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ドイツのティアハイムと動物保護

 インターネット上ではまるで伝言ゲームのように「ドイツのティアハイムでは…」といった文言を聞くことができます。日本と決定的に違うのはこのティアハイムの存在です。突き詰めて考えると、慈善団体に寄付をしたりボランティアとして参加することが当たり前だと言う、文化や国民性の違いに行き着きます。

ティアハイムとは何か?

ドイツの各都市に設置されている動物保護施設のことです。

 「ティアハイム」(tierheim)とはドイツ語で「動物」(tier)の「家」(heim)という意味です。特定の団体や組織を意味しているわけではありません。通常はティアハイムの後ろに都市名をつけ「ティアハイム・ワイマール」「ティアハイム・ロストック」「ティアハイム・ベルリン」などと呼ばれます。
 法律的な定義は「10頭以上の動物を飼育している」「動物と飼育方法の専門知識を持っている」「専門知識があると行政の獣医師に認められている」施設のことです。ティアハイムとして運営するためには州の獣医師によるチェックを受け、これに合格しなければなりません。
 規模にはかなりの差があり、1人で運営している小規模なところもあれば、数十人のスタッフを抱えている大規模なところもあります。スタッフの中には給料をもらっている人もいますが、多くはボランティアやインターンです。
ハンブルグのティアハイム
 以下でご紹介するのはハンブルクにあるティアハイムの動画です。譲渡を前提としており、ケージの中に閉じ込めっぱなしにせず、犬舎も猫舎も十分なスペースをとってあります。 元動画は⇒こちら
 公的なものもありますがその数は年々減り、民間のティアハイムに行政が支援したり契約したりしているケースが増えています。
 活動内容も一様ではなく、保護した動物の譲渡を斡旋しているところもあれば、重い病気にかかった動物を預かるホスピスのようなところもあり、また譲渡ではなく終生飼養を目的とした老犬ホームや老猫ホームのような施設もあります。 ティアハイム・メミンゲン ティアハイム・デルブリュック ティアハイム・バイロイト
ティアハイム・ミルビッツ ティアハイム・ミュンヘン

ティアハイムはどのような動物を保護するのか?

主な保護動物は犬と猫です。

 場所や規模に関わらず、ティアハイムでは飼い主からの犬や猫の引き取り要請に応じています。ただしすべての要請に応じているわけではなく、病気で治療費がかかりそうなときや老齢で譲渡先がみつかりにくい時などは、引き取りを拒否することもあります。
 なお大規模で潤沢な資金を抱えたティアハイムの場合、犬や猫のみならずエキゾチックアニマルと呼ばれる爬虫類や鳥類のほか家畜動物を保護するケースもあります。

ティアハイムの数は?

ドイツ国内でティアハイムをもつ団体は約1,400あります。

 1,400のうち550団体以上が「ドイツ動物保護連盟」に加盟しています。連盟への加盟資格は「公益団体になっていること」「規約を守っていること」「連盟の州支部の会員であること」「各協会の会員が加盟を可決していること」「誠意のない団体と協力関係にないこと」です。また連盟に属するメリットとしては「情報の提供」「法律関連サービスの提供」「物資や資金援助」「組織力による行政との交渉」などが挙げられます。
 所属団体から支払われる会費は一旦連盟にプールされ、資金面で困窮している団体に再配分されるという仕組みになっています。ですから資金が潤沢な団体の場合、あえて所属せずに活動しているところもあります。

ティアハイムの運営資金は?

基本的な運営資金は会員からの会費、引き取り料金、譲渡費用、寄付、故人からの遺贈です。

 資金源の中で最も大きな割合を占めているのが寄付と遺贈です。2012年のデータでは、連盟に所属しているティアハイム全体の収入約1,060万ユーロ(13億5千万円)のうち、85%に相当する900万ユーロ(11億5千万円)が寄付・遺贈によるものだったといいます。
 引き取り料金に関しては猫で30ユーロ(=3,800円)くらい、犬で50ユーロ(=6,300円)くらいが相場です。しかし州によっては350ユーロ(=45,000円)という高い料金を設定しているところもあります。
 引き取りを求める飼い主の中には所得の少ない人もいるため、実際に支払いを求めるのは難しいケースも少なくないと言います。
 新しい飼い主に譲るときの譲渡費用はティアハイムによって変動します。例えばハノーファー・ティアハイムの場合、手数料として猫で60~80ユーロ(7,640~10,200円)、犬だと大型犬で160ユーロ(2万円)の費用を徴収しているといいます。
 行政機関から補助金をもらっているところもありますがせいぜい獣医療費分程度で、運営的には常に苦しい状態にあります。実際、2015年1月には資金難のためティアハイム・ベルグハイムが閉鎖し、国内の別団体(BMT)に引き継がれるという事態が起こりました。

ティアハイムベルリンとは何か?

