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犬と交流した人の脳内変化~「遊び」によりα波でもβ波でもリラックス

 動物との交流を心身の健康増進につなげるコンセプトは「AAI(animal-assisted intervention)」と呼ばれます。犬と接することで癒やし効果を得られることは多くの人が経験則として知っていますが、脳内では具体的にどのような変化が生じているのでしょうか。

犬との交流と人の脳波

 動物との交流がストレス反応や不安を低減することから、精神・行動障害の治療に用いられることがあります。「AAI」(animal-assisted intervention)と呼ばれるこうした交流を享受している人の脳内では、いったいどのような変化が生じているのでしょうか。韓国の建国大学校が調査を行いました。

調査対象

 調査対象は2022年5~6月の期間、韓国ソンナム市にあるペットサロンや美容学校に募集をかけてリクルートされた男性15名と女性15名(平均年齢は27.9歳)。除外条件は心血管系の疾患がないこと、薬の服用をしていないこと、妊娠・授乳中でないこととされました。

調査方法

 実験室(9.7m x 3.7m)が美容学校内に設けられ、余計な視覚的・聴覚的刺激が可能な限り排除されました。
 交流セッションのためのアシスタントドッグとして採用されたのはケネルクラブによって資格認定を受けてたメスのスタンダードプードル(4歳)。合計8つのセッションのうち最初(顔合わせ)と最後(散歩)だけを固定し、中間の6セッションは被験者ごとにランダムとされました。
セッションメニュー
脳波の変化を確かめるために設けられた犬との交流メニュー
  • 顔合わせ(固定)犬とアイコンタクトして観察する
  • 遊び手のひらサイズのキューキュー音が鳴るおもちゃを使って犬と戯れる
  • 給餌おやつを5~6粒与える
  • マッサージ犬の体をやさしくマッサージする
  • グルーミングスリッカーブラシでゆっくり犬の体をブラッシングする
  • 写真撮影犬の単独写真もしくは自分とのペア写真をとる
  • ハグ注意深く抱きしめて心臓の鼓動を感じる
  • 散歩(固定)近くの公園を犬と一緒に散策する
 被験者は犬との交流中、頭部8ヶ所(前頭前野左右 | 前頭葉左右 | 頭頂葉左右 | 後頭葉左右)に取り付けたワイヤレスデバイスで脳波が3分ずつ計測されました。 脳波の測定位置  また各セッション直後の1~2分で以下の調査票に記入していきました。
感情・気分の調査票
  • POMSProfile of Mood State/被験者のその時の気分や感情を評価する調査票
  • SDMSemantic Differential Method/最適な形容詞を選ぶことにより、環境によって感情がどのように変化するかを捉える調査票
  • Stress NRSStress Numeric Rating Scale/被験者の主観的な格付けによりストレスレベルを数的に追跡する調査票

調査結果

 脳波計による計測の結果、各セッションにおいて以下のような活性化が見られました。略号の定義は以下です。 脳波計パワースペクトル
セッションと活性化部位
  • 遊び・前頭葉左右(RA | RSA | RFA)
    ・前頭葉左(RMB)
    ・前頭前野左(RA)
    ・前頭前野左右(RFA | RB | RMB)
  • 散歩・前頭前野左右(RA)
    ・前頭前野右(RSA)
  • マッサージ・前頭前野左右(RLB)
    ・前頭葉左右(RLB)
    ・頭頂葉(RLB index)
    ・後頭葉(RLB index)
  • グルーミング・前頭前野左右(RLB)
    ・前頭前野左(RLB)
    ・頭頂葉(RLB index)
    ・後頭葉(RLB index)
 各種感情アンケートの結果、以下のような特徴が浮上してきました。
セッションと被験者ムード
  • POMS休息時と比較し、どのセッションにおいても疲労感および抑うつ感の低下/給餌セッションにおいて活力の向上/給餌・マッサージ・ハグセッションにおいてTMD値(ポジティブムード)の向上
  • SDM散歩で「居心地が良い」および「自然体」が向上/マッサージで「リラックス」が向上
Psychophysiological and emotional effects of human?Dog interactions by activity type: An electroencephalogram study
Yoo O, Wu Y, Han JS, Park S-A (2024). PLoS ONE 19(3): e0298384. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0298384

犬との交流による癒やし効果

 犬と交流した人では、客観的(脳波)調査でも主観的(調査票)調査でも癒やし効果が認められました。

脳波の変化

 当調査では「遊び」と「散歩」でアルファ波(RA | RSA | RFA)が活性化しました。アルファ波の増加は一般的にリラクゼーション、感情的安定性、記憶力の向上、精神ストレスの減少と関連付けられますので、上記セッションによって脳がリラックスして休息状態に切り替わった可能性が伺えます。
 また「マッサージ」「グルーミング」「遊び」でベータ波が活性化しました。ベータ波の増加は一般的にストレスがかからない状態での集中と関連付けられますので、上記セッションによって脳がリラックスしたまま注意力が高まった可能性が伺えます。

気分の主観評価

 複数の調査票を通し、セッション中における被験者たちの気分が主観的に評価されました。
 POMSでは「給餌」での活力の向上、「給餌」「マッサージ」「ハグ」でのTMD値(ポジティブムード)の向上が認められました。またすべてのセッションにおいて、何もしない休息時より疲労感および抑うつ感の低下が認められました。この現象はStress NRSにおける「すべてのセッションにおいてストレスレベル低下」という別の形で追認されています。さらにSDMでは「マッサージ」でのリラックスの向上、「散歩」での居心地の良さおよび自然体の向上が認められました。
 総じて、犬との交流セッションが被験者のストレスレベルを下げ、リラックスを増強していると言えます。交流時の内分泌系に着目した先行調査ではオキシトシン濃度の増加やコルチゾール濃度の低下が報告されています。オキシトシンは「愛情ホルモン」、コルチゾールは「ストレスホルモン」の代表格ですので、犬との交流→神経系+内分泌系の変化→主観の変化というダブルのルートで癒やし効力が発揮されている可能性が濃厚です。
セッションの中でも特に「遊び」はα波でもβ波でもリラックス状態になることが示されています。犬との生活の中に積極的に取り入れてみましょう。