トップ犬の文化犬の仕事

犬の仕事~警察犬から盲導犬まで犬が活躍する現場一覧リスト

 犬はその能力を生かして様々な分野で活躍しています。以下ではにおいを嗅ぐ能力である「嗅覚」、頭のよさである「頭脳」、そして生まれ持った性質とも言える「習性」の3つの観点から、犬の関わる仕事を解説していきます。写真や動画とともに詳しく見ていきましょう!

嗅覚を生かした犬の仕事

 犬の匂いを嗅ぎ取る能力、すなわち「嗅覚」(きゅうかく)は人間の100万倍~1億倍とも言われています。これは匂いの元となっている匂い物質の濃度が、人間にとっての限界値の100万分の1~1億分の1でも嗅ぎ取ることができるという意味です。倍率に幅がある理由は、鼻先の短い犬よりも長い犬のほうが嗅覚がよく、また嗅ぎ分ける対象が炭素を含まない無機物よりも、炭素を含む有機物の方が圧倒的に得意だからです。
 こうした犬の嗅覚を活かした仕事にはどのような種類があるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

麻薬探知犬の仕事

 麻薬探知犬(まやくたんちけん)とは麻薬類のわずかな匂いを嗅ぎ分けて見つけ出すよう訓練された犬のことです。
 麻薬探知犬の歴史は意外と新しく、1979年(昭和54年)にアメリカから連れてこられた2頭が成田空港に配置されたことに始まります。以後全国の主要な空港、港、郵便局などに拡大配備され、麻薬の摘発に大きな成果をあげています。税関~麻薬探知犬 空港に配備されている麻薬探知犬  麻薬探知犬は「アグレッシブドッグ」と「パッシブドッグ」の2種類に分かれます。アグレッシブドッグは、麻薬の匂いを感じると、貨物に接触してハンドラー(犬を操る人のこと)に知らせるタイプの犬で、 旅客の貨物、商業貨物、郵便物に隠されている麻薬類を発見するように訓練されています。一方、パッシブドッグは、麻薬の匂いを感じるとその場にしゃがみ込んでハンドラーに知らせるタイプの犬で、 旅客の手荷物や身辺に隠されている麻薬を発見するように訓練されています。麻薬探知犬の任期は約7年で、引退後は共に過ごしてきたハンドラーさんと暮らすことが多いようです。
 日本において麻薬探知犬として使われている犬種は、もっぱらジャーマンシェパードラブラドールレトリバーです。全国の税関でおよそ130頭の犬たちが活躍しています。
 麻薬の違法取引が多い海外では、仕事中に鼻から入った麻薬の粉末で犬が急性中毒に陥るとか、優秀な探知犬にギャングが懸賞金をかけると言った物騒な話もあります。

警察犬の仕事

 警察犬(けいさつけん)とは警察の業務をサポートする犬のことです。歴史は19世紀末にドイツのヒルデスハイム市警において使用されたのが始まりとされています。日本では1912年に警視庁がコリー犬を警察犬として採用したのが最初です。
 警察犬の代表的な仕事には以下のようなものがあります。まず足跡追及活動(そくせきついきゅうかつどう)では犯人の匂いや犯人の触ったものの匂いから犯人を追及・追跡します。臭気選別活動(しゅうきせんべつかつどう)は犯罪現場の遺留品(いりゅうひん)と容疑者の匂いとを照合して犯人を特定します。そして捜索活動(そうさくかつどう)では迷子、行方不明者、遭難者などを匂いから発見します。  現在活躍している警察犬には、直轄犬(ちょっかつけん)と嘱託犬(しょくたくけん)がいます。「直轄犬」というのは、警視庁と各県警管轄の下、訓練管理されている警察犬のことで、「嘱託犬」とは各県警で毎年実施している嘱託犬採用試験に合格した犬のことです。直轄犬と嘱託犬は1:10の割合で圧倒的に嘱託犬が多いですが、これは訓練所の設備や飼育管理費、担当者である警察官の人件費等の財政上の問題があるからです。
 なお、日本警察犬協会が警察犬に適していると指定しているのは以下の7犬種です。ゴールデンレトリバーでは映画にもなった「きなこ」が有名ですね。 日本警察犬協会
警察犬になれる7犬種
 また、民間の嘱託警察犬の中には指定犬種以外のものもわずかながらいます。トイプードルでは写真集にもなった「フーガ」と「カリン」が有名でしょう。
指定犬種以外の嘱託警察犬