NGOであるベルリン動物保護協会が運営するヨーロッパ最大級の動物保護施設です。

 160名の常勤職員のほか、およそ500名のボランティアにより運営が支えられています。動物は、サルから爬虫類まで1,400頭を収容。年間の引き受け数は1万頭前後で、市からの補助金を一切受けずに運営しています。 ティアハイム・ベルリンの敷地(航空写真)  財源は他のティアハイム同様、一般からの寄付金、1万5千人の会員からの会費、故人からの遺贈です。また施設の一部(猫舎)にペットフードの企業名をつけることでスポンサー料金も受け取っています。 ティアハイム・ベルリンの施設外観  年間の運営費は890万ユーロ(11億3千万円)ですが、資金がうまく集まらない時は500万ユーロ(6億3千万円)という莫大な赤字を出すこともあります。財源確保のため、施設でバザーやオリジナルの商品販売を行ったり、併設した動物病院で診療収入を得たり、個人企業に対して寄付金を募るといった努力をしています。
 スポークスパーソンによると「動物保護組織にとって財源確保は非常に重要であり、そのための専門スタッフを雇用しているケースもある。広報担当と財源確保のためのマネージャーは、組織運営に欠かせない存在」とのこと。
ティアハイム・ベルリン
 以下でご紹介するのはヨーロッパ最大級の動物保護施設「ティアハイムベルリン」の動画です。膨大な金額に達する維持運営費を捻出するため、専門スタッフを雇用しています。保護施設に「清貧」を求める日本人からすると「金の匂いがするうさん臭い団体だ!」となるかもしれませんが、お金がなければ運営が立ち行かなくなることも事実です。 元動画は⇒こちら
 殺処分(安楽殺)は基本的に行っておらず、年間で10頭を超えることはあまりありません。もし行う場合には獣医師を含む委員会で総合的に判断されます。具体的には「非常に大きな苦しみがある」場合などです。
 病気や高齢の野良猫を終生飼養するスペースが設けられており、路上死した動物だけでなく、飼われていたペットの遺体を埋葬するための墓地も用意されています。
 犬が譲渡されるまでの平均日数は148日。危険性があるとされた犬の場合は448日にまで伸びます。

日本の保護施設との違い

 日本においては各自治体に公的な保健所や動物愛護センターが設けられており、飼い主がいない犬や猫の収容と管理を受け持っています。ドイツにおける決定的な違いは、動物の保護はほぼ民間のティアハイムが受け持っているという点です。また「動物をみだりに殺してはいけない」という動物保護法を遵守し、基本的に殺処分をしていない点も大きな違いと言えるでしょう。こうした民間の「ノーキルシェルター」を可能にしているのは、多額の寄付金および労力を無償提供してくれるボランティアの存在です。
 日本にも民間の保護施設はたくさんありますが、寄付金だけで運営が成立しているようなところはかなり限られています。過去に詐欺まがいの事件が多発したため、「動物愛護=うさん臭い」というステレオタイプなイメージがついてしまっている事実は否定できません。
 近年は日本でも「ふるさと納税」ができたことにより、一昔前よりは寄付をしやすいシステムができあがってきました。一部の保護団体は多額の寄付金を集め、まるでティアハイムのようなノーキルシェルターを一時的に実現したこともあります。この団体が良い見本になればよかったのですが、残念なことにその後使途不明金の問題や劣悪環境下に犬を閉じ込めていた問題、そして説明責任を果たしていないといった問題が明るみに出たため、逆に「動物愛護団体はやっぱり胡散臭い!」というイメージを強める結果となりました。
 とはいえ、使い道を限定した目的税という形で納税できるシステムは、寄付をすると言う習慣がなかった人にとってもとっつきやすい画期的なものだと思われます。まだまだ黎明期ですが、寄付金だけで運営が成り立つような「日本版のティアハイム」が生まれることが望まれます。