妊娠しない場合は全額返金」などです。また生殖能力がないと分かっているにもかかわらず種付け料をとって交配をさせた場合は、飼い主に詐欺罪(刑法246条)が適用されます。この場合は返還要求や損害賠償請求も可能でしょう。 犬の交配

ペットホテルに預けていた犬が逃げてしまいました。賠償請求はできますか?

できます。  ペットホテルと飼い主との間には、飼い主がペットを預けてペットホテルがそのペットを保管することを約束する「寄託契約」が成立します(民法657条)。民法上、寄託契約が有償の場合は「善良なる管理者の注意義務」(善管注意義務)が必要とされており、重い責任が課されます。例えばペットホテルの場合は、犬を移動するときに細心の注意を払うのはもちろんのこと、仮に逃げ出したとしても敷地内からは出られないような二重の脱走予防策を講じておくなどです。
 ペットホテルが上記「善管注意義務」を果たさず、なおかつ犬が見つからなかった場合は、捜索にかかったポスター代金やペット探偵費用、ペット自身の交換価値や逸失利益、ペットの喪失に伴う精神的な慰謝料などを請求することができます。

知人に預けていた犬が逃げてしまいました。賠償請求はできますか?

ケースバイケースです。  知人と飼い主との間には、飼い主がペットを預けて知人がそのペットを保管することを約束する「寄託契約」が成立します(民法657条)。民法上、寄託契約が無償の場合は自己のものを管理する時と同程度の注意をすればよいこととされています(民法659条)。
 例えば「リードを付けずに散歩をしていた」という場合は知人が十分な注意していたとはいえず、損害賠償を請求できるかもしれません。しかし「庭のメッシュフェンスをよじ登って逃げ出してしまった」とか「網戸に体当りして壊して逃げ出した」という場合は、犬の行動を事前に予測することが難しく、責任が問われない可能性もあります。

トリマーにトリミングを頼んだら、犬の耳に傷をつけてしまいました。責任は取ってくれるのでしょうか?

取ってくれます。  トリミングを頼むということはペットを預けた飼い主が注文者、トリミングを引き受けたトリマーや美容院の経営者が請負人とした「請負契約」(民法632条)に当たります。
 請負人であるトリマーが作業中の失敗により犬の耳を傷つけてしまった場合は、その仕事の目的物に瑕疵(かし=傷、欠陥)があるとして瑕疵担保責任を負います(民法634条)。注文者である飼い主は民法634条にのっとり、損害賠償請求と瑕疵修補請求を行うことができます。
 この場合は傷を受けた耳の治療費はもちろんのこと、傷を受けたことで生じた損害や逸失利益を請求することができます。たとえば預けた犬がタレント犬で、耳の傷のおかげて予定されていたCMをキャンセルされたといった場合は、傷がなければ得られたであろう利益をトリマー側が穴埋めする必要があります。

トリマーがイメージと全然違うカットをしました。支払い拒否していいですか?

ケースバイケースです。  トリミングを頼むということはペットを預けた飼い主が注文者、トリミングを引き受けたトリマーや美容院の経営者が請負人とした請負契約(民法632条)に当たり、トリマーは飼い主から受けた注文通りにカットして完成させる義務を負います。
 例えば事前に具体的な写真を見せて「こんな感じにして下さい」と依頼しており、最終的に写真とは大きく異なる仕上がりになった場合は、契約の目的を達し得ないものとして契約を解除し、料金の支払いを拒むことができます(民法635条)。
 一方「涼しいカットにして下さい」とか「可愛いカットにして下さい」といった漠然とした指示しか出していなかった場合は主観が混じる余地がありますので、仕上がりが注文どおりかどうかは判断が微妙になります。

犬の幼稚園に途中から通わなくなった場合、前払いした料金を返還してもらえますか?