災害救助犬の仕事

 災害救助犬(さいがいきゅうじょけん)とは、災害に遭遇して苦境にある人を助けるよう訓練された犬のことです。主に以下のような仕事を行います。
災害救助犬の種類
  • 地震救助犬地震救助犬(じしんきゅうじょけん)は地震などによる家屋崩壊現場で被災者を捜索します。
  • 山岳救助犬山岳救助犬(さんがくきゅうじょけん)は山での遭難者や行方不明者を捜索します。
  • 水難救助犬水難救助犬(すいなんきゅうじょけん)は海や湖で遭難者救助にあたります。
 災害救助犬の訓練や認定を行っている代表的な組織としては以下のようなものがあります。名前は似たり寄ったりですが、これらの認定組織が行っている訓練内容は全く同じというわけではなく、また設けている合格ラインも統一されていません。ですから災害救助犬がどの組織を卒業したかによって、能力にわずかな差が出てしまう可能性もあります。
災害救助犬認定組織
 認定を受けた災害救助犬は、都道府県警に警察嘱託犬として採用されるというパターンもあります。また徳島県のように、県の動物愛護管理センターに収容された保護犬を、災害救助犬として訓練するプロジェクトを進めているところもあります。現に2017年には、ふるさと納税を活用して訓練を受けた「玄」と「モナカ」が県の災害救助犬に認定されました。
災害救助犬の訓練風景
 以下でご紹介するのは、岐阜県警が行った災害救助犬の訓練風景を収めた動画です。
 震度6強の大型地震が発生してコンクリート家屋が倒壊し、瓦礫の中に人が取り残されている状況が想定されています。 緊急救助隊員とともに災害救助犬が現場に入り、持ち前の嗅覚を生かして被災者を探します。 元動画は→こちら

