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犬の手作りごはん【基本・注意編】~メリットとデメリットを理解しよう!

 犬の好みやアレルギー、飼い主の信念や安全性への不安といった理由から、市販のドッグフードではなく手作りのごはんを与えるという人がいます。しかし思い込みだけで適当なごはんを与えていると、飼い主自身が犬の健康を悪化させてしまうことがあります。手作りにトライする前に、基本知識はもちろんメリットとデメリットの両方をしっかりと理解しておきましょう。

手作りごはんのメリット

 犬の手作りごはんとは、飼い主自身が食材を調達し、自分で調理を施して犬の食事管理をしてあげることです。基本的には以下のようなメリットがあります。 犬に手作りごはんを与えることにはメリットとデメリットがある

安心感を得られる

 手作りごはんを与える大きなメリットの一つは、犬の体内に入る成分を飼い主自身が把握できて安心できるという点です。
 2014年、アメリカのチャップマン大学が行った調査によると、ペットフードに含まれている肉のDNAテストを行ったところ、約40%において表示偽装の疑いがあるとの結果が出ています。また2015年、イギリスのノッティンガム大学が同様の調査を行ったところ、17ブランド中14ブランドにおいて、未知の動物性たんぱく質が検出されたとのこと。
 輸入ものであれ国産であれ、市販のドッグフードを与えている限り得体の知れない成分を犬に食べさせてしまう危険性を否定できません。食材を吟味して手作りごはんを与えていれば、そうした食品汚染の可能性がかなり低く抑えられますので飼い主としては安心でしょう。

アレルギー除去食になる

 何らかの成分に対してアレルギーを持っている犬においては手作りごはんがアレルゲン除去食になってくれる可能性があります。
 ドイツミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学を中心としたチームが行った調査では、アレルギー反応を引き起こしやすい食材として、以下のようなリストが出来上がったと言います。 犬のアレルギーを引き起こしやすい食材トップ5
犬のCAFR誘発食材
食事性アレルギー皮膚反応の原因食材リスト(犬)
  • 牛肉 →102頭(34%)
  • 乳製品→51頭(17%)
  • 鶏肉→45頭(15%)
  • 小麦→38頭(13%)
  • 大豆→18頭(6%)
  • ラム肉→14頭(5%)
  • とうもろこし→13頭(4%)
  • 卵→11頭(4%)
  • 豚肉→7頭(2%)
  • 魚 →5頭(2%)
  • 米 →5 頭(2%)
 フードの中から特定の成分を除去したものは「アレルゲン除去食」などと呼ばれます。アレルギーの診断及び治療を兼ねて犬に与えられますが 、イタリアにあるローマ・ラサピエンツァ大学のチームが行なった調査によると、市販されている除去食のうち食品アレルギーの診断に実際に役立ってくれる信頼のおけるものは25%(10/38)程度しかないと報告されています。
 ラベルに記載されている成分が実際には含まれていないというパターンと、ラベルに記載されていない成分がなぜか含まれているという両方のパターンが確認されました。こうした表示偽装は動物の健康を損ないうるのみならず、詐欺行為に相当するため罰の対象となって然るべきだと警告しています。 アレルギー用の除去食として売られているペットフードのラベルは75%が嘘っぱち?!  犬がアレルギーを抱えているにも関わらず、市販されているアレルゲン除去食を信用できないとなると、もう自分で作るしかありません。飼い主が自らの手でごはんを作れば、特定の素材を確実に取り除くことができますので、動物病院で高い値段で売られているものよりも効果的な除去食として機能してくれる可能性があります。

療法食になる

 飼い主による手作りごはんにより体質改善という効果が期待できることもあります。
 原因は定かではないものの、市販のドッグフードと相性が悪く、皮膚炎や胃腸障害に陥る犬が一部にはいます。そうした犬にとって未知の成分や体にとって不要な保存料などが含まれてるドッグフードは、ある意味で毒です。ドッグフードの成分大辞典  一方、手作りごはんの場合は、基本的に原材料から調理しますので含有成分が明らかで、また万全を期すれば保存料や着色料などが含まれていない食品だけを選定することも十分可能です。ですから既製品と相性の悪い犬にとって、飼い主が作ってくれる手作りごはんは療法食になってくれるというわけです。 犬の食品アレルギー
手作りごはんはいいことづくめではありません!逆のデメリットもしっかりと把握した上でトライするかどうかを決めましょう。
NEXT:手作りのデメリットは?

手作りごはんのデメリット

 犬の手作りごはんにおける最大のデメリットは手間暇がかかるという点です。食材を調達するにしても調理を施すにしても時間と労力を取られますので、長期的に給餌する場合はよほどの覚悟がない限り途中で挫折してしまいます。
 その他のデメリットとしては以下のようなものがあります。場合によっては犬の寿命を飼い主自らが短くしてしまう危険性もありますので事前にしっかり把握しておきましょう。

子犬の成長を阻害する

 栄養バランスの悪い手作りごはんによって育ち盛りにある子犬の成長が阻害されてしまう危険性があります。
 生後8ヶ月になるセントバーナードの症例では、テタニー発作、高体温、重度の低カルシウム血症、低ナトリウム血症、低クロム血症、高リン血症、ビタミンD欠乏症、タウリン欠乏症などが確認されました出典資料:Hutchinson, 2012)。またミネラルの分解に起因する下顎骨と長骨のび漫性の骨萎縮が見られ、肩関節の離断性骨軟骨症を発症していたとのこと。栄養バランスの取れたフードを給餌することによって症状は軽快しました。
 上記したように、犬の栄養学に関する深い知識がないにも関わらず無責任な手作りごはんを与え続けていると、子犬の成長を阻害してしまう危険性があります。