契約内容によります。  飼い主と幼稚園との契約が、ただ単に「犬に他の犬と触れ合える場を提供する」という内容である場合、民法上は「準委任契約」(民法656条)に相当すると考えられます。この契約には、通った結果として子犬の行動や性格に何らかの効果があったかどうかは含まれません。
 飼い主の側には準委任契約により、通園契約をいつでも解除する権利があり、通園すること自体に伴う対価を支払う必要がなくなると同時に、前払いした料金の返還を求めることができます。ただし「相手に生じた損害を賠償する」という条件付きです。
 幼稚園の側も消費者契約法(9条の1)により、事業者に生じる平均的損害額を超えて請求してはならないとされています。ですから「前払いした料金の返還には一切応じない」という特約があったとしても、すでに受け取った前払い料金が平均的な損害額を超えているような場合は、超過部分を返還しなければなりません。

迷子犬の捜索をペット探偵に依頼しましたが、結局見つかりませんでした。代金の返還要求はできますか?

ケースバイケースです。  ペット探偵が「あなたのペット、絶対に見つけます」と告知していた場合は法的には「請負契約」(業務の完遂を持って成立する契約/この場合はペットを見つけること)になりますので、ペットが見つかった時点で代金を支払えばよいことになります。従ってペットが見つからなかったのなら代金を支払う義務はありません。
 ペット探偵が「あなたのペット、探します」と告知していた場合は、法的には「準委任契約」(ある一定の事務を引き受ける契約で、結果を伴うかどうかは含まれない/この場合はペットを探すこと)になりますので、ペット探偵が善良なる管理者の注意義務(善管注意義務・民法644条)を守っている限り、たとえペットが見つからなくても代金を支払はなければなりません。
 この場合の善管注意義務とは、ペット探偵として一般的に期待されて当然なレベルのサービスのことであり、ペットの居そうな場所を捜索する、チラシを配るなどが当たります。もしペット探偵がこうした善管注意義務を怠っていたと判断される場合は、損害賠償を請求することもできるでしょう。

犬の訓練学校に犬を預けたのですが、あまり効果がありませんでした。授業料の返還を請求することはできますか?

ケースバイケースです。  ドッグトレーナーが「犬の無駄吠えなおします」と告知していた場合は法的には請負契約になりますが、100%なおるわけではないことを事前に説明し、なおかつ飼い主もこの内容に納得していた場合は準委任契約になります。
【請負契約の場合】
 請負契約の場合、訓練に通わせたのに犬の無駄吠えが治っていなかったら飼い主は契約を解除して前払いした授業料の返還要求をすることもできますし、授業料が後払いならその支払いを拒否することもできます。
【準委任契約の場合】
 準委任契約の場合、訓練学校やドッグトレーナーが民法上の受任者として「善良なる管理者の注意義務」(善管注意義務/民法644条)を果たしていたのなら結果にかかわらず料金を支払う必要があります。例えば、事前に説明していた通りカリキュラムを行い、それでも結果が出なかった場合は善管注意義務を怠ったことにはならず、賠償請求はできないでしょう。しかし訓練学校がカリキュラム通りに訓練を行わなかったり、トレーナーが明らかに未熟だったような場合は善管注意義務を果たしているとはいえませんので、飼い主は契約を解除して前払いした授業料の返還要求をすることもできますし、授業料が後払いならその支払いを拒否することもできます。

ペットフードが腐っていたようで、犬の具合が悪くなりました。誰が責任をとってくれますか?

いくつかの可能性が考えられます。  まずペットフードが間違いなく腐っており、そのフードを食べたことが犬の体調不良と間違いなく因果関係があるということを前提にします。
【製造業者の責任】
 製造メーカーや輸入業者はPL法(製造物責任法)により製造または加工されたものに欠陥があったため、消費者の生命身体、財産に被害が生じた場合、責任を取らねばなりません。もし製造段階で不備があったと証明されれば、製造業者の責任となります。
【運搬業者の責任】
 ペットフードを運搬する際の管理状態が悪く、そのためにペットフードが腐ってしまったと証明されれば、運搬業者の責任となります。消費者と運搬業者の間には明確な契約関係はありませんので、運搬業者の消費者に対する不法行為という形となり、その責任を取らねばなりません。
【販売店の責任】
 ペットフードが販売店における管理方法が悪かったために腐ったと証明されれば、販売店の責任となります。
 販売店でペットフードを買うと、販売店と消費者との間には売買契約が締結されます。売主である販売店には、ペットフードそのものを引き渡す義務は当然のこと、安全な商品を提供する義務も同時に負いますので、腐った商品を販売したという行為は「債務不履行」となりその責任を取らねばなりません。
 しかし実際問題、ペットフードと犬の体調不良の因果関係、どの段階でペットフードに細菌が紛れ込んだかの証明、それらの実証にかかる時間、裁判費用等を考えると個人で裁判を起こすことは現実的ではありません。

犬と別れるときの法律

飼っていた犬が死んでしまいました。どのように埋葬したらよいでしょうか?