嗅覚を生かす変わった仕事

 嗅ぎ分ける匂いの種類を1つにしぼり、専門性を高めた犬の活躍の場は、探してみると至るところにあるようです。以下ではそうした高い専門性を生かし、人間の生活を補助するいろいろな犬の仕事をご紹介します。
嗅覚を生かした犬の仕事
  • 検疫探知犬検疫探知犬は禁止されている動物や植物が誤って国内に入り込まないよう、税関において貨物の検査を行います。麻薬捜査犬とは違い、ビーグルなどの中型犬も多く採用されています。
  • DVD探知犬主として違法コピーで大量に複製された海賊版DVDを、空港などで探知します。嗅ぎ取るのは、DVDに含まれるポリカーボネイト樹脂の臭いです。
  • 放火探知犬放火探知犬(ほうかたんちけん)は火事の現場などで主としてガソリンや灯油の臭いを嗅ぎ分けます。もしガソリン臭が探知された場合は、放火である可能性が大きいと判断されます。アメリカに数頭いますが、日本にはまだ導入されていません。
  • 遺体探知犬遺体探知犬(いたいたんちけん)は、主に人間の遺体を発見するよう訓練された犬のことで、アメリカで活躍しています。天災による被災地や、殺人事件の現場などで遺体を発見する際に動員され、水から立ちのぼる匂いを追跡することも可能なことから、溺死者や水底に沈んだ遺体を見つけ出す際にも役立っています。
  • ガン(癌)探知犬ガン探知犬は、ガン細胞を嗅ぎ取るといわれています。具体的にどのような物質が人体から揮発(きはつ)しているかは定かではありませんが、 海外において犬が皮膚ガンを見つけたという事例が多数報告されています。また、日本においては人間の呼気(こき=吐いた息)の臭いからガンに罹患(りかん)しているかどうかを探知する犬もいます。 犬のガン探知能力
  • 低血糖探知犬低血糖探知犬は糖尿病患者に寄り添い、血中のグルコース濃度(血糖値)が下がる前にアラートを発するよう訓練されています。海外では飼い主とともに小学校や中学校に通うことが特別に許可され、卒業アルバムにまで載ってしまう犬の話題がしばしばニュースになります。 犬の低血糖探知能力
  • シロアリ探知犬シロアリ探知犬は、シロアリの放つ特定の臭いを嗅ぎ取ります。シロアリ自体が出すフェロモン、エサのありかを探す時に残す微量の化学物質の痕跡、シロアリの体内に寄生している微生物による消化作用から発生するわずかな臭いなどを嗅ぎ分けるようです。
  • ハブ探知犬ハブ探知犬は、毒をもつヘビの一種である「ハブ」の居場所を嗅覚で嗅ぎ当てます。かつて沖縄県にいましたが、現在は費用対効果の面から育成されていないようです。
  • トリュフ探知犬トリュフ探知犬は、地中に埋まっている三代珍味の一つ「トリュフ(キノコの一種)」を嗅ぎ当てます。フランスなどではプードルが使われることが多いようです。ちなみに メスブタもトリュフを見つけるときに利用されますが、これはトリュフの中にオスブタの発するフェロモンと似た臭いが含まれているためです。
  • トコジラミ探知犬トコジラミとはいわゆるナンキンムシのことで、刺されると激しいかゆみを引き起こすことで知られています。2010年、ニューヨークでトコジラミが大発生した際は、「トコジラミ探知犬」という特殊な能力をもつ犬が発見に貢献しました。トコジラミの調査に犬の鼻が活躍
  • 考古学犬オーストラリアのドッグトレーニング協会に所属する「ミガルー」という名の雑種犬が、肉片のついていない人骨をかぎ当てることができる、世界初の「考古学犬」として活躍しています。広大な敷地の中から、約600年ほど前の人骨をかぎ分けることもできるようです。
  • 水漏れ探知犬水漏れ探知犬は破損した水道管から漏れ出した水を嗅覚で探知します。厳密に言うと水に含まれる塩素を嗅ぎ取るのが仕事で、検査機器を用いるのが難しい場所をカバーします。
NEXT:頭脳を活かした仕事

頭脳を生かした犬の仕事

 犬はとても頭のいい動物で、個体によっては、人間の3歳児以上の能力を持つものもいます。以下でご紹介するのは、頭脳を生かした犬の仕事の数々です。

盲導犬の仕事

白いハーネスが盲導犬の目印です。  盲導犬(もうどうけん)は、目の不自由な方々が自由に外出できるよう、道の中にある段差(だんさ)や角などの障害物を教えて、安全に歩くためのお手伝いをしてくれます。また盲導犬は、1978年(昭和53年)の道路交通法(どうろこうつうほう)の改正により、車の一時停止や徐行(じょこう=スピードを緩めること)が義務化され、道路を通行する際の特別な保護を受けています。

盲導犬の仕事

 盲導犬の仕事は、目の不自由な方の日常生活を支援することです。
 具体的には「道路の端を歩く」、「段差で立ち止まる」、 「障害物を回避する」、「目標物に誘導する」などです。また視覚障害者と生活を共にすることにより、愛情の対象として心の支えになるという役割もあります。
 盲導犬は通常、白か黄色のハーネス(胴輪)をしています。このハーネスを装着している最中は仕事中ですので、 「声を掛ける/口笛を吹く」、「なでる」、「餌(えさ)を与える」など、犬の集中力を邪魔するような行為は慎みましょう。 日本盲導犬協会
【動画】盲導犬の仕事内容
 以下でご紹介するのは日本盲導犬協会が公開している入門編ビデオです。日常生活の中で働く盲導犬の姿、街で見かけたときの注意点、盲導犬に関する法律などがわかりやすく解説されています。 元動画は→こちら
 2002年10月に「身体障害者補助犬法」(しんたいしょうがいしゃほじょけんほう)が施行され、従来の公共機関のみならず、デパート、スーパー、ホテル、旅館などの 民間施設にも盲導犬の受け入れ義務が発生しました。しかし、経営者が法律を知っていても、末端の従業員がこの法律の存在自体を知らなかったり、或いは 施設を利用する他のユーザーが犬を不必要に怖がったりするといった問題があるため、盲導犬の完全受け入れには程遠いというのが現状です。こうした社会の無理解を受け、2015年6月には「障害者差別解消法」が制定され、状況の改善が図られています。