成犬の健康を害する

 栄養バランスの悪い手作りごはんは、成長期にある子犬だけでなく維持期にある成犬~老犬に対しても悪影響を及ぼします。
 13歳になる去勢済みのミニチュアプードルが、2ヶ月間にわたる多尿と線維束性筋収縮を主訴として受診しました出典資料:Shmalberg, 2013)。聞いてみると、東洋医学を取り入れた獣医師から勧められたフード(ラム肉, ニンジン, バターナッツ, かぼちゃ類, ほうれん草, 大麦)を2年間給餌しているものの、医師から指示されたのは食材だけで、具体的な量や調理法については我流で行ってきたとのこと。これらの食事はビタミンD、カルシウム、含硫アミノ酸が著しく欠乏しており、結果としてタウリン欠乏症、血清イオン化カルシウム濃度低下、ビタミンD欠乏症、血清副甲状腺ホルモン上昇に起因する二次性の副甲状腺機能亢進症と診断されました。
 NRC(全米研究評議会)の基準に則ったフードを与えたところ、16週間で血液組成が正常な値に戻り、症状も消えたといいます。手作りごはんが成犬の健康を悪化させた好例と言えるでしょう。

犬の持病を悪化させる

 犬の病気に合わせて特別な栄養バランスを含んだ手作りごはんを与えるという人もいるでしょう。しかししっかり計算しないと逆に犬の持病を悪化させてしまう危険性があります。
 慢性腎臓病によいとして推奨されている手作り食のレシピが栄養要求を満たしているかどうかが検証されました出典資料:Larsen, 2012)。犬向けのレシピ39種類と猫向けのレシピ28種類を対象とし、含有カロリー数やマクロ栄養素のバランスを解析したところ、NRC(全米研究評議会)の推奨基準を満たしているものは1つもなかったと言います。
 犬向けレシピでは76.9%(30/39)、猫向けレシピでは42.9%(12/28)において粗タンパク質もしくは最低1種類のアミノ酸が基準値を下回っており、ミネラルでは塩素、セレン、亜鉛、カルシウム不足が多く確認されたそうです。
 栄養的にアンバランスな手作りごはんを長期的に与えていると、持病が改善するどころか逆に悪化してしまう危険性があるということです。

長期的な給餌による悪影響

 仮に栄養バランスが完璧な手作りごはんを用意できたとしても、それを長期的に給餌した時の影響に関しては誰も予見できません
  近年話題になっているのが「グレインフリー」(グルテンフリー)と称されるドッグフードによる健康被害です。グレインフリーとは小麦や米といったメジャーな穀物を意図的に排除したドッグフードのことで、小麦に対してアレルギーを抱えている犬の飼い主や、「なんとなく健康そう」というイメージに飛びついた飼い主の間で人気を集めています。
 しかし2018年7月、アメリカ食品医薬品局(FDA)はグレインフリーのドッグフードが犬の拡張型心筋症を引き起こしている可能性を否定できないとの注意勧告を行いました。詳しくは以下のページで解説してありますのでご参照ください。 グレインフリーのドッグフードと犬の拡張型心筋症の関係 グレインフリーのドッグフードはやはり犬の心臓に悪い? 【2019年2月のFDA報告】グレインフリーのドッグフードと拡張型心筋症との関係性  因果関係が完全に解明されたわけではありませんが、重要なのは特定の食材を長期的に給餌した場合の影響に関しては誰も知らないという点です。手作りごはんの食材としては様々なものが用いられます。通常のドッグフードには含まれていないようなマイナーな食材を用いる場合は、全く予期していなかった何らかの健康被害が出る可能性を覚悟しておかなければなりません。

栄養過剰・栄養不足

 犬に手作りごはんを与える時の最大の難関は栄養バランスです。海外においても日本国内においても、犬に必要な栄養素を完璧に満たしたレシピはほぼありません。特定の栄養素が不足していたり逆に多すぎたりするアンバランスな手作りごはんを長期的に与え続けると、犬の健康を悪化させてしまう危険性があります。
 アメリカ国内で手作りごはんを与えられている犬35頭と市販フードを与えられている犬44頭を対象とし、食事内容がAAFCO推奨基準(1997年版)を満たしているかどうかが検証されました出典資料:Streiff, 2002)。その結果、手作りごはんグループにおいてはエネルギー、脂質、タンパク質に関してAAFCO基準を上回っていたのに対し、カルシウム、カルシウム:リン比率、ビタミンA、ビタミンDは推奨基準を下回っていたと言います。またミネラルに関してはマグネシウム、マンガン、鉄分、ナトリウムが推奨基準を上回っていたのに対し、リン、銅、亜鉛は下回っていたとも。
 別の調査では116人の獣医師を対象とし、食品アレルギー症状を示す犬や猫に処方される低アレルゲン食に関するレビューが行われました出典資料:Cowell, 1992)。その結果、代替フードの素材として多く名前が挙がったのはラム肉、ラム肉ベースのベビーフード、米、じゃがいも、ウサギ肉、魚、鹿肉、豆腐だったといいます。また獣医師が患者に対し低アレルゲンフードとして推奨した食事の内容を調べたところ、およそ90%では必要栄養基準を満たしていなかったとも。
 さらにブラジル国内において100種類を超えるペット用手作りフードレシピを検証したところ、やはり栄養要求を完璧に満たしているものは1つもなかったと報告されています。レシピを考案したのが素人であれ栄養学の知識がある獣医師であれ、栄養バランスが完璧に取れたレシピを作ることは極めて難しいということがお分かりいただけるでしょう。 犬向け手作りフードの多くは必要栄養素が足りていない
それでも手作りごはんにチャレンジしてみたいという方は、次の「食材・レシピ編」へどうぞ!