トップ犬の食事ドッグフード成分・大辞典サプリメントコエンザイムQ10

コエンザイムQ10(CoQ10)~安全性と危険性から効果まで

 ドッグフードのラベルに記された「コエンザイムQ10」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも犬に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、犬の健康にどのような作用があるのでしょうか?
成分含有製品 ドッグフードにどのような成分が含まれているかを具体的に知りたい場合は「ドッグフード製品・大辞典」をご覧ください。原材料と添加物を一覧リスト化してまとめてあります。

コエンザイムQ10の成分

 コエンザイムQ10(CoQ10, ユビキノンとも)とは肉類や魚介類などに含まれている脂溶性の物質。細胞内のミトコンドリアにおいてエネルギー(ATP)産生に関与していますが、生体内で合成でき、なおかつ欠乏症が知られていないことからビタミンではなく「ビタミン様物質」として区分されています。分子構造は以下です。 ドッグフードの成分として用いられる「コエンザイムQ10」の分子構造  日本においては代謝性強心剤(ユビデカレノン)として使用されてきましたが、2001年からは食品成分としての利用も認可されています。要するに医薬品と健康食品のダブルスタンダードという立ち位置です。ただし食品として扱う場合は医薬品としての効果や効能を標榜してはいけないことになっています。

コエンザイムQ10は安全?危険?

 コエンザイムQ10を犬に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはコエンザイムQ10に関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

人間における安全性

 コエンザイムQ10の食品としての1日摂取目安量に関し、「日本健康・栄養食品協会」では300mgまで安全であるとの見解を示しています。
 一方、医薬品としてのコエンザイムQ10(ユビデカレノン製剤)を承認用量である1日30mgで使用したときの副作用としては、承認前後の調査期間(1973年4月~1977年4月)における総症例数5,350例中78例(1.46%)で副作用が報告され、具体的には胃部不快感(21件 | 0.39%)、食欲不振(13件 | 0.24%)、吐き気(10件 | 0.19%)、下痢(6件 | 0.11%)、発疹(9件 | 0.17%)が多かったといいます。 コエンザイムQ10は医薬品と健康食品の二面性を持つ  医薬品の30mgと健康食品の300mgでは10倍の開きがあり、消費者としては「はっきりしてくれ!」と不安になるところです。こうしたダブルスタンダードを解消すべく、食品安全委員会の専門家たちが安全性に関する検討を行いましたが、最終的には「現時点ではデータが不足しているため、コエンザイムQ10の安全な摂取上限量を決めることは困難」という結論に至っています。この結論を受け、厚生労働省は「食品中の成分が医薬品として用いられる量(1日30mg)を超えないう努力すること」および「個別の製品の安全性については事業者が良識を持って適切に確保すること」というメーカー任せの態度を取っています出典資料:食品安全委員会, 2006
 なおアメリカで流通しているサプリメントの1日推奨量は100~1,200mg、日本で流通しているサプリメントのそれは30~300mgと製品によってまちまちです。ラットを対象として行われた52週に及ぶ長期的な給餌試験結果で得られたNOAEL(有害反応が見られない最大量)から換算し、人間におけるADI(一日摂取許容量)を体重1kg当たり1日12mgとするのが妥当という報告もあります出典資料:Hidaka, 2009。この基準から計算すると、体重50kgの人なら1日600mgまで大丈夫となるでしょう。

人間における効果

 医薬品としてのコエンザイムQ10に関しては非常に多くの投与試験が行われていますが、有効性が示唆されているものはほんの一部です。具体的にはミトコンドリア脳筋症の治療、うっ血性心不全、高血圧、筋ジストロフィー、HIV(エイズ)患者の免疫機能向上などに対する作用が報告されています。なお米国心臓学会/米国心臓協会ではコエンザイムQ10の治療目的での摂取について「心不全の治療に対しては、さらに多くの科学的根拠が蓄積するまで推奨できない」「慢性安定狭心症の治療に対しては、有益および有効ではない」との態度を取っています出典資料:素材情報データベース「コエンザイムQ10」
 一方、健康食品としてのコエンザイムQ10に関してはEFSA(欧州食品安全機関)が包括的なレビューを行い、最終的に「健康増進効果との因果関係は確認できない」と結論づけています。検証の対象となった具体的な効果は「エネルギー産生代謝を促進する」「正常血圧を維持する」「DNA・蛋白質・脂質を酸化ストレスから保護する」「認知機能を正常に保つ」「血液中のコレステロール濃度を維持する」「持久力を高める」などです出典資料:EFSA, 2010

犬における安全性

 1粒に30mgのコエンザイムQ10を含んだパウダーカプセルとオイル混合カプセルを用意し、犬を対象とした投与試験を行ったところ、パウダーの方は投与から6.1時間ほどで血中最高濃度である0.51±0.11μg/mLに達し、オイルの方は6.6時間ほどで最高濃度0.55±0.16μg/mLに達したといいます。どちらも吸収されるまでに非常に時間がかかり、また生物学的利用能も低いことが明らかになりました出典資料:Kommuru, 1999
 体重1kg当たり1日600mg、1,200mg、1,800mg、2,400mgという割合で単発的な給餌試験を行ったところ、血中最高濃度やAUC(薬物濃度時間曲線下面積)に格差は見られなかったといいます。次にこの用量で4週間に渡る継続的な給餌を行ったところ、試験開始から2週間で血漿濃度が安定化し、摂取量が多いほど血中最高濃度とAUCの両方が大きくなったとのこと。さらに体重1kg当たり1日1,200mgと1,800mgという高用量で39週間に渡る長期的な給餌試験いましたが、行動指標、血液検査値、組織学的な変化は何も見られなかったそうです出典資料:P.Y.Rao, 2012

犬における効果

 内毒素ショックに見舞われた犬にコエンザイムQ10を事前投与しておくと、最大吸気圧、肺クリアランス指数、血漿ヒスタミン濃度、ベースエクセス、乳酸濃度の乱れが抑制されたといいます出典資料:Yasumoto, 1986
 歯周炎を抱えた犬をランダムで2つのグループに分け、一方にだけコエンザイムQ10(体重1kg当たり1日1.5mg)を2週間に渡って経口投与したところ、歯周ポケットの深さと歯肉インデクスで評価したときの歯肉炎の重症度に関し、未投与グループよりも軽く、またコエンザイムQ10依存型の酵素活性が高かったといいます。さらに歯肉組織中に含まれるコエンザイムQ10濃度は歯肉炎を抱えていない犬より有意に高かったとも出典資料:Shizukuishi, 1983
 7頭のビーグル犬(平均体重19.5kg)を対象とし、水に溶けるように加工したコエンザイムQ10を30mg経口投与し、24時間に渡って血液組成をモニタリングした結果、投与から早くも20分後には血漿コエンザイムQ10濃度の上昇が確認され、およそ4時間後に最高値に達したといいます。血漿コエンザイムQ10濃度と血清TAC(総抗酸化能)の連動はすぐには確認できませんでしたが、1時間後から現れ始めたとも。投与から40分、1時間、4時間、6時間後のタイミングでアルブミン濃度と血清TACの正の相関が確認されたことから、アルブミンがTACに影響を及ぼしているものと推測されています出典資料:Tomsic, 2009
有害物質にはなりにくいですが、ラットから試算したADI「体重1kg当たり1日12mgまで」を一つの目安にした方が安全でしょう。明白な健康増進効果は証明されていませんので、おそらく「抗酸化作用を高める」という漠然とした名目でドッグフードに入れられていると推測されます。