盲導犬の一生

 盲導犬の一生は、通常以下のようなものです。2004年の映画「クイール」を見た方はすでにご存知でしょう。
盲導犬のライフステージ
  • 誕生~生後2ヶ月  盲導犬の素質を持った両親から子犬が繁殖され、盲導犬候補として育てられます。 この時期は主として母犬や兄弟犬と共に生活し、社会性を養います。
     盲導犬としてはジャーマンシェパードゴールデンレトリバーラブラドールレトリバーなどが使用されますが、 見た目の愛らしさからラブラドールレトリバーが多用される傾向にあります。
  • 生後2ヶ月~1歳→パピーウォーカー  通称パピーウォーカーと呼ばれるボランティアの一般家庭に預けられます。この時期の目的は人間との社会性を養うことですので、ただひたすらに愛情を受けて育てられます。
     なお子犬が12週齢前にボランティア家庭に移った場合、90%の確率で盲導犬になれるのに対し、子犬が犬舎に12週齢以上おかれた場合、その確率が30%にまで落ちるといわれています(「犬と猫の行動学」・インターズー)。この時期に人間から受ける愛情がいかに重要かを示す一例と言えるでしょう。
  • 1歳~2歳→訓練  1歳になった頃から約1年間かけて、盲導犬として必要な資質をトレーニングします。 訓練を行うのは、全国に9ヶ所ある盲導犬育成協会です。
    🐕服従訓練(ふくじゅうくんれん)では、人間と生活する上で必要となる基本的な動作(食事、トイレ、座れ、伏せ、待てなど)を訓練します。 指示語(しじご)を日本語を覚えさせた場合、女性言葉や方言による微妙な差異が出て犬の混乱の原因になるため、指示語は英語(Sit/Down/Waitなど)で統一されるのが一般的です。
    🐕誘導訓練(ゆうどうくんれん)では、盲導犬の仕事の項で述べた「道路の端を歩く」、「段差で立ち止まる」、「障害物を回避する」、「目標物に誘導する」 など人を導くための訓練を行います。
    🐕目隠しテストでは、訓練者が目隠しをして実際に盲導犬使い、仕事の予行演習します。
    🐕共同訓練(きょうどうくんれん)では、実際に目の不自由な方が犬を使って犬の適性を見極めますが、この訓練(4~6週間)を通し、 視覚障害者の方も盲導犬の使い方や世話の仕方をはじめ、盲導犬に関する必要な知識を身につけます。 また盲導犬と視覚障害者とがお互いを理解し合う重要な期間でもあります。
  • 1歳半~10歳→ひとり立ち  共同訓練を終了すると、視覚障害者は自宅に盲導犬を連れて行き、共同生活が始まります。盲導犬としてのひとり立ちです。
  • 10歳~→引退  盲導犬の引退に年齢制限はありませんが、10歳くらいになると目を始め老化する部分が多くなってきますので、 おおよそこの位の年齢で引退する盲導犬が多いようです。
     引退後は普通の愛玩犬(あいがんけん=ペット)として引き取られたり、リタイア犬ボランティア (引退した盲導犬を専門に受け入れるボランティア家庭)の元に引き取られます。

