トップ有名な犬一覧科学や学問に関わる犬キャリー

キャリー

 世界で初めて覚醒した状態でMRI撮影を受けた犬「キャリー」について解説します。

キャリーとは?

 キャリー(Callie)は世界で初めて覚醒した状態でMRI撮影を受けた犬。
グレゴリー・バーンズ博士とキャリー(Callie)  2012年、エモリー大学に勤める神経経済学者のグレゴリー・バーンズ博士は、異なる動物種間における脳の活性化パターンを比較するため「目が覚めた状態の犬をMRIで撮影できないだろうか?」というアイデアを思いつきました。世界的に見ても前例がないこの「ドッグ・プロジェクト」に興奮した研究チームは、数回のブレーンストーミングを経て、早速計画の具体化に乗り出しました。博士たちがメインターゲットとしたのは、これから報酬がもらえると期待したときや、実際に欲求が満たされたときに活性化する「脳内報酬系」の動きです。
 研究の対象となったのは、博士の愛犬「キャリー」(2歳・メス・12kg)と、アジリティ経験のあるボーダーコリー「マッケンジー」(3歳・メス・16kg)。2匹は1日10分、ごほうびを与えて行動を強化する「正の強化」を受け、数週間後には自発的にMRIの中に入ってくれるようになりました。その後研究チームは、2匹に対して数回にわたるスキャニングを実施し、最終的には解析に十分な数百枚の画像を入手することに成功します。
犬の脳内で活性化した尾状核  解析から出てきた重要な発見のひとつは、2匹ともごほうびの合図であるハンドシグナルを見ただけで、尾状核に活性化が見られたということです。「尾状核」(びじょうかく)とは脳の奥の方に位置する原始的な細胞群で、「気持ちいい」とか「ワクワクする」といった報酬系の中心であると考えられています。2匹揃って同じ反応を示したことにより、「犬も人間と同じように期待感でワクワクすることがある」という仮説が、確かなこととして示されました。
 もう一つの重要な発見は、博士が犬にごほうびを与えるために腕を伸ばしたところ、同じタイミングでキャリーの運動皮質に活性化が見られたということです。博士はこの現象を、「犬が人間の腕を自分の前足に置き換えて脳内変換している」と解釈し、犬には相手の立場になって物事を考える「心の理論」や共感能力が発達しているとの推論を展開しています。
 無麻酔+無拘束の犬をMRIで撮影するという「ドッグ・プロジェクト」は単発で終わるのではなく、今後も継続していく予定だといいます。ゆくゆくは「人間と犬の強い絆を生みだす根源」や「絆の強さを判断したり、絆を強める方法」を発見し、人間と犬双方の福祉につなげたいとしています。
犬の気持ちを科学する(Shinko Music) Functional MRI in Awake Unrestrained Dogs

キャリーの写真

 以下でご紹介するのは、世界で初めて覚醒した状態でMRI撮影を受けた犬「キャリー」の写真です。 事前トレーニング中のマッケンジー
 事前トレーニング中のマッケンジー。MRIを模した円筒の中に頭を入れた瞬間ごほうびを与える「正の強化」を、1日10分×数週間繰り返すだけで、犬は自発的にMRIの中に入ってくれるようになった。写真の出典はこちら
防音用の耳当てを装着し、特性の顎のせ台に頭を乗せたキャリー
 トレーニングの最終段階。防音用の耳当てを装着し、特製の顎のせ台に頭を乗せたキャリー。ハンドシグナルを見せてからごほうびを与えるまでの時間を少しずつ伸ばしていき、最終的には20秒以上頭を静止させることができるようになった。写真の出典はこちら
実際にMRIの中入っていくキャリー
 ブレのない連続した画像を撮影するため、犬たちはMRIの機動信号がピークに達してから減衰するまでの10秒から15秒の間、動きを2mm以下に抑えなければならない。キャリーとマッケンジーは、見事にこの課題をクリアしてくれた。写真の出典はこちら
期待感に連動し、犬の脳内で活性化を示す尾状核
 キャリーもマッケンジーも、ごほうびを意味するハンドシグナルを見たときに尾状核が活性化した。どちらか一方ではなく、双方において同じ現象が確認されたことにより、偶然である確率が100分の1にまで下がった。写真の出典はこちら