いくつかの方法があります。 【市区町村の動物専用焼却炉】
 市区町村によっては動物専用の焼却炉を設置していますので、各市区町村に直接問い合わせ下さい(たいてい有料です)。
【民間の動物埋葬サービス】
 民間でも死んだペットの埋葬を取り扱う会社はあります。ご自分で調べて選んでください。民間業者に関しては、悪徳業者とのトラブルがちらほら聞かれますので、評判等を事前に念入りに調べたほうがよさそうです(火葬の途中で高額の追加料金を請求し、「もし払わないなら生焼けのままペットを返すよ」など)。
【土葬】
 土葬するのは、自分の所有地であれば近隣住人に悪臭などの迷惑をかけない範囲内ではよいでしょう。しかし悪臭や土壌汚染などの損害を近隣住民に与えた場合は民法の「不法行為責任」が発生することもありますのでご注意下さい。
 また、公園や他人の山林等に土葬するのは完全な違法行為です。公共の場や私有地に土葬することは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第5条の「公園、広場、キャンプ場、スキー場、海水浴場、道路、河川、港湾その他の公共の場所を汚さないようにしなければならない」という規定に違反します。また軽犯罪法1条27号の「公共の利益に反してみだりにゴミや鳥獣の死体その他の汚物または廃物を捨てた者」として処罰の対象となります。 犬の死とペットロス

ペットと飼い主を同じお墓に入れることはできますか?

墓地の管理規約を確認する必要があります。  ペットは法律上「物」にあたるため、埋葬する際は「副葬品」として扱われます。「墓地、埋葬等に関する法律」(第1条)では、宗教的感情に適合するものであれば埋葬してもよいとされていますが、ペットの遺骨を飼い主とともに埋葬することが上記条件を満たしているのかどうかは判断が分かれるところです。近年は墓地の管理者もペットの存在を想定しているはずですので、管理規約を確認するのが早いでしょう。もし禁止されている場合は、ペット専用の墓地を利用するなどほかの方法を考えなければなりません。

ペットに遺産を残すことはできますか?

間接的には可能です。  ペットは法律上「物」として扱われるため、権利の主体となることができません。結果としてペットを受取主体とした直接的な遺産の贈与はできないということになります。しかし間接的になら贈与する方法があります。
【負担付遺贈】
 負担付遺贈とは特定の人物を受取人(受遺者)に指定し、ペットの世話をすることを条件としてペットとその他の財産を贈与する方法です。亡くなる人間の一方的な行為であり遺贈を受ける人の同意を必要としないという特徴があります。受取人が「ペットの世話なんてしません。遺産も拒否します!」という事態にならないよう、事前に信頼のおける人物を見つけておくことが重要です。
【負担付き死因贈与】
 負担付き死因贈与とは、自分が死んだ場合、自分の財産とペットを指定の世話人に贈与するという契約を事前に取り交わす方法です。贈与人と受取人(受贈者)双方の合意が必要となり、受け取る側が一方的に契約を破棄することはできません。口約束だけでも契約は成立しますが、確実性を高めたい場合は公正証書にするという選択肢もあります(民法969条)。
【信託】
 信託とは財産の所有者が目的を指定し、信頼できる相手にその財産の管理や処分を任せる契約のことです。2006年(平成18年)に成立した新しい信託法により、「自分のペットの飼育」を目的とした信託を行うことができるようになりました。こうしたペット向けの信託を行えば、委託者が遺産の大まかな活用方法を指示し、具体的な運用方法は受託者が行うという形で遺産を間接的にペットに残すことができます。