盲導犬のため私たちができること

 盲導犬を育成するために、私たちにもできることが幾つかあります。
デパートやスーパーなどでたびたび目にする犬の募金箱は、盲導犬を支援するためのものです。  まずは盲導犬募金です。盲導犬を1匹育成するには、約300万円の経費が必要だとも言われていますが、こうした盲導犬育成に必要な資金の約95%は募金から成り立っています。お店のレジ付近でよく見かける「ラブラドール募金箱」に小銭を入れるだけで、 私たちも盲導犬育成に間接的に協力することができます。
 繁殖犬ボランティアとして協力することもできます。「繁殖犬」とは、盲導犬の候補となる子犬を産む母犬のことです。繁殖犬が妊娠していない期間は、 通常のペットとほとんど変わらない生活をしますが、母犬が妊娠して子犬を出産する場合は、出産・子育てのお手伝いをすることもあります。
 引退犬ボランティアとして協力することもできます。これは、10歳前後の引退した盲導犬を引き取り、余生を共に過ごすというものです。この場合、医療費負担は盲導犬協会がしてくれます。

聴導犬の仕事

聴導犬はオレンジ色のベストが目印です。  聴導犬(ちょうどうけん)とは、聴覚障害者の生活が円滑に運ぶようにサポートする犬のことです。
 具体的な仕事内容は生活音を飼い主に知らせることです。屋内においてはドアチャイム、電話やFAXの音、 目覚まし時計、やかんの沸騰音、火災報知器、キッチンタイマーの音などを聞き分けます。屋外においては後ろから来る自転車のベルや自動車のクラクション音などを聞き分けます。
  外にいるときはオレンジ色のチョッキを着てオレンジ色のリードをつけていますので、一般人にも見分けることができます。見かけた場合は盲導犬の時と同様、声を掛けたりえさを与えたりして、 犬の集中力を邪魔(じゃま)しないように注意しましょう。 日本聴導犬協会
【動画】聴導犬の仕事内容
 以下でご紹介するのは日本聴導犬協会が作成した聴導犬の仕事を紹介する動画です。部屋の中でどのような役割を担っているのか、そして家の外に出た時どういった活躍の仕方があるのかについてわかりやすく解説してあります。なお動画中に出てくる数値データは2011年時点のものです。 元動画は→こちら
 2002年10月、「身体障害者補助犬法」が施行され、聴導犬も民間施設への受け入れが義務付けられました。 しかし盲導犬と同様、受け入れ態勢が万全とはいえないのが現状です。こうした社会の無理解を受け、2015年6月には「障害者差別解消法」が制定され、状況の改善が図られています。

介助犬の仕事

介助犬は「介助犬」と明記されたチョッキを着ています。  介助犬(かいじょけん)とは、手足が不自由な人の日常生活を助けるために特別に訓練された犬です。
 具体的な仕事内容は、落としたものを拾う、必要な物を手元まで持ってくる、ドアの開閉、スイッチのオンオフ、上着や靴下などの衣服を脱がせる、身障者(しんしょうしゃ)の体を支える、車椅子の移動補助、他の人を呼びに行く、などです。
 屋外においては「介助犬」と明示されたチョッキなどを着ていますので、一般人にも見分けが付きます。見かけた場合は盲導犬の時と同様、声を掛けたりえさを与えたりして、犬の集中力を邪魔(じゃま)しないように注意しましょう。 日本介助犬協会
【動画】介助犬の仕事内容
 以下でご紹介するのは日本介助犬協会が設立した介助犬総合訓練センター「シンシアの丘」を紹介する動画です。お座りや伏せといった基本動作訓練が終わると、「落としたものを拾う」「靴下を脱がせる」など50ほどの介助動作訓練に入ります。また屋外でも同じ動作が再現できるよう、環境や刺激に慣らすパブリック訓練が行われます。 元動画は→こちら
 介助犬になるまでの訓練期間は6ヶ月~1年。必要な費用は350~500万円です。ユーザーの体の状態に合わせた「オーダーメイド」の訓練が必要なため育成に時間と手間がかかり、圧倒的に頭数が少ないというのが現状です。
 兵庫県宝塚市のプログラマー木村さんと生活を共にしていた介助犬シンシアは有名です。彼女の献身的な仕事ぶりは人々の共感を呼び、介助犬を含めた補助犬の認知運動を盛り上げるのに一役買いました。結果として2002年10月、「身体障害者補助犬法」が施行されるに至りましたが、この法律の実現にはシンシアの存在が大きな影響を及ぼしています。 有名な犬「シンシア」 NEXT:習性を活かした仕事

習性を生かした犬の仕事

 犬の祖先はオオカミですが、「イヌ」という別の動物となった今でも、オオカミ時代の癖をたくさんもっています。以下では、犬の習性が関わる仕事を中心にご紹介していきます。

牧畜犬(牧羊犬)の仕事

牧羊犬には頭のよい犬種が選ばれます。  牧畜犬(牧羊犬)とは、牧場において家畜が散らばらないように監視したり、 外敵から家畜を守る犬のことです。家畜としては羊、牛、山羊などが挙げられます。
 機械化の進んでいなかった時代においては、家畜が寝泊りする牧舎と、草のある放牧地までの家畜の移動は、主として牧畜犬(牧羊犬)によって行われていました。 また、家畜が放牧中に害獣(がいじゅう=熊や狼)に襲われたりすることが頻繁にあったため、こうした外敵から家畜を守るのも牧畜犬(牧羊犬)の重要な仕事でした。ですから牧畜犬(牧羊犬)の仕事は、自分のテリトリーや仲間を守るという犬の習性を生かした仕事と言えるでしょう。
【動画】牧羊犬による羊の追い込みの様子
 以下でご紹介するのは北海道えこりん村において開催されている牧羊犬ショーの動画です。牧羊犬が羊たちを目標となる策の中に上手に追い込む様子が確認できます。 元動画は→こちら
 犬を機能別で分類した際、アメリカンケネルクラブ(AKC)にはハーディング・グループ(Herding Group) 、イギリスのケネルクラブ(KC)にはパストラル・グループ(Pastral Group)というカテゴリがありますが、これは牧畜犬(牧羊犬)を指します。「herd」とは”家畜の番をする”の意味、「pastral」とは”牧畜の”という意味です。 牧羊犬の代表犬種一覧  現在でも牧場において牧羊犬として活躍している犬種がいます。具体的にはボーダーコリーシェルティ(シェットランドシープドッグ)、オーストラリアンキャトルドッグ、オーストラリアンケルピーなどです。ジャーマンシェパードもハーディンググループに分類されることがありますが、そもそも「シェパード」とは「羊飼い/牧羊犬」の意味で、直訳すれば「ドイツ生まれの牧羊犬」となります。

猟犬の仕事

ハンターの手助けをするのが猟犬です。  猟犬(りょうけん)とは狩猟者のと共に行動し、狩猟のサポートをする犬のことです。具体的には「獲物の場所を猟師に教える」、「獲物を狩り出す」、「獲物を仕留める」、「獲物を回収する」などの仕事を行います。犬の狩猟本能や持来欲(じらいよく=くわえて持ってくる本能)を利用した仕事ともいえます。
 犬を機能別で分類した際、アメリカンケネルクラブ(AKC)にはスポーティング・グループ(Sporting Group) 、イギリスのケネルクラブ(KC)にはガンドッグ・グループ(Gundog Group)というカテゴリがありますが、これは猟犬を指します。「sporting」とは”狩猟好き”という意味です。
 猟師に獲物の居場所を教える、通称「ストップ犬」の代表はセッターやスパニエルです。また仕留めた獲物を回収して猟師の元までもってくる、通称「リトリーブ犬」の代表はゴールデンリトリバーラブラドールリトリバーフラットコーテッドリトリバーなどのリトリバー種です。「retriever」が「回収するもの」という意味であることからもよくわかりますね。
 日本で銃を用いるハンターになるには、都道府県知事が行う狩猟免許試験に合格し、「第一種銃猟免許」を取得することが必要です。また実際に狩猟を行うには、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」に基づいて設定された「猟区」、及び「狩猟期間」を遵守(じゅんしゅ)しなくてはなりません。
😢一部の猟犬は…  猟犬はハンターと共に行動しますが、狩猟期間が終わると用済みとしてそのまま山林に放置されたりする残念な事例もわずかながらあるようです。毎年、狩猟期間が終わると猟区の近くで捨て犬や迷い犬が増加する背景には、こうしたモラルの無い一部の猟師の存在があります。なお猟期は北海道なら9月15日から翌年の4月15日まで、北海道以外の地域では10月15日から翌年の4月15日までとなっています。

競争犬の仕事

日本にはいませんが、海外ではレース用の犬が飼育されており、競争犬と呼ばれます。  競争犬(きょうそうけん)とは、いわゆる「ドッグレース」において賭けの対象となって走る犬のことです。競馬で言う所の「競走馬」に相当します。
 犬を走らせる際は、通称「おとり(Lure)」と呼ばれる疑似獲物(ぎじえもの)をコースに合わせて高速で動かします。そしてこの「おとり」を捕まえようとして犬は走りますが、 動くものを追いかけて捕らえようとする犬の習性を利用した仕事といえるでしょう。
【動画】ドッグレースの模様
 以下でご紹介するのはドッグレースの動画です。まるで競馬のように実況中継を交えながら進行します。 元動画は→こちら
 日本においては公営ギャンブルとして「競馬」、「競輪」、「競艇」、「オートレース」は認められていますが、「競犬」は認められていません。従って民間のドッグパークなどで余興(よきょう)として犬のカケッコが見られるくらいです。しかし海外においてはお金を賭けたギャンブルとして運営されている国もあります。具体的にはイギリス、グアム、マカオ、アイルランド、オーストラリアなどです。 レースドッグの代表犬種、ウィペットとグレイハウンド  競争犬として使用されるのはグレイハウンド(写真左)やウィペット(写真右)などのように足が速く、見るものに興奮を感じさせる犬種が選ばれます。
😢一部の競走犬は…  お金儲けが絡んでくると、競争犬はお金を稼ぐ為の単なる道具に成り下がる傾向があります。結果としてレースに勝てない弱い犬や引退した犬は、 用無しとして処分(つまり殺されること)の対象になることも少なくないようです。動物愛護の観点からドッグレースを禁止している国もあります。例えばアメリカでは、ウエストヴァージニア州、アラバマ州、アーカンソー州、アイオワ州、テキサス州の5州を除いて禁止されており、公認されている州においても縮小する方向で検討が進められています(2019年時点)。

闘犬の仕事

オリの中で犬同士をけしかけ、争わせるのが闘犬で、長い歴史を持ちます。  闘犬(とうけん)とは、娯楽や賭け事の為に他の犬と戦う犬のことです。テリトリーに入ってきた外敵を攻撃するという犬の習性を利用した使い方といえます。
 娯楽の少なかった19世紀以前には、犬と犬のみならず、犬と牛を戦わせたり(Bull Baiting)、犬と熊を戦わせる(Bear Baiting)などして余興を盛り上げていました。しかし現在は動物愛護の観点からほとんどの国で闘犬が禁止されています。
 日本においては、かつて高知県と秋田県で闘犬が盛んでした。明治時代になると秋田県における闘犬が禁止され、高知県が闘犬のメッカとして残りました。しかし闘犬を見世物としていた「土佐闘犬センター」は業態を変えて民間施設「とさいぬパーク」となり、このパークも2017年5月に半世紀の歴史に幕を降ろしています。こうした衰退の背景にあるのは「動物虐待」という非難の声です。
 高知県に代わり、2019年時点で闘犬がいまだに盛んに行われているのは青森県で、年に4回開催される大会では柵で囲まれた直径約4メートルの土俵上で、犬たちが痛々しい流血戦を繰り広げています。 闘犬の代表犬種であるマスティフと土佐犬  闘犬で用いられるのはマスティフの血を引く土佐犬(とさいぬ)です。しかし日本で闘犬は公営ギャンブルとしては認められていないため、人間の行う格闘技興行のように、観客から徴収する入場料などが主な収入源となります。基本的に殺し合うまで戦い続けることはありませんが、お互いに牙を立てて噛み合いますので、当然流血戦となります。
【動画】闘犬場
 以下でご紹介するのは青森県で年に4回開催されている闘犬大会の模様を収めた動画です。痛々しい場面があるので閲覧注意とさせて頂きます。 元動画は→こちら
 ところで闘犬は動物虐待に当たらないのでしょうか?動物愛護法による虐待の判断基準は「動物を死に至らせたり、生存に重大な影響を及ぼすような傷を負わせる性質を有するかどうか」という点になります。つまり一律で「闘犬はダメ!」と規制するのではなく、個々の事例を見た上で基準を超えているかどうかが判断されるということです。
 それに対し、都道府県レベルで闘犬を動物虐待として禁止しているところもあります。具体的には北海道、東京都、神奈川県、石川県、福岡県です。これらの自治体においては個別の条例が設けられており、闘犬、闘鶏、闘牛その他の動物を互いに闘わせたり、これを見せる目的で公衆を集めることが禁止されています。もし大会や興行が行われていたら条例違反ですので、最寄りの動物愛護センター(ない場合は保健所)に通報しましょう。 環境省「虐待の防止」について
😢一部の闘犬は…  アメリカにおいて闘犬は禁止されていますが、人目を忍んでギャンブルとしての闘犬が行われているようです。ルールは色々ありますが、「犬の所有者が対戦者に謝るまで」や「どちらか一方の犬が戦意を喪失するまで」や、極端な場合は「どちらか一方の犬が死ぬまで」といった過激なルールで行う場合もあるようです。

害獣駆除犬の仕事

田畑の農作物を荒らす猿やイノシシ、クマなどの害獣を駆除するための犬が害獣駆除犬です。  害獣駆除犬(がいじゅうくじょけん)とは、人間の生活に危害を加える野生動物を駆逐する犬のことです。自分のテリトリーを守ろうとする犬の習性を利用した仕事といえます。
 日本では猿を対象とした「モンキードッグ」や熊を対象とした 「ベアドッグ」などが、長野県や群馬県で活躍しています。犬種の指定は特になく、基本的にどんな犬でもモンキードッグになることはできますが、山林を走って移動するという任務上、小型犬には向いていないでしょう。能力的には「猿や熊などの害獣を識別できること」、「人に危害を加えないこと」、 「人間から離れてしまっても、呼んだら戻ってくること」などの素養(そよう)が求められます。

セラピードッグの仕事

犬と触れ合うことによる癒し効果は、単なる気のせいではなく、れっきとしたセラピー効果があります。  セラピードッグとは、病院や老人介護施設などを訪問し、入院している人の心に安らぎを与える犬のことです。海外ではAAT(Animal Assisted Therapy=動物介在療法=どうぶつかいざいりょうほう)として50年近い歴史がありますが、 日本での認知度はまだ低いのが現状です。
 犬と触れ合うことで血圧が下がったり、リラックスしたときに出る脳波(アルファ波)が出たりすると言われています。また、認知症に対する悪化予防効果や自閉症の治療効果なども、現在科学的に検証されています。
 犬種の指定はなく、捨て犬でも飼い犬でも、 小型犬でも大型犬でもセラピードッグになることができますが、病院や施設内での振る舞いや病人との接し方など、 セラピードッグとして数10の試験をクリアする必要があります。 聖マリアンナ医科大学病院のセラピードッグ「ミカ」と「モリス」  日本では認知症患者や小児がん患者、長期入院患者などを対象として活躍するセラピードッグ(ファシリティードック)が主流です。一方海外では医療・介護施設だけにとどまらず、以下に挙げるようなさまざまな施設や機関でその癒やしの力を発揮しています。
セラピードッグが活躍する場所いろいろ
  • 空港
  • 葬儀社
  • 小学校
  • 大学
  • 検察局
  • 警察署
  • 歯医者
セラピードッグの詳しい解説に関しては「犬のアニマルセラピー」というページも参考にしてください。